リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

なぜ、IL-17阻害薬は腸炎を悪化させるか?

主に脊椎関節炎に使用されるIL-17阻害薬ですが、炎症性腸疾患を発生させるという報告が散見されます。

 

その相反する作用を理解するには、IL-17の関節に対する機能と、腸管に対する機能を理解する必要があります。

 

本日は、IL-17の役割とその阻害薬による炎症性腸疾患の発症についてまとめたいと思います。

 

 

IL-17とは

Figure 1: IL-17の分子学的な側面

f:id:tuneYoshida:20200921192543p:plain

IL-17は、IL-17AからIL-17Fの6つのサブタイプに分かれており、それぞれ少しずつ役割が異なります(Figure 1C)。この中で、炎症の惹起と、腸管での微生物に対する防御に関与するのはIL-17AIL-17CIL-17Fです(他のサブタイプも炎症性サイトカイン分泌を誘導する可能性が言われています)。

 

IL-17は様々な細胞から分泌されるサイトカインですが、主にはTh17細胞から分泌されます(Figure 1A)。

 

IL-17を主に分泌するTh17細胞は腸管(特に小腸)の粘膜固有層に多数存在しており、平常時はIL-22などを介して抗菌ペプチドの産生を促進して、腸内細菌真菌などに対する防御(バリア機構)を担っております。

 

腸内細菌のバランスが不均衡(dysbiosis)、つまりは菌量が増えたり、菌叢が変化したりすると、防御するためのTh17が活性化し、それが行き過ぎると自己免疫疾患を引き起こすと言われています。特に関節炎を引き起こす事は有名です(Figure 1B)。もちろん、炎症を起こすので炎症性腸疾患の病態にも関与していると知られています。

 

IL-17と自己免疫疾患

具体的にTh17の関与が言われているのは、多発性硬化症炎症性腸疾患乾癬(乾癬性関節炎)など、多数の疾患です(PMID=25152827)。

 

しかし、腸内細菌のバランスが不均衡(dysbiosis)だけで関節炎が起こるというわけではなく、遺伝的な素質がある方(HLA class I)環境因子(腸内細菌のDysbiosis)に曝露されて初めて自己免疫介在性の炎症が起こると考えられています(Figure 2)。

 

 

Figure 2: 腸管-関節軸

f:id:tuneYoshida:20200921194843p:plain

 

さて、Th17が活性化に伴うIL-17産生が亢進すると、自己免疫が活性化し、乾癬、関節炎さらには腸炎が悪化するため、IL-17阻害薬を使用すると、それらが改善すると考えられていますが、実際の所は、乾癬や関節炎は改善しますが、腸炎に関しては、逆に悪化する報告が散見されます。

 

一体なぜでしょうか?

 

IL-17抑制による腸炎悪化の機序の仮説

詳細な機序についてはまだまだ研究が必要ですが、

 

機序の一つとして考えられているのは、腸管でのバリア機構がIL-17阻害薬によって抑制される事です。

 

マウスの腸炎モデルでは抗IL-17抗体を投与する事で腸炎の悪化が確認されましたが、TNF-αIFN-γIL-1βIL-6など、他の炎症性サイトカインの発現亢進が見られました(PMID=14962796)。抗菌薬投与により、Th17細胞が減少する事(PMID=18716618)、糸状菌の投与でTh17細胞が誘導された事(PMID=19836068)より、IL-17を阻害する事でTh17

による粘膜のバリア機構が抑制され、腸内細菌が腸管壁に侵入し、炎症を引き起こした可能性が示唆されました。

 

また、別の経路の炎症細胞が活性化する可能性も示唆されています。

IL-17を欠損したマウスではTh1に関連した遺伝子発現が亢進しており、Il-17がブロックされたとき、Th1経路が腸炎を悪化させる可能性が示唆されております(PMID=19448631)。

 

 IL-17阻害薬の臨床試験

f:id:tuneYoshida:20200921220630p:plain

上記にIL-17阻害薬の臨床試験を示します。

 

潰瘍性大腸炎クローン病の発生頻度やリスクがまとめられていますが、おおざっぱに言うと、IL-17阻害薬を使用した時に、潰瘍性大腸炎クローン病の発生率は1000人年あたり2.4人だそうです。

 

この数字は多いか少ないか、というと、決して多くはないですが、無視できる数字ではないと思います。

 

 IL-17阻害薬による腸炎のReal World Evidence

f:id:tuneYoshida:20200921223414p:plain

Secukinumab開始後に新規に炎症性腸疾患が発症した症例は、全部で19例報告されています。全員乾癬の既往がない患者ですが、3人は家族歴があります。

 

多くは乾癬や乾癬性関節炎に対してSecukinumabが使われていますが、消化器症状が出現するまでの平均期間は12.8か月とのことです。小腸が多いかと思いましたが、意外と大腸病変が多いようです。

患者さんは代替薬としてコルチコステロイドTNFα阻害薬が使用されましたが、Secukinumabを中止された後、症状は改善しています。

 

IL-17阻害薬を使用する際のPractice

f:id:tuneYoshida:20200921230839p:plain

IL-17阻害薬を使用する際には、僅かながら炎症性腸疾患の発症リスクがある事をお伝えしましたが、実際にIL-17阻害薬を開始前に上記のようなマネジメントしていく事が提唱されています。

 

便中カルプロテクチンは炎症性腸疾患において、"腸版CRP"のようなものです。日本でも潰瘍性大腸炎の病態把握の補助』、FEIA法で測定した場合は『慢性的な炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎クローン病等)の診断補助』で保険適応となっています。

 

【参考文献】

Marine Fauny, et al. Ann Rheum Dis . 2020 Sep; 79 (9): 1132-1138. "Paradoxical gastrointestinal effects of interleukin-17 blockers" PMID=32719044