リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

抗リウマチ薬、免疫抑制薬の感染症リスク

 関節リウマチの治療をしていると必ず遭遇するのが感染症です。免疫学の急速な発展に伴い、様々な機序の免疫抑制薬がと登場しております。

 

 この記事では各免疫抑制薬の感染症のリスクを検討しております。注意点としては関節リウマチ診療で単剤治療がほとんどされないため、薬剤同士のHead to Headでのリスク比較が困難な事です。いくつかの論文の結果を筆者の解釈に基づき、まとめてみました。参考程度にお考え頂ければ幸いです。

 

【ポイント】

・関節リウマチの治療薬には以下の通り、様々な薬剤がある

 ①短期的なステロイド

 ②DMARDs:メトトレキサート、スルファサラジン、レフルノミド(アラバ®)など

 ③生物学的製剤:TNFα阻害薬、アバタセプト(オレンシア®)、トシリズマブ(アクテムラ®)など

 ④JAK阻害薬:トファシチニブ(ゼルヤンツ®)、バリシチマブ(オルミエント®)

・上記の中で最も感染症リスクが高いのはステロイド

・DMARDsの感染症リスクはそれほど高くない(強いて言うならレフルノミドが高い)

・生物学的製剤全体として感染症リスクはそれほど高くないが、中でもTNFα阻害薬が高い

・TNFα阻害薬は開始1年以内は感染症リスクが高いがその後は下がる

・TNFα阻害薬は5種類あり、各々の有意差はないが、インフリキシマブ、アダリムマブはやや感染症のリスクが高い傾向、エタネルセプトはリスクがやや低いかもしれない

・生物学的製剤の中で最もリスクが低いのはアバタセプト

・JAK阻害薬は感染症リスクが低いが帯状疱疹だけは有意に発症リスクが高い

 

強いて順位をつけるとすると以下の通りになります。ステロイドにTNFα阻害薬が続きますが、その後は正直有意差がないように思います。

 ステロイド>>TNFα阻害薬≥トシリズマブ≥アバタセプト>DMARDs、JAK阻害薬

 

ステロイド感染症リスク

 まずはこの論文。2006年と古いですが、ステロイドとメトトレキサート、当時発売していたTNFα阻害薬(現在発売している5種類の内、インフリキシマブ、エタネルセプト、アダリムマブ)などの肺炎発症リスクを比較したものです(1)

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プレドニゾロン(PSL)の肺炎リスクはHR1.7と不使用者よりも70%リスクが高まる

・さらにPSL≤5mg、5mg≺PSL≤10mg、10mg≺PSLではハザード比が右肩上がり

・csDMARDsではメトトレキサート、スルファサラジン(アザルフィジン®)はリスクは上がらないがレフルノミド(アラバ®)はHR1.3とやや肺炎のリスクあり

・TNFα阻害薬ではインフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)はごく軽度リスクが上がるが、エタネルセプト(エンブレル®)がリスク低い

・ヒドロキクロロキン(プラケニル®)は現在SLEに適応があるが、関節リウマチでは研究レベルでしか使用されていない

 

→上記より、肺炎のリスクはステロイド>TNFα阻害薬、DMARDs(レフルノミド>メトトレキサート、スルファサラジン)となっております

 

 ステロイド感染症の発症リスクは間違いありません。下記記事でもご紹介した通り、少量ステロイドでも長期間の使用は感染症のリスクが上がるので、減らせるならば減らしていきたいですね…

 

TNFα阻害薬の感染症のリスク

 一方TNFα阻害薬の感染症のリスクについては上昇する報告もあれば、減少する報告もあります。この原因について、ある報告(2)ではTNFα阻害薬の重症感染症のリスクが使用開始後1年以内上昇し、それ以降低下するという『二相性の経過』をたどるためと発表しました。これは関節リウマチのコントロールが良好になり、ステロイドの併用量が減少するためと考えられております。

 

なお、同論文で以下の通り、ステロイド、DMARDs、TNFα阻害薬の併用で重症感染症のリスクが上がることも報告されております。

f:id:tuneYoshida:20190531195954p:plainf:id:tuneYoshida:20190601085606p:plain※Additional risk factorsの説明

 -One or Two→60歳以上、慢性肺疾患、慢性腎臓病、治療失敗

 -Three→上記の内2つに加えて重症感染症の既往がある場合

 《結果》

・TNFα阻害薬はDMARDよりも重症感染症のリスクを80%(HR1.8)上げる

 →感染症リスクはステロイド>TNFα阻害薬>DMARDsと考えられます

 

