繰り返す髄膜炎の鑑別
再発性髄膜炎の鑑別としてMollaret髄膜炎(HSV-2による髄膜炎)がありますが、正直、これ以外の髄膜炎の鑑別をあまり知らなかったです。
少し前に、髄膜炎を繰り返している患者がいたので、鑑別をまとめてみました。
【ポイント】
・再発性髄膜炎は5つのカテゴリーに分けられる
・ウイルス性ではHSV-2が多い
・細菌性では外傷性頭蓋底骨折や副鼻腔骨折などの解剖学的異常や免疫不全症が最も原因として多い
・起炎菌ではStreptococcus pneumoniae, Haemophilus influenza, Neisseria meningitides, Staphylococcus aureusが多い
・真菌感染ではCryptococcus neoformans, Candida speciesが多い
・悪性腫瘍では固形癌(乳癌、肺小細胞癌、悪性黒色腫)の軟膜転移や、リンパ腫の中枢浸潤が多い
・薬剤性は①NSAIDs(特にイブプロフェン)、②抗菌薬、③抗痙攣薬、④免疫抑制薬、⑤抗癌剤が多い
・自己免疫疾患ではベーチェット症候群、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、Vokt-小柳-原田病が代表的
【概要】
・再発性髄膜炎の定義は『少なくとも2回の髄液細胞増加を伴う頭痛、発熱、髄膜症』です
・頭痛は軽症から重症まで原因によって様々
・いくつかの原因(特に悪性腫瘍による髄膜炎、サルコイドーシス、シェーグレン症候群など)による再発性髄膜炎は巣症状を伴う
・再発性髄膜炎はしばしば非細菌性だが、解剖学的異常や免疫不全がある場合は細菌性でも再発性となり得る
・再発性髄膜炎は5つのカテゴリーに分けられる
・上記の多くの原因は急性髄膜炎にも慢性髄膜炎(4週間以上の経過)にもなり得る
(表)再発性髄膜炎の鑑別
《感染症》
ウイルス
・HSV-2による髄膜炎がMollaret髄膜炎と命名されているが、HSV-1やEBVも再発性髄膜炎の報告がある
・Mollaret髄膜炎は1944年にフランス人の神経内科医Pierre Mollaret氏が初めて3名の再発性の無菌性髄膜炎のレポートを報告
・これらの患者では髄膜炎のエピソード時に髄液中にMollaret細胞(大きい単核の細胞)が検出されたという
・これらの細胞は単球由来で髄膜炎発症の24時間以内に見られる
・1990年代になり、Mollaret髄膜炎の原因がHSV-2であることがPCRの検査で判明した
・HSV-2による再発性髄膜炎は稀な疾患であり、2.2人/10万人である
・Mollaret髄膜炎の患者では健常者やHSV-2の陰部疾患患者よりもHSV-2に対する自然免疫や獲得免疫が亢進しているという
・50%以上のMollaret髄膜炎の患者ではHSV-2による陰部ヘルペス歴がない
・しかし、陰部ヘルペス同様、仙髄背側の感覚神経の神経節がHSV-2の潜伏部位と考えられている
・Mollaret髄膜炎の平均年齢は40歳、70%が女性
・少なくとも10回まで再発性の髄膜炎を起こす
・アシクロビルが逸話的に使われるが、抗ウイルス薬なしで改善することもMollaret髄膜炎の根拠となる
・高用量のバラシクロビルは有効なようだが、まだ十分なデータはない
(図)Mollaret細胞
細菌感染
・異なる病原体による2回以上の髄膜炎、または同じ病原体による複数回の髄膜炎エピソードを言う
・114例のレビューでは59%に解剖学的異常、36%に原発性または二次性免疫不全症が認められた
・その他、以下のリスクが挙げられる
・後天性の解剖学的異常には外傷性頭蓋底骨折や副鼻腔骨折が最も原因として多い
・これらでは24-48時間以内に髄液漏が見られるが、数か月後に起こることもある
・頭蓋底の頭蓋咽頭腫や小脳橋角部腫瘍の術後にも起こり得る
