【永久保存版】強皮症の自己抗体
皮膚筋炎や強皮症などの疾患は自己抗体が診断に有用であることはもちろん、ある程度、病因や臨床経過、障害臓器、予後に関係することが分かっております。
今回は強皮症の自己抗体についてまとめたいと思います。
【ポイント】
・抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)、抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体の3つが保険適応で強皮症の50%を占める(抗RNAポリメラーゼIII抗体は出し忘れが多いので注意しましょう!!)
・3つの抗体はお互いに排他的であり、2つが陽性であることは稀と言われている
※抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)、抗セントロメア抗体がともに陽性となるのは0.6-5.6%程度(2)
・近年、抗体同定の技術が進歩し、研究室レベルでは上記以外の抗体が同時に陽性となることは稀ではない
・陽性となった抗体が正常化する事は少ないが、正常化する場合は予後良好を示唆する
・予後良好:抗セントロメア抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体、抗U1RNP抗体、抗PM-Scl抗体、抗Ku抗体
・予後不良:抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)、抗Th/To抗体、抗U3RNP抗体
【※更新】
2023.06.05 抗U11/U12抗体:Nucleolar→dense fine speckled/fine speckled/large coarse speckles
全抗体のまとめです。
dcSSc:びまん皮膚硬化型全身性強皮症
lcSSc:限局皮膚硬化型全身性強皮症
【強皮症特異抗体】
抗セントロメア抗体
・強皮症に認められる抗体で最多、かなり特異的
・ただしSLEやシェーグレン症候群、原発性胆汁性肝硬変、レイノー現象で認められることもある(2)
・白人女性に多く、黒人には少ない
・セントロメア蛋白Bが抗原
・抗セントロメア抗体陽性のレイノー現象陽性患者では強皮症に進展するリスクがある
・限局皮膚硬化型全身性強皮症に関連(5-7%はびまん皮膚硬化型全身性強皮症)
・肺線維症や腎クリーゼ(1)、心病変(2)が少ない
・肺線維症がなくても肺高血圧症が多い
※抗Scl-70抗体は肺線維症がなければ、単独で肺高血圧症にはならない
・重症の手指血管症、手指潰瘍のリスクは少ない
・抗セントロメア抗体陽性の強皮症患者は原発性胆汁性肝硬変のリスクが高くなるが、強皮症のない原発性胆汁性肝硬変患者よりも肝臓の予後は良い
・血清抗セントロメア抗体値は臨床経過と関係しない
抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)
・抗トポイソメラーゼI抗体は70kDaの蛋白に反応するため、かつては抗Scl-70抗体と呼ばれていたが、これは間違いで、70kDaの蛋白はもともとは100kDaの蛋白の分解産物であるため、現在は抗トポイソメラーゼI抗体と呼ぶことが正しい(2)
・ 免疫拡散法では強皮症に特異的だが、ELISA法では特異性は減少する(他の結合織病でも陽性となる)
・強皮症に90-100%の特異性を持つ(2)
・抗トポイソメラーゼI抗体陽性例の60%がびまん皮膚硬化型全身性強皮症
・抗トポイソメラーゼI抗体陽性のレイノー現象陽性患者では強皮症に進展するリスクが高い(2)
・肺線維症や手指潰瘍(1)、関節病変、腱摩擦音、重症の心病変を起こす(2)
・抗トポイソメラーゼI抗体値はスキンスコア値、疾患の重症度、活動性に関連する
・経過中に抗トポイソメラーゼI抗体値が20%が正常化する(2)が、その場合は、疾患の活動性が軽症となり、予後良好となる
抗RNAポリメラーゼIII抗体
・抗RNAポリメラーゼII抗体はSLEに見られるが、抗RNAポリメラーゼIII抗体(IとIIとIIIが一緒に陽性となる場合)は強皮症に特異的
・抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性例の67-93%がびまん皮膚硬化型全身性強皮症
・腎クリーゼに関連(抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性例の43%が発症)
・逆に腎クリーゼ患者の59%が抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性
・抗RNAポリメラーゼIII抗体値は臓器障害や疾患の予後に関連しないが皮膚病変の重症度には関連する
・腱摩擦音、滑膜炎、筋炎、関節病変、悪性腫瘍とも関連する(2)
抗Th/To抗体
・抗原はsmall nuclear ribonucleoproteins(RNPs)でRNase MRP, RNase Pの構成因子
・強皮症にかなり特異的(特異度99%)だが、陽性は稀
・関節リウマチ、SLE、多発筋炎、シェーグレン症候群患者で稀に陽性となる
・限局皮膚硬化型全身性強皮症に関連(抗Th/To抗体陽性例の21%がびまん皮膚硬化型)
・28-32%が肺高血圧症を発症する
・肺線維症を発症するリスクが高いが、抗Scl-70抗体と異なり、重症の手指血管症は少ない
・腎クリーゼを発症する頻度も高い(2)
抗U3RNP抗体
