無症状ですが、『抗核抗体陽性』のご紹介をしばしば受けることがあります。
健常者でも抗核抗体が陽性となる事は有名ですが、特に間接蛍光抗体法ではしばしば偽陽性を経験します。
今回は昔から言われている健常者の抗核抗体の陽性率と日本のデータについてお示しします。
健常者の希釈倍率毎の抗核抗体陽性率について調べた論文で有名なのは、以下の論文(1)です。
Tan EM, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11."Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals."
これによると、健常者の抗核抗体陽性率は以下と通りです。
《健常者の抗核抗体陽性率》
40倍希釈で31.7%
80倍希釈で13.3%
160倍希釈で5.0%
320倍希釈で3.3%
健常者でも割と陽性になる事が分かります。
さて、この論文は各国(主にはアメリカ(6施設)、ヨーロッパ(5施設)、オーストラリア(2施設)、カナダ(1施設))の研究室から集めた健常者の血清を調べたもので、日本は1施設しか血清を提供しておりません。
続いて日本からのデータをお示しします。
以下の論文(2)は、1996年から2000年の間で検診を受けた2181人の血清サンプルを用いて抗核抗体の陽性率を調べた、日本からのビッグデータとなっております。これは検診を受けた人を対象としているので、中には当然膠原病患者も混じっている可能性があります。
Hayashi N, et al. Mod Rheumatol. 2008; 18 (2): 153-60. "Prevalence of disease-specific antinuclear antibodies in general population- estimates from annual physical examinations of residents of a small town over a 5-year period."
↓早速結果です。
《40倍希釈と160倍希釈による抗核抗体の年齢、性別毎の陽性率の違い》
●抗核抗体の陽性率は40倍希釈で26%、160倍希釈で9.5%
●男女で比較すると、女性の方が陽性率が有意に高い
抗核抗体が陽性となった健常者の内、556人に対して疾患特異的抗体を測定した結果が次の表です。
《抗核抗体陽性健常者の疾患特異的抗体陽性率》
●■:EIA法以外で陽性
○□:EIA法のみで陽性
上の表を要約しますと、
●抗核抗体が陽性となった556人中、100人(18%)に疾患特異的抗体が陽性
●以下に内訳を示す
-抗U1RNP抗体:11例(女性10例、男性1例)
-抗SS-A/Ro抗体:58例(女性50例、男性8例)
-抗SS-B/La抗体:5例(女性4例、男性1例)
-抗セントロメア抗体:30例(女性26例、男性4例)
-抗ds-DNA抗体:10例(女性6例、男性4例)
●抗Sm抗体、抗Scl-70抗体、抗Jo-1抗体は陰性であった
→抗核抗体が陽性となる健常者では抗SS-A抗体、抗セントロメア抗体が陽性となりやすい事が分かります。
抗U1RNP抗体、抗SS-A/Ro抗体、抗セントロメア抗体、抗ds-DNA抗体が陽性となった60人に問診と診察をした結果が以下の表になります。
特異的抗体が陽性の健常者で実際にどれくらい疾患が診断出来たかを見ています。
結果は、
●抗SS-A/Ro抗体陽性40例の内、シェーグレン症候群と診断出来たのは4例(10%)と診断された
●抗セントロメア抗体陽性17例の内、1例がシェーグレン症候群(6%)、1例が限局型全身性強皮症(6%)と診断された
●特異的抗体が陽性となった60例の内、34例(57%)が無症候であった
抗核抗体の陽性率には地域性が重要だと考えられます。
よって、日本からのデータは非常に重要です。
この論文の結果は、実に臨床応用ができそうなデータでした。
まとめ
●健常者の抗核抗体陽性率は
40倍希釈で31.7%
80倍希釈で13.3%
160倍希釈で5.0%
320倍希釈で3.3%
●女性の方が陽性となりやすい
● 日本のデータでは抗核抗体陽性の内、疾患特異的抗体が陽性となるのは18%
●特に抗SS-A抗体、抗セントロメア抗体が陽性となりやすい
●特異的抗体が陽性となっても57%が無症候性
例えば『抗核抗体160倍』で紹介されても、
『5%の健常者で陽性です。特に女性では多いです。抗核抗体が陽性だとしても疾患特異的抗体は2割しか陽性になりませんし、その半分以上は無症状です』と説明できるかもしれません。診察では特にシェーグレン症候群と強皮症の身体所見を取るようにしましょう!!
【参考文献】
(1) Tan EM, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11."Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals."
(2) Hayashi N, et al. Mod Rheumatol. 2008; 18 (2): 153-60. "Prevalence of disease-specific antinuclear antibodies in general population- estimates from annual physical examinations of residents of a small town over a 5-year period."