・先天性内耳奇形(例:Mondini型奇形)は再発性細菌性髄膜炎のリスクである
・この状態では髄液と中耳との瘻孔が形成されるためである
・Mondini型奇形では蝸牛管やInterscalaar septumの奇形が起こり、感音性難聴や耳管からの髄液瘻孔を引き起こす
・Mondini型奇形では幼少期から細菌性髄膜炎を繰り返す
・先天性の神経管欠損(二分脊椎、脳ヘルニア、先天性皮膚洞など)も再発性細菌性髄膜炎を起こす
・腰仙椎での奇形は幼少期から再発性細菌性髄膜炎を起こすが、頚胸椎や脳レベルの奇形ではより遅くに発症する傾向がある
・おそらくは腰仙椎は乳児期より便に対する曝露があるためであると考えられる
・免疫不全では補体欠損が最多で、次いでHIV/AIDS、IgGサブクラス欠損、無脾症が再発性の細菌性髄膜炎の頻度が高い
・免疫抑制患者では臓器移植後が再発性細菌性髄膜炎のリスクが高い
・特に肝移植後が多いが、おそらくは同時に脾摘しているためと考えられる
・小児の先天性免疫不全症では小児期の後半、成人期の早期に再発性細菌性髄膜炎を起こす傾向がある
・再発性細菌性髄膜炎の起炎菌としてはStreptococcus pneumoniae, Haemophilus influenza, Neisseria meningitides, Staphylococcus aureusが多い
・小児の腰仙椎奇形では糞便曝露のため、Escherichia coliが多い傾向
・補体成分でC5-C9が不足している場合は再発性髄膜炎菌性髄膜炎と関連しているが、C2-C6不足は再発性の髄膜炎菌性髄膜炎と肺炎球菌性髄膜炎と関連している
・再発性細菌性髄膜炎は単回の髄膜炎と比較すると予後良好である(死亡率25% vs 6%)
・これはおそらく、最初のエピソード後に髄膜炎に対する認知が早くなるためである
・再発性細菌性髄膜炎は速やかに広範な精査を行う(詳細な病歴、正中線欠損(midline defect)の診察、脳・頭蓋底・側頭骨などの画像検査(CT、MRI、放射線シンチグラフィー)、オーディオメトリーを含めた耳鼻科的検査など)
・免疫不全症に対する血清学的検査(IgGサブクラス、補体、HIV)も行う
・鼻漏や耳漏はβ2トランスフェリンを測定し、髄液かどうかを同定する
・再発性細菌性髄膜炎の予防にはリスク因子の除外(奇形の手術を含む)と年齢に応じたワクチンの接種(2つの肺炎球菌ワクチン)が必要
・予防的抗菌薬の使用は先天性、後天性免疫不全症で推奨されるが、有用性について十分なデータはない
・解剖学的奇形に対する予防的抗菌薬の使用についてはcontroversial
・頭蓋鄭骨折に伴う髄液漏に対して予防的抗菌薬の使用に関してもメタ解析で有効性を示せてはいない
真菌感染
・真菌による再発性髄膜炎は中枢神経器具挿入後に、問題となる感染源に曝露された場合に起こり得る
・免疫不全状態(HIV/AIDS, 臓器移植後)が持続する場合もリスクとなり得る
・最も多い原因はCryptococcus neoformans, Candida species
・Histoplasma capsulatum, Blastomyces dermatitidis, Coccidioides immitisも起こし得る
・クリプトコッカス感染症では抗レトロウイルス治療を始めた後に逆説的に再発性髄膜炎を起こすことがある
・これは潜伏感染に対する二次性の免疫反応の増強または免疫再構成症候群と考えられている
・髄液検査ではリンパ球上昇、蛋白増加、糖低下が見られる
寄生虫感染
・稀にEchinococcosis species, Strongyloides stercoralis, Toxoplasma gondiiが再発性髄膜炎と関連する事がある
