リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者のワクチン接種~EULAR recommendations 2019~

自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者(AIIRD)に対するワクチン接種の推奨が、

8年ぶりにEULARから改訂されました!!!

今回は、この待望の改訂について2011年の推奨との違いについて対比しながら、まとめたいと思います。

 

なお、2011年の推奨についてはこちらをご覧ください。

 

まずは言葉の定義です。自己免疫性炎症性リウマチ性疾患、免疫抑制薬、ワクチンについては、以下の通りになります。

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続いて、推奨文を載せます。 

【包括的原則】

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原則の3から6は2011年の推奨と大きく変化はありません。

しかし、推奨レベルから原則に格上げされている点が興味深いです。

 

《新規事項》

●予防接種の状況と適応の確認はリウマチ医毎年行うべきと新たに強調されました。

●予防接種のプログラムはリウマチ医プライマリケア患者で共同して実施すべきという事も原則として強調されています。これは欧米でワクチン接種の大半がプライマリケアで行われているためです。

●一般的にはAIIRD患者での生ワクチンは禁忌であり、専門家意見レベルでは生ワクチンの接種は免疫抑制療法開始4週間前までです。2011年の推奨でも禁忌とされておりましたが、2019年の推奨では少し寛容となっています。

 

 ただし、この寛容も以下の通り、かなり限定的なものです。合意も53%に留まっている点に注意が必要です。

 

【生ワクチンの推奨】

①慎重使用が可能な生ワクチンはMMRブースター水痘帯状疱疹ワクチンです。

→これはこれらのワクチンをAIIRD患者で接種しても感染が起こらなかったという研究に基づくものです。

②可能ならば低レベルの免疫抑制状態に使用すべきとされています。

 

【免疫抑制療法の定義】

・プレドニゾン20mg/日または2mg/kgを2週間以上

・メトトレキサート0.4mg/kg/週以上

・アザチオプリン3.0mg/kg/日以上

・6-メルカプトプリン1.5mg/kg/日以上

・bDMARDsまたはtsDMARDs使用(それぞれの定義は上記表を参照)

※上記でない場合を低レベルの免疫抑制状態と定義する。

 

《既存事項の注意点》

●予定された免疫抑制薬(特にB細胞枯渇療法)の前に予防接種を済ませるべきだが、重症患者でそれが目的で免疫抑制薬を遅らせてはならず、免疫抑制薬を優先する。

●B細胞枯渇療法を行っている場合、投与6か月後または投与4週間前までに予防接種を済ませる。難しければ治療期間中でも接種を考慮する。

 

【基本的推奨】

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※免疫原性:体液性・細胞性免疫応答を誘導するためのワクチンの能力

※有効性:感染症を予防するためのワクチンの能力

 

《新規事項》

●2011年の低/無脾患者の予防接種、BCGの予防接種、AIRD患者の旅行に関する予防接種に関しては削除されています。

→最初の2項目は日常診療では無関係、最後の項目は各国のガイドラインに従うとされていましたが非特異的であると判断されたためです。

●ポリオワクチンとAIRD患者の妊娠中に生物学的製剤を使用した際に新生児に対するワクチン接種の項目が新たに追加されました。

→ただし、これらは専門家意見レベルです。

●黄熱ワクチン(弱毒化生ワクチン)は黄熱感染を誘発するリスクがあるため、避けるべきと新規に追加されました。

→これは南米とアフリカなどの黄熱流行地への旅行がヨーロッパ諸国で人気であるため、AIIRD患者の黄熱ワクチン接種の問題が一般手kに提起されたためです。日本ではあまり気にする必要はないかもしれません。

●『AIIIRD患者の免疫能のある家族は、経口ポリオワクチンを除き、国ごとのガイドラインに従ってワクチン接種を奨励すべき』であるという項目が追加されました。

→これはMMR、ロタ、水痘帯状疱疹ワクチンなどの弱毒化生ワクチンだけでなく、不活化ワクチンも接種する必要があることを意味します。

→ただし、経口ポリオワクチンは家族感染するリスクがあるため、避けるべきです。

→高度の免疫不全患者は少なくとも4週間はロタワクチンを接種した乳児のおむつを扱わないようにすべきとのことです。

→水痘帯状疱疹ワクチン接種後に皮疹を発症している人にも接触しないようにします。

●『妊娠後期に生物学的製剤で治療された母親の新生児は生後6か月間は弱毒化生ワクチンを避ける必要がある』の項目が追加されました。

→IgGは3rd trimester中に胎盤通過能があるため、セルトリズマブを除く抗TNF阻害薬は生後6か月まで生物学的製剤で治療された母親の新生児で検出可能です。

