乳頭浮腫~機序と原因~
乳頭浮腫の発生機序についてあまり理解していなかったので、調べてみました。
解剖がとても大事だとわかりました。
こちらもご覧ください。
正常解剖
視神経鞘と髄液循環
●視神経は視神経鞘という膜(外鞘と内鞘)に包まれておりますが、実はこの視神経鞘は髄膜から連続した構造物なのです。
●視神経鞘は外鞘と内鞘に分けられますが、外鞘は硬膜、内鞘はくも膜、軟膜と、それぞれ連続しています。
●頭蓋内と同様にくも膜と軟膜の間にクモ膜下腔(鞘間隙)が存在し、眼球まで達しております。ここを脳脊髄液が灌流します。
※重要な事は頭蓋内と視神経周囲の髄液灌流が連続している事です!!
続いて、眼を栄養する動脈についてです。
栄養血管
●視神経の栄養血管は眼動脈から分岐する軟膜血管です。
●視神経乳頭部は眼動脈から分岐した短後毛様体動脈から血流を受けます。
●網膜を栄養する血管には眼動脈の分岐血管である①網膜中心動脈と②後毛様体動脈があります。
●網膜中心動脈は眼球の後ろ、15-20mmの所で視神経の下内側1/4から視神経内に入り、網膜の内層を栄養します。
●後毛様体動脈は脈絡膜動脈などを分岐し、網膜の外層を栄養します。
黄斑の栄養血管
●黄斑は視神経が最もきめ細かく配置されており、視野の最も解像度の良い部分です。
●黄斑は網膜の中で最も薄い部分でもあり、中心窩を形成します。
●余計な血管があると視野に異常をきたすため、血管の侵入がありません。
●その代わり、周囲の網膜血管から物質が浸潤して来ると言われております。
●網膜中心動脈閉塞症という疾患の眼底所見で黄斑部だけが赤く見えるCherry Red Spotという所見が有名です。
●これは網膜中心動脈が閉塞することにより、網膜内層全体の血流が低下し、白く見える一方で、脈絡膜血流(外層の血流)は残存しているため、最も層が薄い黄斑部で脈絡膜動脈が透けて赤く見えるためです。黄斑部の血管が豊富であるためではないことに注意してください。
乳頭浮腫の機序
●正常の眼圧は10-20mmHgと言われておりますが、頭蓋内圧が20mmHg以上になると上記のように視神経が圧排されます。
●視神経が圧排されると、中心を走行している網膜中心動静脈が圧排されます。これにより乳頭浮腫を起こすというわけです。
乳頭浮腫の原因
※以下の内容は参考文献の論文から抜粋しております。
●頭蓋内はスペースが限られているため、脳実質、髄液、血液のいずれかが増えると当該内圧が上昇します。
●脳腫瘍で60~80%、特に水道周囲に発生するテント下病変では高頻度で乳頭浮腫を起こります。
●クモ膜下出血では10~24%に見られ、片側の場合は出血と同側であったという報告があります。
●乳頭浮腫は慢性よりも急性期のクモ膜下出血で多く見られます。
●外傷性頭蓋内出血(例: クモ膜下出血, 硬膜下血腫, 硬膜外血腫, 脳実質内出血)では3.5%のみ乳頭浮腫が見られたという報告があります。
●硬膜外血腫では特に上矢状静脈洞を圧排する場合は、受傷後、数週間経ってから乳頭浮腫が出現する可能性があります。
●髄膜炎では2178例の髄膜炎の研究では、2.5%のみ乳頭浮腫を起こしたという報告があります。
●他の髄膜炎よりも梅毒性髄膜炎や結核性髄膜炎がより乳頭浮腫を来したと言います。
●脊髄病変で乳頭浮腫を来すものは半分以上が上衣細胞腫または神経線維腫です。
●ギランバレー症候群などで乳頭浮腫を来す機序は、髄液中のタンパク質が増加することによって、髄液を回収するクモ膜顆粒が閉塞する事で頭蓋内圧が亢進するためと考えられています。
まとめ
●髄膜と視神経鞘は連続しており、視神経周囲にも頭蓋内の髄液が灌流する。
●眼球の後方15-20mmの所で網膜中心動静脈が視神経内に侵入する。
●正常の眼圧は10-20mmHgだが、頭蓋内圧が20mmHg以上になる視神経が圧排されるようになる。
●視神経が圧排されると中心を走行する網膜中心動静脈も圧排され、乳頭浮腫が起こる。
●頭蓋内圧が亢進する病態は脳実質、髄液、血液のいずれかが増加した時。
●乳頭浮腫は脳腫瘍で高頻度で見られるが、外傷、髄膜炎では意外と少ない。
【参考文献】
●Rigi M, et al. Eye Brain. 2015 Aug 17; 7: 47-57. "Papilledema: epidemiology, etiology, and clinical management."