強皮症エキスパート達の治療選択2018
強皮症は様々な臓器に多彩な病変を生じるため、どうしても全ての病態を対象とした治療が研究しづらい疾患となっています。多彩な症状に対してはそれぞれの臨床医が各々薬剤を使い分けているのが現状であると思います。
そんな中で2018年、ガイドラインではありませんが、強皮症のエキスパートらが各病態に対してどのような治療を行っているか、投票をもとに治療のコンセンサスアルゴリズムが作られました。
全ての病態に対して言及されており、ガイドラインよりも、生の声が聞ける点では、かなり有用ではないかと思います。
こちらもご覧ください。
専門家たちの背景
→10年目以降の医師が多く、中堅以上であるとわかります。
→診察している強皮症患者は年間100人以上、新規患者が10人以上の割合が多く、かなり専門家であるとわかります。私はせいぜい年間10-20人、新規患者2-3人です。
→ちなみに出身国はアメリカが27人、ヨーロッパが17人とやや偏りがあります。日本人で強皮症のエキスパートと言えば、日本医科大学の桑名先生でしょうか。
腎クリーゼの治療
●降圧の目標
-140/80mmHg以下:39%
-120/80mmHg以下:37%
-150/90mmHgよりも高い:9.3%
●目標血圧に到達するまでの時間
-24時間以内:15%
-24-48時間:44%
-48時間から1週間:33%
-1週間以上:7%
●半分(36/62)のエキスパートは妊娠患者ではACE阻害薬を処方しない結果であった。
●Ca拮抗薬はニフェジピンが最も良く使われ、30mgを1日1回(37%)、10mgを1日3回(30%)などの用量で使用されることが多かった。30mg1日2回、20mg1日3回とする専門家はそれぞれ11%、22%でった。
→以下の記事も参考にして頂きたいのですが、強皮症腎クリーゼの降圧目標は定義同様、実はあまり決まっていなく、専門家の中でも意見が割れている事がわかります。
炎症性関節炎の治療
●ステロイドは75%、NSAIDsは77%の専門家が処方している。
●ステロイドの使用量
-7.5mg/日未満:54%
-7.5-20mg/日:41%
●ステロイドの使用期間
-3か月以内:67%
-3-6か月:8%
-6か月以上:25%
→関節リウマチに準じた治療が多いようです。ただしMTXは間質性肺炎がある場合は使いにくいかもしれません。海外ではヒドロキシクロロキンが関節リウマチに適応がありますが、日本では適応がありません。
皮膚硬化の治療
※mRSS: modified Rodonan skin thickness score
→皮膚硬化に対する免疫抑制薬についてはMTXかMMFか意見が均衡しています。特にmRSS 24点の時、1stはMTXで専門家の52%が同意していますが、残りの48%はMMFを選んでいました。間質性肺炎を考慮すると、MMFが良い選択肢と言えそうです。
→ステロイドについては少数ながら使用している専門家もいるようです。
●ステロイドの使用頻度
-いつも:13%
-時々:19%
-ごくたまに:33%
-なし:35%
●ステロイドの使用量
-7.5mg/日未満:49%
-7.5-20mg/日:51%
なお、2020年にヨーロッパから発表されたEBMに基づくコンセンサスステイトメントではステロイドの単独使用は推奨されておりません(Lancet rheumatol 2020; 2: e71-e83)。
間質性肺炎の治療
→MMFは強皮症に保険適応が通っておらず、日本の強皮症診療ガイドライン2016では推奨度が2Cですが、海外では好まれます。私も好きです。
→この論文は、強皮症関連間質性肺炎の治療として抗線維化薬であるニンテタニブがまだ承認されていない時期のものですので、抗線維化薬を推奨する専門家はいませんが、2020年のヨーロッパからのコンセンサスステイトメントでは100%の専門家がニンテタニブを強皮症関連間質性肺炎に使用することに同意しています(Lancet rheumatol 2020; 2: e71-e83)。またMMFとの併用についても単剤で無効の際には考慮されるとしています。
→また2020年にトシリズマブによる強皮症関連間質性肺炎の進行抑制効果が臨床試験で示されました(PMID=32866440)。今後、専門家たちのコンセンサスにも反映される事でしょう。
→注目すべきは、他の膠原病関連間質性肺炎と異なり、強皮症ではステロイドが使われない事です。専門家の中でも"いつも使用している”が11%、”時々”が28%、”ごくたまに”が24%、37%が”使用しない”でした。ステロイドを使用する場合、PSL<7.5mg/日が41%、7.5-20mg/日が46%、>20mg/日が13%でした。使用する期間も3か月以内が42%、3-6か月が33%、6か月以上が8%と比較的短期間でした。
肺高血圧症の治療
※ERA: エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5i: PDE5阻害薬
●Mildの場合、PDE5阻害薬がエンドセリン受容体拮抗薬よりも好まれる。
●23%のエキスパートは両者の併用を好む。
●重症では1stとしてプロスタノイドが最多だが、27%の専門家はPDEi+ERAを好んだ。
●経口抗凝固薬の併用頻度
-いつも:6%
-時々:28%
-ほとんどない:30%
-なし:37%
●使用される場合の抗凝固薬の種類
-ワーファリン:60%
-DOAC:7%
-いずれか:31%
レイノー症候群の治療
※追加でアスピリン(75%)、スタチン(29%)、ペントキシフィリン(7%)、フルオキセチン、亜硝酸薬外用(54%)などが用いられる事もある。
→中等度のレイノー症候群の治療について触れていないのが惜しいです。
手指潰瘍の治療
胃腸病変の治療
●腸管蠕動薬の種類
-メトクロプラミド:44%
-ドンペリドン:31%
-エリスロマイシン:15%
-オクトレオチド:15%
●抗菌薬の種類
-メトロニダゾール:60%
-シプロフロキサシン:60%
-リファキシミン:35%
-ドキシサイクリン:23%
心病変の治療
【参考文献】
Andreu Fernández-Codina, et al. Arthritis Rheumatol. 2018 Nov; 70 (11): 1820-1828. "Treatment Algorithms for Systemic Sclerosis According to Experts" PMID=29781586