・Toxoplasma gondiiによる再発性髄膜炎では潜伏感染の再活性化や治療後にJarisch-Herxeimer反応が起こり得る
・流行地への旅行歴がある場合、免疫不全がある場合、好酸球増多症がある場合に考慮
《悪性腫瘍》
・悪性腫瘍の脳転移が再発性髄膜炎を起こし得る
・固形癌の軟膜転移や、リンパ腫の中枢浸潤を介して癌性髄膜炎が起こる
・癌患者の約5%に固形癌の軟膜転移が起こる
・乳腺、肺癌(特に小細胞癌)、悪性黒色腫が最もクモ膜下腔に浸潤しやすい固形癌だが、あらゆる癌が血行性、リンパ行性に軟膜に播種または脳実質から直接進展する
・神経学的異常がある場合は疑う
・頭痛や中枢神経麻痺は75%までの症例に見られるが項部硬直は癌性髄膜炎の診断時、10%しか認めない
・髄液細胞診がゴールドスタンダードだが、陽性率は様々で繰り返すことが重要
・その他、初圧の上昇、髄液リンパ球上昇、タンパク質上昇、糖低下が見られる
・画像検査ではMRIが良いが、正常でも否定できない
・髄液のフローサイトメトリーが報告されている
・軟膜転移を認める固形癌は90%が診断時に既に進行癌であることが多く、予後は3か月生存率で不良
・血液腫瘍は固形癌よりも寛解期に全身疾患がない状態で軟膜転移を起こす
・リンパ腫性髄膜炎はホジキンリンパ腫では稀だが、5-9%の非ホジキンリンパ腫は中枢神経病変(主に軟膜病変)を発症する
・急性リンパ性白血病は急性骨髄単球性白血病は軟膜転移のハイリスク
・髄液フローサイトメトリーは髄液細胞診に加えてリンパ腫性や白血病性髄膜炎の診断に有用だが、感度は低い
・癌性髄膜炎の標準治療は抗癌剤の髄注、抗癌剤の全身投与、放射線治療がある
・脳室シャントは症候性の水頭症に有効だが、感染や腹膜播種のリスクがある
・HER2陽性乳癌の軟膜転移に対してトラスツズマブの髄注試験が進行中(phaseI/II NCT01325207, NCT01373710)
・急性や慢性髄膜炎では癌性髄膜炎を考慮すべきだが、再発性髄膜炎では軟膜癌腫症を考慮すべきである(特に癌の既往がある場合)
・腰椎穿刺(頭蓋内圧の減少)によって症状が改善する場合や保存的加療で改善する場合は無菌性髄膜炎として誤診されやすい
・MRI前に腰椎穿刺をすると、その行為自体でMRIに陽性所見が出ることがある事に注意する
《良性腫瘍》
・頭蓋咽頭腫はラトケ嚢胞の遺残に起因するトルコ鞍部の良性腫瘍である
・しばしば小児期に頭痛、視野異常で来院する
・再発性無菌性髄膜炎は頭蓋咽頭腫の内容物が髄液内にリークすることで起こる
・無菌性髄膜炎は腫瘍切除後と腫瘍再発時に自然に起こる
・頭蓋底手術後は細菌性髄膜炎も考慮する
・類表皮腫や類皮腫は成人にも小児にも再発性無菌性髄膜炎を起こす
・これらは先天性であったり、腰椎穿刺などの手技の際に医原性に起こったりする
・スタイレットを用いた穿刺手技の場合は リスクが減ると言われている
《薬剤性》
・5つのカテゴリーのクスリが挙げられる、①NSAIDs、②抗菌薬、③抗痙攣薬、④免疫抑制薬、⑤抗癌剤
・NSAIDsではイブプロフェンが薬剤誘発性無菌性髄膜炎の最も多い原因で、リウマチ膠原病疾患(特に全身性エリテマトーデス)で見られる
・イブプロフェンで無菌性髄膜炎が起こった場合はリウマチ膠原病疾患を検索すべき
・抗菌薬ではST合剤など、免疫抑制薬ではIVIG、メトトレキサートなど、抗痙攣薬ではラモトリギンなどがリスク薬剤
・さらにTNF阻害薬などの免疫抑制薬やモノクローナル抗体製剤(セツキシマブなど)でも薬剤誘発性無菌性髄膜炎が起こり得る
・しばしば薬剤曝露後48時間以内に発熱、頭痛、髄膜刺激症状などが出現する
・薬剤の中止で症状は改善し、再投与で再発する
・髄液では好中球やリンパ球増多、タンパク質増加、糖正常が見られる
・薬剤誘発性無菌性髄膜炎は除外診断で、感染性髄膜炎を特に除外する