→このデータを基づいて、上記項目が作成されました。

 

《既存事項の改訂と注意点》

・インフルエンザ、肺炎球菌、破傷風トキソイド、HAVHBV、HPVワクチン接種に関する推奨事項は2011年の推奨事項に一部変更を加えたもの。

 

インフルエンザ

・インフルエンザワクチンの項目は全ての患者ではなく、大部分の患者に変更された。

・季節性3価インフルエンザワクチンはAIRD患者のインフルエンザ発症率と細菌感染合併率、インフルエンザ・肺炎による死亡、入院率を低下させる。

・RA、SLE、ANCA関連血管炎、強皮症、乾癬性関節炎では季節性3価インフルエンザワクチンはDMARDsを使用していても免疫原性を示している(ただしリツキシマブ使用中を除く)

・インフルエンザワクチン接種時における一時的なMTX中止は免疫原性を改善することが示されている(リツキシマブ使用中を除く)おり、ワクチン接種前後の2週間はMTX中止すると良い免疫原性が得られたとされたが、一般的には予防接種前後にMTXを中止することは推奨されていない(十分な根拠なし)。

パンデミック1価インフルエンザワクチンはAIIRD患者(ほとんどがRAとSLE)で免疫抑制薬使用下(リツキシマブとアバタセプトは除く)で免疫原性が低下していたが、患者の大部分が予防効果のある抗体価を維持していた。

・1価、3価に関わらずインフルエンザワクチンの2回目追加投与では免疫原性が改善したという報告あり。

 

肺炎球菌

・肺炎球菌ワクチンの項目は全ての患者ではなく、大部分の患者に変更された。

・肺炎球菌ワクチンには2種類存在する(PPSV23とPCV13)

・PPSV23の安全性及び長期免疫原性は免疫抑制薬(生物学的製剤含む)使用下で示されている。

・ただしクリオピリン関連周期性症候群(CAPS)ではPPSV23で重度の局所・全身反応を起こす可能性がある。

・AIIRD患者でのPPSV23とPCV13の併用の有効性に関する根拠は乏しい。

 

破傷風

・基本的に変更なし。

・RAとSLE、眼根来抑制薬使用中の患者で破傷風トキソイドワクチンは十分な免疫原性を示す。

・ベリムマブは破傷風トキソイドワクチンの抗体価維持に影響しない。

・リツキシマブ使用中では明確なデータはないが、有効性が低下すると想定される。

・B細胞枯渇療法中の患者で破傷風リスクが高い場合は破傷風免疫グロブリンによる受動免疫を考慮すべき。

 

HAVHBV

・特定の場合の追加免疫(ブースター)または受動免疫の適応に関して拡大された。

HAVに関しては流行国への渡航・移住している患者では血清が陰性でもリスクありととらえる。

・RA患者や免疫抑制薬使用患者では単回の予防接種では免疫が得られない場合があり、6か月後の2回目の接種、ワクチン接種後の抗体価の測定が推奨される。

・AIIRD患者の急な旅行前の単回投与では免疫が得られない場合があるため、受動免疫を検討する必要がある。

HBVワクチンはAIIRD患者では免疫原性を示す。

HBVワクチンはリスクがある(流行国に渡航または移住するHBV血清陰性患者、HBVを有する患者を扱う医療従事者、性的パートナー、静脈内薬物使用車、MSMなどの暴露リスクが高い)患者にのみ投与されるべき。

HBVへ曝露した場合、B型肝炎免疫グロブリンの追加投与(ブースター)または受動免疫が勧められる。

 

水痘帯状疱疹

・変更なし。

・好ましいのはbDMARDsまたはtsDMARDs開始4週間前(※治療中ではない)。

・Shingrixという非生組み換えサブユニットアジュバンド帯状疱疹ワクチンの安全性と有効性が示されているが、AIIRD患者では調査されていない。

→今後もしかしたら、生ワクチンの代わりになるかもしれません。

 

HPV

・『選択された患者』という文言が『AIIIRD患者、特にSLE患者』に変更された。

→これはAIIIRD患者のHPV疫学に関する研究は主にSLE患者の研究に基づくため。

・HPVワクチンの免疫原性はSLEとコントロール群で変わらない。

・4価HPVワクチンは接種後の新規の自己免疫疾患の発症率の増加に関連しないという報告も多く、安全性も示されている。

 

【参考文献】 
 Furer V, et al. Ann Rheum Dis. 2019 Aug 14. pii: annrheumdis-2019-215882. "2019 update of EULAR recommendations for vaccination in adult patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases."