発症から6週間以内の関節炎の鑑別にウイルス感染症は常につきものです。
この記事では関節炎に加えて、関節痛を起こすウイルスについてまとめました。
関節痛を起こすウイルス
●関節痛を起こすウイルスと関節炎を起こすウイルスは若干異なります。
●アルファウイルスについては以下にまとめます。
アルファウイルス
●それぞれの国や流行地に渡航歴がある場合には注意しましょう。
●日本で特に注意すべきはチクングニヤウイルスでしょう。
関節炎を起こすウイルス
●麻疹は関節炎の記載がありません!!
メカニズム
●ウイルスの関節への直接浸潤
-風疹ウイルス、パルボウイルス、エンテロウイルス、チクングニヤウイルス
アルファウイルス
●免疫複合体の形成
●ウイルスの分子擬態による交差反応
-パルボウイルス
診断ポイント
以下の場合には、ウイルス性関節炎を疑います。
●発症6週間以内の関節炎
●インフルエンザ様症状、発熱、発疹、リンパ節腫脹を伴う関節炎
●関節リウマチに似た関節炎の分布
●しかし、大事な事は、ウイルス感染症の各々のPresentationを知る事!!
●診断確定は各種ウイルスの急性期と回復期のペア血清によります。
●以下の急性期から回復期へのペア血清パターンの場合、確定診断となります。
●また、IgGがペア血清が4倍以上増加する場合も確定診断となります。
注意点
●IgM抗体は最大2年間陽性が持続する可能性があるため、必ずしも最近の感染を示すとは限りません。
●ウイルス性関節炎は、自然にまたはNSAIDsなどで改善する事が多いため、網羅的抗体価検査は必ずしも推奨されません。
治療と紹介タイミング
●症状の緩和が最大の目的で、アセトアミノフェンとNSAIDsが中心となります。
※ただし、デング熱ではNSAIDsは48時間以上無熱状態になり、デング出血熱の兆候がなくなるまでは使用しない!!
●ステロイドは基本的に推奨されません。
●関節炎が6週間以上持続する場合、リウマチ・膠原病疾患が疑われる場合、検査結果が曖昧な場合、HIV・HBV・HCVが陽性の場合はそれぞれの専門医に紹介しましょう。
コメント
●関節炎でウイルス抗体価をスクリーニングするかどうかに関してですが、関節リウマチ様の関節炎を6週間以上持続する患者でウイルス抗体価を調べたコホート研究(3)では各種ウイルス抗体価の陽性率はパルボウイルスで0.25%、HBV・HIVで0%、HCVで0.37%と低値でした。
→慢性関節炎ではウイルス抗体価のスクリーニングは推奨されません。
●3次医療機関で発症から1か月以内の関節炎患者でパルボウイルスのスクリーニングについて検討した研究(4)がありますが、21人中1人のみ陽性(4.7%)と低値でした。ちなみに、この1人の患者は臨床症状でパルボが疑われたそうです。
→急性関節炎でもルーチンでパルボウイルスをスクリーニングするのは否定的な意見。
●同論文では、さらに発症1年以内の関節炎患者でHBVやHCV抗体の陽性率もそれぞれ、0%と0,6%と極端に低く、スクリーニングで測定する事は、意味がない事が示されております。
●関節炎+トランスアミナーゼ値の上昇した患者でもHBV、HCVは検出されませんでしたので、AST、ALT上昇を肝炎ウイルススクリーニングのきっかけにするメリットはないかもしれません。
→生物学的製剤などを導入する前にHBV、HCVをスクリーニングしますが、これは言うまでもなく必須です。
●まとめると『急性でも慢性でも関節炎を起こした患者ではルーチンでウイルス抗体価をスクリーニングせずに、臨床症状に基づいて検査しましょう』という事でしょうか。
【参考文献】
(1) Holland R, et al. Aust Fam Physician. 2013 Nov; 42 (11): 770-3."Viral arthritis."
(2) Vassilopoulos D, et al. Arthritis Res Ther. 2008; 10 (5): 215. "Virally associated arthritis 2008: clinical, epidemiologic, and pathophysiologic considerations."
(3) Varache S, et al. Arthritis Care Res (Hoboken). 2011 Nov; 63 (11): 1565-70. "Is routine viral screening useful in patients with recent-onset polyarthritis of a duration of at least 6 weeks? Results from a nationwide longitudinal prospective cohort study."
(4) Zerrak A, Bour JB, et al. Arthritis Rheum. 2005 Jun 15; 53 (3): 477-8."Usefulness of routine hepatitis C virus, hepatitis B virus, and parvovirus B19 serology in the diagnosis of recent-onset inflammatory arthritides."
(5) UpToDate, "Viruses that cause arthritis" Last update, Nov 27, 2018.
(6) UpToDate, "Viral arthritis: Approach to evaluation and management" Last update, Feb 11, 2019.