 続いての論文は日本からの報告です(3)。こちらもTNFα阻害薬5種類とアバタセプトを比較したものです。

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《結果》

・TNFα阻害薬、アバタセプト間で重症感染症リスクに有意な差がないが、インフリキシマブ、アダリムマブでややリスクが高く、アダリムマブでやや低い傾向がある

 

→TNFα阻害薬ではエタネルセプトが感染症のリスクが低いかもと言われてきましたが、正直感染症のリスクはそれほど変わらないと思います、強いて言うなら…

 感染症のリスクが低いかも:エタネルセプト>ゴリムマブ、セルトリズマブ

 感染症のリスクが高いかも:インフリキシマブ、アダリムマブ

 

アクテムラの感染症のリスク

 続いてこの論文(4)日和見感染症のリスクをTNFα阻害薬、リツキシマブ(リツキサン®)、トシリズマブ(アクテムラ®)とで比較したものです。

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※リツキシマブは2019年6月現在、関節リウマチに保険適応はありません

《結果》

日和見感染症にはニューモシスチス肺炎(PCP)、レジオネラ感染症、アスペギルス感染症カンジダ感染症、クリプトコッカス感染症クリプトスポリジウム感染症トキソプラズマ症、CMV、帯状疱疹結核、リステリア感染症などが含まれる

日和見感染症自体の頻度は毎年0.1%程度

・TNFα阻害薬と比較するとリツキシマブ、トシリズマブは日和見感染症のリスクが低い

・ただしPCPに関してはリツキシマブがTNFα阻害薬よりも高い

・Supplementary dataより、結核のリスクはエタネルセプトが最も低い

 

→上記より日和見感染症の頻度自体がそれほど高くありませんが

 TNFα阻害薬>(リツキシマブ(リツキサン®))、トシリズマブ(アクテムラ®)という関係がもしかしたらあるかもしれません…

 

アバタセプトの感染症のリスク

 次の論文はTNFα阻害薬5種類全部とリツキシマブ(リツキサン®)、トシリズマブ(アクテムラ®)、アバタセプト(オレンシア®)を比較した論文です(5)

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※リツキシマブは2019年6月現在、関節リウマチに保険適応はありません

《結果》

・アバタセプトと比較して開始1年以内の感染症のリスクはエタネルセプト、インフリキシマブ、リツキサンで有意に高い

・他のTNFα阻害薬、トシリズマブと比較すると有意ではありませんがアバタセプトの方が感染症のリスクは低い傾向

 

感染症のリスクはTNFα阻害薬(特にインフリキシマブ)>(リツキシマブ)>トシリズマブ≥アバタセプトとなるかもしれません。

→エタネルセプトは本研究では感染症のリスクが高いと論じられておりますが、一般的にTNFα阻害薬の中では感染症のリスクは低いと考えられております。どちらの結果も報告されているので、どちらかは判断できません。

 

JAK阻害薬の感染症のリスク(6)

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・2019年6月現在、日本で関節リウマチに保険適応があるJAK阻害薬はトファシチニブとバリシチマブ

帯状疱疹を除く感染症のリスクはプラセボと比較して高くない

・しかし帯状疱疹に関してはトファシチニブ、バリシチマブで有意に感染リスクが高い

 

→JAK阻害薬は感染症のリスクは低いですが、帯状疱疹だけは有意に多いです。しかも日本人と韓国人に多いと言われおります。現時点で原因ははっきりしておりません…

 

【参考文献】

(1) Wolfe F. et al. Arthritis Rheum. 2006 Feb;54(2):628-34. "Treatment for rheumatoid arthritis and the risk of hospitalization for pneumonia: associations with prednisone, disease-modifying antirheumatic drugs, and anti-tumor necrosis factor therapy."

(2) Strangfeld A. et al. Ann Rheum Dis. 2011 Nov;70(11):1914-20. "Treatment benefit or survival of the fittest: what drives the time-dependent decrease in serious infection rates under TNF inhibition and what does this imply for the individual patient?"

(3) Hashimoto A. et al. Nihon Rinsho Meneki Gakkai Kaishi. 2015;38(2):109-15. "Risk of serious infection in patients with rheumatoid arthritis."

(4) Rutherford AI. et al. Rheumatology (Oxford). 2018 Jun 1;57(6):997-1001. "Opportunistic infections in rheumatoid arthritis patients exposed to biologic therapy: results from the British Society for Rheumatology Biologics Register for Rheumatoid Arthritis."

(5) Yun H. et al. Arthritis Rheumatol. 2016 Jan;68(1):56-66. "Comparative Risk of Hospitalized Infection Associated With Biologic Agents in Rheumatoid Arthritis Patients Enrolled in Medicare." 

(6) Winthrop KL. Nat Rev Rheumatol. 2017 Apr;13(4):234-243. "The emerging safety profile of JAK inhibitors in rheumatic disease."