関西に多い!?~パンケーキ症候群~
最近『パンケーキ食べた~い』という芸人が活躍していますが、皆様、パンケーキ症候群をご存じでしょうか。関西に住んでいると特に意識しなければならない疾患の一つです。
【概論】
・1993年に初めて報告された、パンケーキを食べた後にアナフィラキシーを起こす疾患
・パンケーキに含まれる小麦粉に対するアレルギーではなく、粉に混入したダニに対するダニアレルギー
・別名『口腔ダニアナフィラキシー(Oral mite anaphylaxis)』
【原因食物】
・欧米ではパンケーキ食が多いが、日本では少なく(11%)、お好み焼き(82%)やたこ焼き(11%)を食べた後に起こすことが多い(1)
・小麦粉よりもミックス粉が多い(1)
→アミノ酸が含まれ、ダニの成長に必要な栄養価が高いため
・ミックス粉を開封後、常温の環境下で長時間放置することでダニが混入する
・調理粉を1か月以上(ほとんどが6か月以上)放置した場合にダニの混入が多くなる(1)
【原因ダニ(1)(2)】
屋内ダニ
チリダニ科
◎コナヒョウダニ:Dermatophagoides farinae
◎ヤケヒョウダニ:Dermatophagoides pteronyssinus
貯蔵庫ダニ
ムギコナダニ:Aleuroglyphus ovatus
◎サヤアシニクダニ:Lepidoglyphus destructor
◎ケナガコナダニ:Tyrophagus putrescentiae
ムシクイコナダニ:Thyreophagus entomophagus
ネッタイタマニクダニ:Blomia tropicalis
◎アシブトコナダニ:Acarus siro
※◎がつくダニはコマーシャルベースで特異的IgEが測定できるものです
・貯蔵庫ダニが原因として多いように思うが、実際は屋内ダニであるチリダニ科のコナヒョウダニとヤケヒョウダニが最も多い
・これはチリダニ科のダニ抗原と貯蔵庫ダニのダニ抗原とが交差反応を示すためである
・これらのダニはアトピーや、気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎の原因ともなるため、もともとこれらのアレルギー疾患の既往がある患者が、ダニ混入粉を摂取することでアナフィラキシーを起こす
【リスク】
(1) アトピー疾患の既往
(2) ダニ過敏症
(3) NSAIDsの過敏性
(4) ダニが混入している小麦粉やその他の食べ物の摂取
(5) 1g以上のダニ抗原(1gあたり500個以上のダニ)の摂取
【症状】
・蕁麻疹/血管浮腫(64%)、呼吸苦(53%)、wheeze(44%)
・ほとんどの患者は摂食後15-30分以内に症状が出現している
【診断】
・パンケーキ症候群の診断には決まったものがない
・以下にあるグループが提唱する診断基準案を示す(3)
・救急外来では摂食した調理粉を少量スライドグラスに撒き、油滴し、顕微鏡でダニを観察することが最も簡便で早い
・後日、皮膚テストや血液検査で特異的IgEを検査する
★パンケーキ症候群の診断基準案(3)
(1) 小麦商品接種後の症状発現
(2) アレルギー性鼻炎、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーの既往歴
(3) ダニ特異的IgEが陽性
(4) 被疑粉の皮膚テストが陽性
(5) ダニ非混入の小麦粉の皮膚テストが陰性
(6) ダニ非混入の小麦粉の摂取で症状が出ない
(7) 顕微鏡下で被疑粉の中にダニを認める
(8) 被疑粉の中のダニ抗原が陽性
(9) アスピリン・NSAIDs過敏症
※ただし、何項目で陽性か明確に決まっているわけではない
・海外ではアスピリンやNSAIDsの過敏症の率が高い(50-70%)が、日本人は少ない(10%)
・機序としてはNSAIDsによってCOX-1が阻害されるとシスチニルロイコトリエンが調節できなくなり、IgEが産生され、アレルギー性炎症が増加するためと考えられている
・果物などの摂取後に起こる口腔アレルギー症候群と鑑別を要するが、口腔アレルギー症候群では加熱により、アレルゲン性が低下するのに対して、パンケーキ症候群のダニ抗原(特にDer2)は100度で1時間以上加熱してもアレルゲン性が残る
【重症度】
・75%がアナフィラキシーの重症度スコア4と重症が多い
【治療】
・アナフィラキシーに準じて治療を行う
【予防】
・一度開けた調理粉は必ず低温(冷蔵庫)で保存し、早めに使い切る
【参考文献】
(1) Takahashi K, et al. Allergol Int. 2014 Mar;63(1):51-6. Oral mite anaphylaxis caused by mite-contaminated okonomiyaki/ pancake-mix in Japan: 8 case reports and a review of 28 reported cases. PMID=24569151
(2) Sánchez-Borges M, et al. World Allergy Organ J. 2009 May;2(5):91-6. Pancake syndrome (oral mite anaphylaxis). PMID=23283016
(3) Sánchez-Borges M, et al. J Allergy Clin Immunol. 2013 Jan;131(1):31-5. Anaphylaxis from ingestion of mites: pancake anaphylaxis. PMID=23154081