筋痙攣 muscle cramp
【ポイント】
・筋痙攣は発生率が健常成人の50-60%
・神経、筋、神経筋接合部のいずれかで神経興奮が持続することで起こる
・特発性が最多で二次性の原因は多岐にわたるが、一番多いのは脱水と電解質異常
・また神経疾患や筋・神経筋接合部に影響を与える疾患・病態が原因になることもある
・筋痙攣を起こす薬剤は押さえるべし
・問診で突然発症の強い疼痛を伴う局所的な筋硬直があるか聞くことで診断可能
・身体所見では心血管疾患や神経疾患の有無を判断するために下肢動脈の脈拍の触知、血圧、下肢の感覚障害の有無、筋力、深部腱反射、振戦の有無、歩行障害の有無を見る
・特定の患者を除いてスクリーニングで電解質異常などの血液検査は不要
・治療はまずは非薬物療法(誘因の除外、ストレッチなど)
・ストレッチは発作時にも予防にも有用
・薬物治療はどれもエビデンスが高くない
・ビタミンB群、D群、ミネラル(Ca、Mg、K)、鉄を補充しても良いかもしれない
・日本人では芍薬甘草湯7.5g/日を3日で効果を認め、長期服用する際には2.5g/日に減量しても良いかもしれない
概論
・筋痙攣は突然発症する重篤な不随意筋の収縮で、痛みを伴う(1)
・健常成人では50-60%に起こるという(1)
・イギリスからの報告では筋痙攣の50%が65歳以上であったという(2)
・性差は一般的にないが、妊婦では発生率は30-50%という報告がある(1)
・その他、高齢者、持久力アスリートに多い(1)
・典型的には突然発症し、数秒から数分持続し、ストレッチで改善する下腿筋肉痛(5)
・平均持続時間は9分(5)
・持久力スポーツアスリートでは筋痙攣が強く、持続時間も長いという(1)
・ほとんどは夜間に起こる(73%)、日中に起こるのは20%(5)
・およそ40%に不眠や日中の倦怠感の症状が出現する(5)
機序
・運動神経の刺激により筋収縮が起こるが、何らかの原因で神経、筋、神経筋接合部のいずれかで神経興奮が持続すると筋痙攣が起こる可能性がある(2)
・何らかの原因で障害された神経が近接する神経にエファプス伝達を介して興奮を伝達し、筋痙攣を起こす機序も考えられている(2)
※Ephaptic transmission:神経線維同士は本来絶縁されているため、インパルスの交流はないが、近接する神経同士の異所的なインパルスの交流をエファプス伝達という
(上記図のepiphaticはepahpticの誤植の可能性あり)
原因(2)(3)(4)
・特発性が最多だが、以下のように二次性の場合も考えられる(5)
・二次性の中では脱水と電解質異常が原因の最多(5)
・ALSでは44-55%に筋痙攣を認める(2)
・ポリニューロパチーでは64%に筋痙攣を認める(2)
・Charcot-Marie-Toothでは79%に筋痙攣を認める(2)
・透析は筋痙攣を起こすが慢性腎臓病自体は筋痙攣と関連しない
ちなみに筋痙攣を起こす薬剤は以下の通り(2)(3)(4)
筋痙攣を起こす薬剤
診断
・問診で突然発症の強い疼痛を伴う局所的な筋硬直があるか聞くことで診断可能(3)
・病歴で薬剤歴を聞くことも重要(3)
・身体所見では心血管疾患や神経疾患の有無を判断するために下肢動脈の脈拍の触知、血圧、下肢の感覚障害の有無、筋力、深部腱反射、振戦の有無、歩行障害の有無を見る
・American Academy of Family Physiciansでは血液検査などは特定の患者(肝不全、透析患者、糖尿病など)で実施すべきでルーチンでの実施は不要とのこと(3)
検査(2)
※VGKCはPeripheral nerve hyper-excitability症候群(Cramp-fasciculation症候群, Isaac症候群, Morvan症候群)を疑うときに測定する
アルゴリズム
AFP(3)が出している診断と治療のためのアルゴリズムが下記になります
鑑別診断(3)
治療(2)(3)
非薬物療法
・まず要因を除去することが重要(被疑薬剤、環境要因など)(2)
・ストレッチは発作時にも予防にも有効(2)(5)、マッサージも良い(3)
・カリウム、カルシウム、ビタミンB群(30mgのB6を含むもの)、D群(2)、ビタミンE(800mgを眠前に)(5)も有効かも
・鉄欠乏症では鉄補充も重要(5)
・マグネシウムは妊婦の筋痙攣に有効かも(3)