・34kDaのフィブリラリン(small nuclear RNP)が抗原
・他の結合織病でも陽性となるが、強皮症に特異的
・アフリカ-アメリカン人種に多い(2)
・黒人の男性で多い、白人の女性では少ない
・黒人で陽性例は予後不良と関連する
・びまん、限局皮膚硬化型全身性強皮症のいずれも呈するが、びまん型が多い
・抗U3RNP抗体陽性例の25-33%が筋病変(近位筋筋力低下、CK上昇、筋電図異常、筋生検で筋炎所見)を有する
・肺高血圧症(1)、心病変や腎クリーゼ(2)と関連する
・重症の小腸病変と関連するという報告もある
抗U11/U12RNP抗体
・スプライソゾームが抗原
・報告は少ないが強皮症に100%の特異性があるかもしれない
・肺線維症(1)に加えてレイノー現象や消化器病変(2)と関連
【強皮症オーバーラップ関連抗体】
抗PM-Scl抗体
・ヒトエキソソームが抗原でPM-Scl75とPM-Scl100が最も認識されている構成因子
・PM-Scl75c(PM-Scl75のN末端が延長したタイプ)が最も多い抗体のエピトープ
・強皮症に特異的ではなく、多発性筋炎/皮膚筋炎(55%)やSLE、シェーグレン症候群で陽性となる
・肺線維症(抗PM-Scl抗体陽性例の85%)、手指潰瘍の高リスクである
・肺高血圧症にはなりにくい
・欧米ではしばしば報告されるが、日本からの報告は稀
抗Ku抗体
・全身性強皮症の2%に認める稀な抗体
・非特異的で未分類結合織病、SLE・多発性筋炎/皮膚筋炎・強皮症・シェーグレン症候群のオーバーラップ症候群で見られる
・多発性筋炎/皮膚筋炎、SLE、強皮症単独ではあまり認めない
・筋病変、関節病変と関連するが、重症の手指血管症は稀
抗U1RNP抗体
・オーバーラップ症候群(SLE、RA、筋炎)に関連する
・限局皮膚硬化型全身性強皮症に多い
・抗U1RNP抗体陽性例のいくつかはMCTDの分類基準を満たす
・抗U1RNP抗体陽性例はしばしば抗Ro/SSA抗体、抗La/SSB抗体、抗Sm抗体が陽性となる
抗リン脂質抗体
・抗リン脂質抗体症候群を発症する
・強皮症患者では抗カルジオリピン抗体、抗β2GP1抗体が陽性となった報告あり
・抗カルジオリピン抗体陽性例は肺高血圧症と関連する
・抗β2GP1抗体陽性例は重症手指血管症と関連する
《抗体別生存率》
・抗トポイソメラーゼI抗体(抗Scl-70抗体)陽性患者では長期生存率は他と比べると低い(間質性肺炎合併のため)
・抗RNAポリメラーゼIII抗体陽性患者の生存率が改善したのはACE阻害薬の登場による
・ここに載っていないが、抗PM-Scl抗体、抗Ku抗体陽性例は予後良好、抗Th/To抗体、抗U3RNP抗体陽性例は予後不良
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※ここから下は専門的な内容です。読み飛ばして頂いて構いません※
最近になり、核以外の抗原に対する抗体が強皮症で見つかって参りました(2)。
・抗fibroblast抗体によってfibroblastがin vitroで活性化させるとコラーゲンマトリックスが減少し、MMP-1が産生される
・抗fibrillin-1抗体はin vitroでfibrobrastを活性化させ、TGF-βを産生させる結果、コラーゲンと細胞外マトリックスが産生される
・抗TGF-β抗体は抗fibrillin-1抗体によるfibroblastの活性化を減少させる
・抗MMP-1/MMP-3抗体はコラーゲンや細胞外マトリックスの過剰状態を是正すると考えられる
・抗内皮細胞抗体は重症の血管病変に関連し、内皮細胞の活性化とアポトーシスを誘発させる
・強皮症患者の皮膚の血管内皮細胞ではfibrillin-1の遺伝子と蛋白発現が増加している
・抗内皮細胞抗体を加えることで、アポトーシスを起こした皮膚の血管内皮細胞内でfibrillin-1が著明に増加する
・抗PDGF受容体抗体は強皮症患者で100%見られるが特異的ではない
・強皮症患者のIgGがPDGF受容体を活性化させ、Ha-Ras-ERK1/2経路とROS(reactive oxygen spesies)を誘導する、これらはI型コラーゲン遺伝子の発現を刺激し、fibroblastを活性化myofibroblastにさせる
・抗AT1R/ETAR抗体は肺線維症、肺高血圧症、高い死亡率に関連する
・これらは内皮細胞のそれぞれの受容体に結合し、TGF-β遺伝子発現を増加させ、線維化を促進させる
・抗AT1R/ETAR抗体によってhuman microvascular endothelail cells(HMEC-1)の活性化が起こる
・HMEC-1が活性化するとIL-8やvascular cell adhision molecule-1(VCAM-1)のmRNAが増加し、好中球の遊走が増加する
・fibroblastも抗AT1R/ETAR抗体によってI型コラーゲンを大量に産生するようになる
【参考文献】
(1) Nihtyanova SI, et al. Nat Rev Rheumatol. 2010 Feb;6(2):112-6. Autoantibodies as predictive tools in systemic sclerosis.
(2) Kayser C, et al. Front Immunol. 2015 Apr 15;6:167. Autoantibodies in systemic sclerosis: unanswered questions.