リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

側頭動脈生検陽性GCA vs 陰性GCA vs GCA mimicker~3つのコホートの比較~

巨細胞性動脈炎(GCA)にとって側頭動脈病変の有無を確認する事は非常に重要です。

1990年のACRの分類基準でも『側頭動脈の異常』は一項目となっております。

 

一方で側頭動脈病変がない大血管型の巨細胞性動脈炎(LV-GCA)も存在します。

 

こちらは以前にまとめた大血管型の巨細胞性動脈炎のReviewです。


あるコホート研究の報告(PMID=25193809)では側頭動脈病変があるGCA1990年のACRの分類基準95%満たしたのに対して、放射線診断的にLV-GCAと診断された患者は39%にしか満たさなかったようです。

 

LV-GCAは大血管病変が主なので、基本的には生検が出来ません

 

では、このようなLV-GCAと側頭動脈病変のある標準的なGCAとでは臨床情報で何が異なるのでしょうか?

 

今までいくつかのコホート研究が報告されて来ましたが、今回ご紹介するのは、Mayo clinicで実施された3つのコホート研究から、591人の患者を側頭動脈生検陽性群、陰性群、GCA mimicker群に分類し、その臨床的特徴を比較した論文です。

①側頭動脈生検が陽性の患者コホート(2016年, PMID=26385368)

②側頭動脈生検が陰性の患者コホート(1990年, PMID=2202311)

GCAが疑われたが、別の診断(GCA mimicker)がついたコホート(筆者の施設)

 →2009年1月1日から2010年12月31日まで

 →GCAが疑われ、生検が陽性、側頭動脈生検陰性のGCAと診断された患者は除外

 →最低6か月のフォローアップで違う診断がついた患者を対象

 

単一施設としては、 最大級の人数で、かつ、GCA mimickerを含めた3群の臨床症状を比較した研究は今までになく、斬新です。

 

 

Results

患者背景

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※上記Tableは少し見づらいですが、GCA患者396人(286人は側頭動脈生検陽性、110人は側頭動脈生検陰性)とGCA mimicker患者195人が特定されたようです。

 

側頭動脈生検陽性GCA患者と陰性GCA患者の比較

●側頭動脈生検陽性GCA患者と比較して、側頭動脈生検陰性GCA患者では、

 -若年(P=0.001)

 -初期症状から診断までの時間が短い(p<0.001)

 -1990年のACR分類を満たす頻度が低い(p<0.001)。

 -リウマチ性多発筋痛症が少ない(p=0.024)

 -顎跛行が少ない(p<0.001)

 -側頭動脈の異常が少ない(p=0.004)

 -上腕の跛行・PMRでない筋骨格痛・食思不振・倦怠感が多い(p<0.001)。

●診断時のESR値は同等だったが、CRP値、血小板、ALPは有意に側頭動脈生検陰性のGCA患者で低かった(p<0.001)。

※側頭動脈生検陰性のGCAの方が診断のまでの期間が短かったというのが意外でした。

 

側頭動脈生検陰性GCA患者とGCA mimicker患者の比較

側頭動脈生検陰性GCA患者と比較して、GCA mimicker患者は、

 -年齢と性別は類似

 -症状の発症から診断までの期間が長い(p<0.001)

 -1990年のACR分類基準を3以上満たす頻度が著しく低い(p<0.001 )

●頭痛の発生率は同等だが、GCA mimicker患者の方が非前頭側頭型顔面痛の発生率が高かった(p = 0.001)。

●さらに、GCA mimicker患者では、跛行症状が少なかった。

 -顎跛行(p=0.005)

 -上腕跛行(p<0.001)

 -下肢跛行(p=0.00)

●また検査時の動脈異常も少なかった。

 -側頭動脈拍動性の減少(p=0.004)

 -大動脈拍動性の減少(p<0.001)

 -大動脈のbruit音(p=0.014)

●全身症状もGCA mimicker患者で少なかった。

 -食欲不振(p<0.001)

 -倦怠感(p<0.001)

 - 発熱(p=0.02)

CRP値は類似していたが、ESR(p=0.002)、血小板(p<0.001)、ALP(p=0.004)は有意にGCA mimicker患者で低かった。

 

側頭動脈生検陽性GCA患者とGCA mimicker患者の比較

GCA mimicker患者では女性の割合が低く(61% vs 74%, p=0.002)、非定型顔面痛(p<0.001)、非PMR様筋骨格痛(p<0.001)の頻度が高い。

GCA mimicker患者ではESR、CRP、ALP、血小板が低かったが、Hb、Albは高かった。

 