ストレッチの方法(5)
薬物療法
・どの薬剤が有用であったかという確固たるエビデンスはない
・薬物療法のなかで最も効果的なのはキニーネ硫酸塩(150-450mg/日)だが、上記の通り、副作用が多く、死亡例もあったため、現在はFDAでも禁止されている(ただし米国神経学会では初期治療に反応がなかった筋痙攣にだけ使用が推奨されている)
・ビタミンやミネラルの補充が無効の場合、UpToDateではジフェンヒドラミン(12.5-50mg眠前)を推奨している(5)
・それでも効果がない場合、Ca拮抗薬(ジルチアゼム30mg/日やベラパミル120-180mg/日)を推奨(5)→筋痙攣の強度は減らさないが、頻度を減らす(2)
・ちなみにニフェジピンは筋痙攣を起こすため、使用しない(5)
・それでも無効ならばガバペンチン(600-900mg分2 夕食後、眠前)を推奨(5)
・バクロフェンはGABAを増強することで、脊髄介在ニューロンを抑制する
・その他、ALSの筋痙攣ではレベチラセタム、Cramp-fasciculation症候群ではカルバマゼピンなどが有効かも
・テトラヒドロカンナビノールはALSの筋痙攣の予防に有効かも
筋痙攣に対する芍薬甘草湯の有効性について(6)
・腰部脊柱管狭窄症による筋痙攣に対して芍薬甘草湯群16名とエペリゾン塩酸塩群14名でその有効性を比較した日本神戸大学からの報告があります
Conplete response:筋痙攣の頻度が75%以上減少する
Partial response:筋痙攣の頻度が50-75%減少する
Minor response:筋痙攣の頻度が25-50%減少する
No response:筋痙攣の頻度が0%-25%減少する
・それぞれの薬剤を2週間内服した際に芍薬甘草湯群(7.5g/日)では16名中8名がConplete responseになったが、エペリゾン塩酸塩群では14名中1名しか同効果が得られなかった
・50%以上頻度が減少したのは芍薬甘草湯群の87%であった
・芍薬甘草湯群(7.5g/日)では服用開始後、16名中11名が3日以内に最大効果が得られた
・また別の28名の患者群で芍薬甘草湯7.5g/日を2週間内服後、症状に応じて自由に芍薬甘草湯量の調整を患者に委ねたときに12週後に症状が改善していたのは26名。その時の芍薬甘草湯の量は5名が7.5g/日、5名が5g/日、8名が2.5g/日、5名が2.5g屯用、3名が服用していなかった(寛解)
・効果が得られる芍薬甘草湯の最少用量は2.5gと考えられた
・芍薬甘草湯は服用を中止すると効果が減弱するため、原因が除去できない芍薬甘草湯の長期服用が必要な筋痙攣の場合に副作用が出ないようにするには2.5g/日にするのが良いかもしれません
【参考文献】
(1) Giuriato G et al. J Electromyogr Kinesiol. 2018 Aug;41:89-95. "Muscle cramps: A comparison of the two-leading hypothesis."
(2) Katzberg HD. J Neurol. 2015 Aug;262(8):1814-21. "Neurogenic muscle cramps."
(3) Allen RE et al. Am Fam Physician. 2012 Aug 15;86(4):350-5. "Nocturnal Leg Cramps."
(4) Swash M. et al. Eur J Neurol. 2019 Feb;26(2):214-221. "Muscular cramp: causes and management."
(5) UpToDate "Nocturnal leg cramps" Last updated: Dec 08, 2017.
(6) Takao Y et al. Kobe J Med Sci. 2015 Apr 4;61(5):E132-7. "Shakuyaku-kanzo-to (Shao-Yao-Gan-Cao-Tang) as Treatment of Painful Muscle Cramps in Patients with Lumbar Spinal Stenosis and Its Minimum Effective Dose."