免疫抑制薬の周術期の休薬期間
免疫抑制薬の周術期の休薬期間については外科系の先生からしばしば相談があります。日本のガイドラインでは全ての免疫抑制薬についてあまり明確な期間の記載はありませんが、多くの研究では半減期を考慮し、術前はその1.5~2倍程度の休薬期間を設定していることが多いです。しかし、本音のところ休薬期間はもう少し短くても良いのではないかとも思います。今回は日本のガイドラインと米国のガイドラインをご紹介したいと思います。
【ポイント】
・術前のDMARDsの中止は不要
・生物学的製剤は投与間隔と同じ間隔だけ、術前中止期間を設ける
・術後再開は少なくとも2週間経過しており、創部治癒が十分で、感染徴候がないことが大前提
以下に日本のガイドラインからの記載を添付します。
関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用ガイドライン(2018年11月4日改訂版)
・インフリキシマブ(レミケード®):術前4週間
・エタネルセプト(エンブレル®):術前1-2週間
・アダリムマブ(ヒュミラ®):術前3-4週間
※ゴリムマブ(シンポニー®)、セルトリズマペゴル(シムジア®)については記載なし
関節リウマチ(RA)に対するIL-6阻害薬使用ガイドライン(2018年8月14日改訂版)
・明確な記載なし
関節リウマチ(RA)に対するアバタセプト使用ガイドライン(2017年3月21日改訂版)
・半減期(薬10日)を考慮して、最終投与より一定期間を空けて手術を行う事が望ましい
・手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことが確認できれば再投与可能
全例市販後調査のためのトファシチニブ使用ガイドライン(2014年6月29日改訂版)
・明確な記載はないが、休薬が望ましい
・手術後は創がほぼ完全に治癒し、感染の合併がないことを確認後の投与が望ましい
なお、米国リウマチ学会、整形外科学会の合同ガイドライン(1)では以下のように休薬期間の推奨がなされております。私としてはこのガイドラインの方がDMARDsやその他の生物学的製剤についても詳細に載っているので、参考になるかと思います。
《DMARDs》
→DMARDsは周術期も継続が可能です。
《生物学的製剤》
※薄い文字は日本で2019年6月現在、リウマチ・膠原病疾患で保険適応となっていない薬剤です。
→これを見ると薬剤の投与間隔と同じ期間だけ、術前中止期間を設ければ良いことがわかります。
→再開に関しては少なくとも2週間経過して、創部治癒が十分で、感染徴候がない場合とのことです。
続いてSLEの薬剤についてです。同ガイドラインではSLEの活動性を重症かそうでないかによって薬剤の継続中止を検討しているようです。
《重症なSLE》
《重症でないSLE》
→重症なSLEに関しては継続となっておりますが、各患者毎に判断すべきでしょう…
→中止した場合の再開時期に関しては術後3-5日後、創部治癒が十分で、感染徴候がない場合となっております
【参考文献】
(1) Goodman SM, et al; J Arthroplasty. 2017 Sep;32(9):2628-2638. "2017 American College of Rheumatology/American Association of Hip and Knee Surgeons Guideline for the Perioperative Management of Antirheumatic Medication in Patients With Rheumatic Diseases Undergoing Elective Total Hip or Total Knee Arthroplasty."