 生検結果の比較

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●側頭動脈生検前のグルココルチコイドの使用日数の中央値は以下の通り

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:[0 IQR(0, 4)日]

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:[3 IQR(0, 7)日]

 -GCA mimicker患者:[1 IQR(0, 13)日]

→側頭動脈生検陽性GCA患者では少なかったが、残りの2群は同等。

●片側生検が行われたのは割合は以下の通り

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:86%

 -GCA mimicker患者:76%

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:66%

●初回の生検検体の長さは、側頭動脈生検陰性GCA患者(14mm)と比較して側頭動脈生検陽性GCA患者で短かった(11mm、p=0.013)。側頭動脈生検陰性GCA患者とGCA mimicker患者では長さは同じだった。

●しかし、2回目の生検検体の長さは側頭動脈生検陰性GCA患者(22mm)と比較してGCA mimicker患者は長かった(32mm, p=0.003)。

※側頭動脈生検陽性患者では生検前のステロイド使用日数が短い事が生検陽性につながった可能性がある事を示唆しているのかもしれません。側頭動脈生検の長さは1.5~2.0cmが良いという研究が最近Lancetから発表されましたが、側頭動脈生検陰性GCAは割と長く生検されているため、側頭動脈をちゃんとした長さ生検して陰性である場合は陰性GCAもしくはGCA mimickerと判断しても良いかもしれません。

 

 画像所見の比較

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●少なくとも1つの高度の画像診断法(アンギオ、CTアンギオ、MRIアンギオ、PET-CT)が診断の7か月以内に実施されたのは以下の割合。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:72人(25%)

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:61人(55%)

 -GCA mimicker患者:43人(22%)

●大動脈イメージングが実施された側頭動脈生検陽性GCA患者は若年で、四肢跛行症状の頻度が高く、食思不振や体重減少の訴えが多い傾向であった。

●PET-CTは側頭動脈生検陽性/陰性GCA患者よりもGCA mimicker患者でより実施された。

●側頭動脈生検陽性GCA患者の76%、陰性GCA患者の69%で少なくとも1つの異常が認められた。

●壁肥厚は側頭動脈生検陽性GCA患者と陰性GCA患者で同程度で認められ(29% vs 38%)、PET-CTを実施した時の異常なFDG取り込みも同様だった(100% vs 88%)。

GCA mimicker患者では、血清反応陽性の関節リウマチの病歴を有する1人のみ、限局的なアテローム動脈硬化症性変化に関連したPET-CTでのFDG取り込みが陰性であった左鎖骨下動脈のわずかな狭窄を示した。それ以外の病的動脈瘤、狭窄、閉塞、肥厚、FDG活性に関連した動脈異常は認められなかった。

※側頭動脈生検の陽性、陰性に関わらず、PET-CTでの壁肥厚やFDG取り込みで診断できる事が多いというのは嬉しいですね。一方でGCA mimickerは有意なPET-CT所見が見られない事で鑑別出来そうですね。

 

 治療の比較

ステロイドパルス療法(>125mg/日の静注)の割り合いは側頭動脈生検陽性GCA患者と陰性GCA患者で同等(10% vs 9%, p=0.62)。

●1日当たりの初期経口プレドニゾン投与量の中央値(IQR)も同等であった[60mg(40, 60) vs 50mg(40, 60), p=0.12]。

●パルス療法を含む累積プレドニゾン用量の中央値は側頭動脈生検陰性GCA患者よりも陽性GCA患者の方が1年で高かった[6.0g(4.6, 7.7) vs 7.0g(5.6, 8.6), p=0.004]。

→2年、5年時点では両者は類似していた。

 ・2年:9.1g (7.0, 11.2) vs 8.3g (6.4, 11.3), p=0.47

 ・5年:11.8g (8.3, 15.2) vs 13.9g (11.6, 15.8), p=0.09

 

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●側頭動脈生検陽性GCA患者は陰性GCA患者と比較して6か月以上プレドニゾン中止率が高った(p<0.001)(上記図A)。

※側頭動脈生検が陰性のGCA患者は大動脈病変が多いと仮定され、大動脈瘤などの合併症を恐れて、ステロイド治療が長くなってしまったのかもしれません…

●6か月以上の中止率は以下(側頭動脈生検陽性GCA患者 vs 陰性GCA患者)

