皮膚筋炎・多発性筋炎と悪性腫瘍
皮膚筋炎(DM)・多発性筋炎(PM)は膠原病疾患の中でも最も悪性腫瘍を合併しやすい事が知られております。
最近、前立腺癌のホルモン治療中に、抗TIF1γ抗体陽性の皮膚筋炎を合併した患者さんがおられました。
当初、前立腺癌合併と考えられていたのですが、CTで胃壁の肥厚と胃周囲リンパ節腫脹を認め、精査で進行胃癌も認めました。
ここでふと思った事は、『日本人で皮膚筋炎・多発性筋炎の合併する悪性腫瘍には何があるか』『仮にAという悪性腫瘍が多ければ、それ以外の悪性腫瘍があったとしても(今回ならば前立腺癌)、Aを検索するべきか』です。
この疑問に答えてくれるのが今回の論文です。国立国際医療センターの先生方がまとめた25年間のレトロスペクティブ研究で、日本からの最新のデータです。日本人のデータであるため、疫学的な部分もかなり信頼できます。
Motomura K, et al. Rheumatol Int. 2019 Oct; 39 (10): 1733-1739. "Clinical characteristics and prognosis of polymyositis and dermatomyositis associated with malignancy: a 25-year retrospective study."
【ポイント】
・皮膚筋炎・多発性筋炎は共に2割ぐらい悪性腫瘍を合併する。
・皮膚筋炎・多発性筋炎発症2年前から発症後3年以内が高率。
・皮膚筋炎・多発性筋炎に合併する悪性腫瘍の種類と頻度は、日本人集団の一般的な悪性腫瘍の種類と発生頻度とある程度一致している。
《目的》
・25年以上治療された134名の皮膚筋炎・多発性筋炎の患者で悪性腫瘍との関係を同定すること。
《方法》
・1992年1月から2017年9月までで、国立国際医療センター病院に入院中の多発性筋炎と皮膚筋炎と診断された患者を対象とした。
・筋炎発症2年前から発症3年後までに発症した悪性腫瘍を悪性腫瘍に関連する筋炎と定義した。
・診断時期が不明の2名、筋炎診断の2年以上前に悪性腫瘍と診断された5名、筋炎の診断後3年以上経過して悪性腫瘍と診断された5名を除外した。
・皮膚筋炎、多発性筋炎の診断はBohan & Peter基準に基づく。
《結果》
【Table 1】患者背景
・皮膚筋炎(n=81)、多発性筋炎(n=53)
・男性は41名(30.6%)
・PM/DMの発症時年齢の中央値は57.8歳(56.7~66.3)
・間質性肺炎の合併は6割前後
・PM患者53名中12名(22.6%)、DM患者81名中17名(20.1%)が悪性腫瘍を合併
筋炎発症から悪性腫瘍発症までの期間については図1の通り。
【図1】筋炎発症から悪性腫瘍発症までの期間の関係
・筋炎発症前に悪性腫瘍と診断されたのは11名(38.0%)
・筋炎発症時に悪性腫瘍と診断されたのは2名(6.9%)
・筋炎発症後に悪性腫瘍が出現したのは16名(55.0%)
・最後の16名の筋炎診断から悪性腫瘍発生までの平均期間は8.9か月であった。
【Table 2】皮膚筋炎・多発性筋炎に関連する悪性腫瘍の性差
・女性で最も多いのは子宮癌、乳癌であった。
・男性で最も多いのは肺癌であった。
・全体として食道癌、肺癌が多かった。
・5/29名(17.2%)が重複癌であった(男性4名、女性1名)。
男性:胃癌と前立腺癌(1名)
胃癌と大腸癌(1名)
肺癌と肝癌(1名)
胃癌と悪性リンパ腫(1名)
女性:子宮癌と乳癌(1名)
【Table 3】悪性腫瘍を伴う/伴わないPM/DMの単変量解析
・単変量解析では男性、発症年齢、嚥下障害、糖尿病が、PM/DM患者の潜在的な悪性腫瘍と有意に関連していた。
・間質性肺疾患、関節痛、レイノー現象は悪性腫瘍関連筋炎群でより稀だった。
【Table 4】悪性腫瘍を伴う/伴わないPM/DMの多変量解析
・多変量解析では男性、発症年齢、間質性肺疾患の欠如、糖尿病が悪性腫瘍合併の独立したリスクであった。特に糖尿病が悪性腫瘍合併筋炎群で有意に高値であった(OR=10.4; 95%CI 2.00-54.3; P=0.005)。
・悪性腫瘍合併患者では抗TIF1-γ抗体が陽性であり、抗ARS抗体陽性は認めなかった。
【図2】生存分析
・134名の患者の内、35名の生存転帰は不明
・追加の38名(悪性腫瘍18名を含む)は追跡期間中に死亡した。
・18名の内、5名は悪性腫瘍、2名は間質性肺疾患に起因しない肺炎、1名は血球貪食症候群、間質性肺疾患の急性増悪、窒息、敗血症性ショック、脳出血で死亡したのはそれぞれ1名であった。
・悪性腫瘍関連群の累積生存率は1年で68.2%(95%CI 44.6-83.4)
5年で31.0%(95%CI 12.5-51.8)
・悪性腫瘍非関連群の累積生存率は1年で89.6%(95%CI 80.2-94.6)
5年で86.4%(95%CI 76.2-92.5)
《感想》
日本ならではのデータでした。海外ではやたらと鼻咽頭癌やリンパ腫の合併を謳う論文が多いですが、日本人の場合は、日本人の一般的な悪性腫瘍の発生頻度に則った悪性腫瘍の合併が多い事を意識すれば良いという事です。
ただし、本論文では女性で肺癌、大腸癌の合併が少ないように思います。悪性腫瘍合併患者の数自体が少ないためなのでしょうか。今後患者数の追加が必要だと思います。
冒頭の症例はやはり、前立腺癌よりも胃癌の方が多いという点で、『皮膚筋炎・多発性筋炎で前立腺癌が出たとしても、他の癌がないか考えておく必要がある』事が重要かもしれません。
糖尿病が悪性腫瘍と関連するという事も興味深いです。
糖尿病では代償性高インスリン血症によるインスリン感受性の低下と様々な臓器の細胞増殖を刺激するIGF-1値が上昇していると言われています。また、インスリンは細胞周期の進行を調節するIGF-1受容体を活性化し、過剰なインスリンはIGF binding protein 1の発現を抑えます。これにより、循環するIGF-1全体の利用能が高まり、間接的に悪性腫瘍の増殖に関連する可能性があります。
また、糖尿病では活性酸素種がDNA損傷を起こし、悪性腫瘍の全体的なリスクが上昇する可能性が指摘されております。
ただ、糖尿病患者が全員悪性腫瘍になるわけではないので、強い関連性は示されていないとは思います。
【参考文献】
Motomura K, et al. Rheumatol Int. 2019 Oct; 39 (10): 1733-1739. "Clinical characteristics and prognosis of polymyositis and dermatomyositis associated with malignancy: a 25-year retrospective study."