《自己免疫疾患》
・再発性無菌性髄膜炎は自己免疫疾患の稀な合併症
・ベーチェット症候群、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、サルコイドーシス、Vokt-小柳-原田病が代表的
・ベーチェット症候群では発症後5年以内に神経病変(髄膜脳炎、横断性脊髄炎、静脈洞血栓症、視神経ニューロパチー、動脈性脳卒中、頭痛)が起こりやすい(特に男性)、頻度は2.2%-49%と幅がある
・頭痛はベーチェット症候群の神経学的症状で最も多い
・そこには片頭痛や緊張型頭痛などの一次性頭痛、ベーチェット症候群の神経病変による直接的な頭痛などが含まれる、前者がより多い
・ベーチェット症候群の二次性頭痛は静脈洞血栓症、疾患活動性が高い時に起こる中枢神経系の炎症の続発症によって起こるが、頻度は再発性髄膜炎は稀
・再発性髄膜炎は全身性エリテマトーデスでも起こり得る
・全身性エリテマトーデスでの神経合併症は20%-75%
・全身性エリテマトーデスでの再発性無菌性髄膜炎はしばしばNSAIDsの使用時に薬剤誘発性無菌性髄膜炎として起こるが、原疾患単独でも起こり得る(機序は不明)
・シェーグレン症候群は急性、慢性、再発性無菌性髄膜炎を起こし得る
・70%のシェーグレン症候群患者が神経合併症(中枢神経麻痺、ニューロパチー、横断性脊髄炎、髄膜炎)を罹患する
・ SLE同様、シェーグレン症候群でもNSAIDsなどの薬剤誘発性無菌性髄膜炎を起こし得る
・サルコイドーシスの5%-10%が中枢神経病変を有する
・サルコイドーシスは亜急性、慢性、再発性無菌性髄膜炎を起こし得る(一般的に脳底部を侵す)
・自己免疫疾患による二次性髄膜炎の場合、髄液中のリンパ球・好中球増多、蛋白質は正常または増加、糖は正常または低下し、オリゴクローナルバンドは陰性(シェーグレン症候群は除く)
・ベーチェット症候群の髄膜炎では初期の髄液中では好中球が増加するが、その後リンパ球に変わる
・ステロイド、免疫抑制薬(アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート)が使われる
・神経サルコイドーシスではインフリキシマブがしばしばステロイド抵抗性の場合に使用される
・Vokt-小柳-原田病は再発性無菌性髄膜炎、両側ブドウ膜炎、脈絡膜炎、感音性難聴、皮膚の色素脱失、30代で白髪などを特徴とする稀な自己免疫疾患
・T細胞由来にメラニン色素細胞が障害される疾患
・髄液所見ではメラニンを含んだマクロファージが認められる
・高用量のステロイドに免疫抑制薬(特にシクロスポリン)を追加して治療する
《その他》
・一過性頭痛、神経障害、髄液中リンパ球増加(Headache and Neurological Deficits with cerebrospinal fluid Lymphocytosis:HaNDL)は再発性髄膜炎の鑑別となる一つの概念
・HaNDLは1回以上の片頭痛様の頭痛、一過性神経障害、髄液中のリンパ球増多で数か月後に自然と改善する良性の病態
・頭痛は両側性、拍動性で24時間持続する、一方で神経症状は平均で5時間しか持続しない
・HaNDLは片頭痛に似た病態またはウイルス感染後の免疫介在性反応と考えられている
・HaNDLは再発性無菌性髄膜炎、片麻痺性片頭痛、脳卒中などに似たような症状を起こす
・再発性無菌性髄膜炎と比較して、HaNDLでは髄液中にMollaret細胞が認められない
・HaNDLではしばしば改善後も数か月に渡り、髄液中のリンパ球増多が持続する
【参考文献】
Rosenberg J, et al. Curr Pain Headache Rep. 2017 Jul;21(7):33. Recurrent Meningitis.