EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症)②~病因と組織病理~
さて、続いて好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(EGPA)の病因についてです。
このあたり、やはりANCAが陽性となりやすい顕微鏡的多発血管炎(MPA)や多発血管炎性肉芽腫症(GPA)と異なり、研究が遅れているようです。
現時点でわかっていることについてまとめます。
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【ポイント】
・好酸球性多発血管炎性肉芽腫症の病因には遺伝的要因と環境要因(薬剤、感染、化学物質など)が関係する
・発症のメカニズムには好酸球性炎症とANCAが関連すると考えられている
・好酸球はインターロイキン-5(IL-5)により分化成熟し、活性化した後、脱顆粒により、様々な細胞傷害性顆粒タンパク質と脂質メディエーターを放出し、炎症誘発作用を発揮する
・EGPAにおけるANCAの病原性はまだ不明だが、他のANCA関連血管炎では、ANCAは好中球を活性化し、活性化された好中球は脱顆粒およびNETの形成を介して血管壁を攻撃する
・ANCA陽性のEGPAでは糸球体腎炎、肺胞出血、末梢神経障害が多い
・組織では好酸球浸潤と血管周囲および血管外肉芽腫を伴う小血管の壊死性血管炎が最も特徴的な所見である
・ただし、末梢神経や腎病変では好酸球浸潤がほとんど観察されない
【病因】
・ほとんど不明だが、遺伝的要因と環境要因の両方が発症に寄与すると考えられる
遺伝的要因
・ゲノムワイド関連研究(GWAS)によりHLA-DQはMPO-ANCA陽性EGPAのリスク対立遺伝子として検出された
・好酸球性炎症に寄与する可能性のあるGATA3、TSLP、LPP、BACH2の変異体がEGPAで見られる
・一方でIRF5/IL5、GPA33のバリアントはMPO-ANCA陰性EGPAと関連していた
・GPA33遺伝子は腸上皮、気管支組織のバリア機能を維持する役割を果たす可能性のある細胞表面糖たんぱく質をコードしている
・この事実はANCAステータスが特定の臓器症状と強く相関する理由の手がかりとなる可能性がある
環境要因
・EGPA以外のANCA関連血管炎は大気汚染物質、感染症、薬物などの環境要因との関連が報告されている
・シリカ注入により誘発される好中球のアポトーシスはANCA発生の引き金として作用する可能性あり
・黄色ブドウ球菌由来のペプチドはPR3-ANCA発生に寄与する可能性あり
・コカイン、レバミゾール(線虫駆除薬)、プロピルチオウラシルなどの薬物はANCA関連血管炎のトリガーとして良く知られている
・プロピルチオウラシルは好中球細胞外トラップ(NET)の異常なコンフォーメーションを誘発し、DNaseによる分解に対する耐性とその後のMPO-ANCA産生、脈管形成の発達を引き起こすと明らかになった
・ただしEGPAへの環境要因の関与はほとんど不明
・喘息治療のためのシスティニル-ロイコトリエン受容体拮抗薬の病原性の役割について可能性が示唆されているが、現時点ではトリガーではないと考えられている
好酸球性炎症
・好酸球性炎症は、EGPAの主要な特徴の1つ
・主要な好酸球活性化サイトカインであるIL-5はEGPAの病因に関与しているよう
・IL-5はTh2細胞によって産生され、ヒト好酸球の分化と成熟を誘導する
・自然リンパ球グループ2(ILC2s)でさえも獲得免疫の非存在下でIL-5を産生する
・活性化した好酸球は、組織の損傷や炎症を誘導、細胞傷害性顆粒タンパク質と脂質メディエーターを放出することにより、炎症誘発作用を発揮する
・好酸球から放出される細胞毒性顆粒タンパク質には、Major basic protein(MBP)、Eosinophil cationic protein(ECP)、Eosinophil peroxidase(EPO)、Eosinophil-derived neurotoxin(EDN)が含まれる
ANCA
・MPAとGPAに関しては、実験データおよびANCAと疾患活動性との関連に基づいて、小血管血管炎の形成におけるANCAの直接的な病原性の役割が確立されている
・ANCAは好中球を活性化し、活性化された好中球は脱顆粒およびNETの形成を介して血管壁を攻撃する
・一方、EGPAにおけるANCAの役割は、特にANCAと好酸球性炎症との関連についてはまだ不明
・しかし糸球体腎炎および肺胞出血などはANCA陽性EGPA患者でより頻繁に認められ、MPAやGPAのように、局所好酸球性炎症を伴わない小血管血管炎をしばしば示す
・そのような条件ではEGPAのANCAは、病原性を発揮すると考えられている
《図1:EGPAにおける好酸球性炎症とANCA媒介血管炎の可能性のあるメカニズム》
図1:EGPAの発症に関与すると推定される遺伝的素因、好酸球性炎症、ANCA媒介性炎症の概要。環境要因と遺伝的素因は、好酸球性炎症およびANCA媒介性炎症を引き起こす。好酸球性炎症:IL-5は、主にTh2細胞とILC2によって産生される。IL-5は、好酸球上のIL-5受容体に結合して、骨髄内で好酸球産生を誘導し、組織内で好酸球の活性化と長期生存も誘導する。ANCAを介した炎症:炎症性サイトカインおよび補体副経路が好中球に脱顆粒させる(プライム)。ANCAは、細胞表面に発現したFcγ受容体またはMPOタンパク質を介してプライミングされた好中球に結合し、活性酸素種(ROS)の産生、タンパク質分解酵素の放出と好中球細胞外トラップ(NET)の形成をもたらす。
【組織病理学】
・好酸球浸潤と血管周囲および血管外肉芽腫を伴う小血管の壊死性血管炎が最も特徴的な所見
・血管壁ではフィブリノイド壊死と内弾性版の破壊が起こる
・EGPAの肉芽腫は好酸球性壊死性マトリックスとその周囲に柵状巨細胞を伴い、柵状肉芽腫と呼ばれるが、これらは同じ部位にあるとは限らない
・EGPAの典型的な病理組織学的所見は障害臓器により異なる
・皮膚の紫斑では好酸球浸潤を伴わない白血球破砕性血管炎から好酸球性血管炎まで幅広い所見を呈する
・好酸球浸潤のない症例では組織学的に他の小血管炎と区別することは困難
・壊死性血管炎や好酸球性肉芽腫は肺炎や肺結節で見られる
・心病変では心筋や心内膜に好酸球が浸潤し、心筋炎や心内膜炎、小血管炎を起こす
・胃腸病変では好酸球浸潤を伴うびらん、時には血管炎や好酸球性肉芽腫を示す
・一方、好酸球浸潤は末梢神経および腎臓の病変ではほとんど観察されない
・末梢神経障害は神経弓突起スペースの小動脈の壊死性血管炎によって起こる
・腎組織はpauci-immune壊死性半月体形成性糸球体腎炎を呈する
・好酸球の浸潤は時に腎間質に見られることがある
・末梢神経障害と糸球体腎炎はANCA陽性のEGPA患者に関連する臓器病変
【参考文献】
● Furuta S, et al. Allergol Int. 2019 Jun 29. pii: S1323-8930(19)30081-4. Update on eosinophilic granulomatosis with polyangiitis.