 -2年:18±2% vs 9±3%

 -5年:49±4% vs 28±5%

 -10年:62±4% vs 33±6%

●どの群の患者も経過中にトシリズマブを使用されていなかった。 

※用いているコホートが、GCAの治療としてトシリズマブが使用されていなかった時代のもの(※GiACTA試験の結果を受けて、日本や欧米では2017年にトシリズマブがGCAに対して保険適応となった)ですので、仕方ありませんが、もし併用していれば、もう少しステロイドの中止率は高いはずです。

 

 アウトカムの比較

●平均フォローアップ期間は以下の通りで両群で同等。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:6.0±3.9年

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:5.8±4.0年

●総受診回数は以下の通り。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:3473回

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:131313回

●受診回数の中央値は以下で両群で同等(p=0.13)。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:19回(13, 27回)

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:20回(13, 27回)

●少なくとも1回再発した患者数は以下の通り

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:213/286人(74%)

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:67/110人(61%)

→患者ごとに追跡期間の長さが異なるため、患者ごとの総再発回数は比較せず、1人年あたりの再発率を計算した所、両群それぞれで1人年あたり再発回数中央値は0.4回(0.2, 0.7回)(p=0.26)。

●初回再発までの時間は両群で有意差なし(下図B)。

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●経過中の初回再発の再発率は以下の通り。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:1年後 49%(±3)、2年後 68%(±3)、5年後 79%(±3)

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:1年後 49%(±5)、2年後 64%(±5)、5年後 69%(±5)

●追跡期間中の死亡数は以下の通り。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:69例

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:27例

●死亡率は以下の通り(p=0.59)。

 -側頭動脈生検陽性GCA患者:5年後死亡率 14%(±3)、10年後死亡率 31%(±4)

 -側頭動脈生検陰性GCA患者:5年後死亡率 16%(±4)、10年後死亡率 34%(±6)

 

GCA mimickerは以下をご覧ください。

 

まとめ

●総GCA中、側頭動脈生検陰性のGCA15.3%(PMID=11182025)~28%(本研究)。

●側頭動脈生検陰性GCA患者は陽性GCAと比較すると、

 -若年(P=0.001)

 -初期症状から診断までの時間が短い(p<0.001)

 -1990年のACR分類を満たす頻度が低い(p<0.001)。

 -リウマチ性多発筋痛症が少ない(p=0.024)

 -跛行が少ない(p<0.001)

 -側頭動脈の異常が少ない(p=0.004)

 -上腕の跛行・PMRでない筋骨格痛・食思不振・倦怠感が多い(p<0.001)。

 -CRP値、血小板、ALP値が低い(p<0.001)

GCA mimickerは側頭動脈、大動脈拍動性低下などの動脈異常の割合が低く、顎跛行、四肢跛行などの跛行症状の頻度が低い上、ALP値、血小板も低い。

●側頭動脈生検の陽性、陰性に関わらず、PET-CTでGCAは壁肥厚とFDG取り込みが見られ、診断に有用である。一方で、GCA mimickerはPET-CTであまり有意な所見を呈さない事で鑑別できる。

●側頭動脈生検の陽性、陰性の治療は同程度だったが、側頭動脈生検陰性のGCAステロイドを中止するのに時間がかかる傾向が見られた。

●側頭動脈生検の陽性、陰性の再発率、再発までの期間はそれほど変わりなし。

 

My comments

●全く異なるコホート3つを比較検討する手法は斬新でした。単一施設だからこそ成せる技でしょう。

●側頭動脈生検陽性GCAと陰性GCAでは症状、炎症の程度の差こそあれど、治療や予後に関してはそれほど差がないのだと分かりました。ただ、トシリズマブを使用したデータがなかったので、そこは少し残念…多分今後データを出して来ると思いますが。

●もちろん、『側頭動脈生検陰性の中には偽陰性の患者さんも紛れている』可能性、は否定できませんが、生検している長さがむしろ陽性GCA患者よりも長いのでだし、偽陰性の可能性は下がる、と個人的には思います。

GCAと比べて、GCA mimickerは跛行症状がない、動脈異常所見がないなど、問診、身体所見である程度当たりを付けられる、というなんとも日常診療にとっては前向きな結果でした!

●どうしてもわからないときは『PET-CT様』に助けてもらうという事は変わりませんね。PET-CTでFDGの集積があれば、側頭動脈生検が陰性でも、ACR1990年分類基準を満たさなくても、GCAと診断できるかもしれないし、GCA mimickerでは所見がない事が多いので、除外もできます。

 

 

【参考文献】

Matthew J Koster, et al. Semin Arthritis Rheum . 2020 Jun 17;50(5):923-929. "Giant cell arteritis and its mimics: A comparison of three patient cohorts" PMID=32906026