リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

急性視力低下~鑑別とアプローチ~

 『急性の視力障害』と聞くと、『すぐに眼科!!』と思うかもしれません。しかし、眼科医の先生がすぐに対応できない病院も少なくなく、その場合は救急や一般内科医の先生が対応せざるを得ません。

 

 実は『視力障害』は問診と一般診察である程度鑑別が出来ます。

 

 今回、筆者も苦手な視力障害についてアプローチしてみたいと思います。いくつかの文献をもとに筆者が独自でまとめたものですので、臨床応用する際にはご注意下さい。むしろ、何か問題点や漏れがある場合は教えて下さい。

 

 ※ここでは急性発症の持続性の視力障害を扱っている事にご注意ください。 

 

こちらもご覧ください。

 

 

Step 1 外傷、白内障術後、異物曝露による角膜炎を除外する

●これらは問診で簡単にわかります。

●外傷であれば、以下の鑑別が挙げられます。

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→眼のどこが障害されているかに関してはStep 3をご覧ください。

●異物曝露の代表はコンタクトレンズ紫外線化学物質です。

白内障の術後はブドウ膜炎角膜浮腫急性緑内障急性黄斑症網膜剥離のリスクが高くなると言われているため、直ちに眼科医に相談します。

 

Step 2 視交叉よりも後ろの病変を除外する

●Step 1で視力障害が起こる特定の条件が除外されたら、次のステップとしては障害部位の特定になります。

●最も簡単に出来る事は『障害部位が視交叉よりも後ろかどうか』を特定する事です。

●これには同名半盲があるかどうかを確認します。

●以下に示すように、視交叉よりも後ろの病変は必ず同名半盲を来します

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●逆に、視力障害が単眼であれば、視交叉よりも前であるとわかります。

 

Step 3 視交叉よりも前の病変を鑑別する

●Step 2では視交叉よりも後ろの病変を除外しました。

視交叉よりも前の病変=単眼性視力障害とお伝えしましたが、視交叉よりも前は解剖学的にかなり複雑であるため、Step 3ではこれを分類して行きます。

 

視交叉よりも前の解剖

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●視交叉よりも前の眼の解剖を上記に示します。かなり複雑な組織であることが分かります。

●これをStep 1の外傷の部分でも示したように、前眼部眼内視神経疾患で分けると分かりやすいと思います。

 

急性単眼性視力障害の鑑別

● この3つの部位の疾患は自覚症状疼痛の有無随伴症状交叉対光反射試験の問診と身体所見である程度分類できます。

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●前眼部であれば、随伴症状である程度分かるかもしれません。

●眼内や網膜は直接見る事に限りますが、自覚症状が特徴的です。

●視神経の障害は交叉対光反射試験(以下)明らかに陽性となります。

●各部位の疾患の鑑別にはさらに疼痛の有無が重要です。

●ある程度鑑別したら、最終的には眼科医による検査が必須となりますが、視神経疾患を疑う場合は眼窩MRI(T2 colonalやGd造影)や視神経炎を起こし得る疾患の鑑別のために血液検査が重要となります。

 

交叉対光反射試験

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(https://eyeguru.org/blog/examining-the-pupil/より引用)

●これは視覚の求心路に異常がないかを見るための身体所見です。

●正常では一側の眼にライトを当てると 対側も縮瞳します。

●すばやく対側にライトを移しても縮瞳は持続したままです。

●一側(上記の場合右眼)の視覚の求心路に異常があると、正常側にライトを当てると、遠心路(縮瞳させる機能)は正常であるため、障害側でも縮瞳します。

●しかし、いざ障害側の眼にライトを当てると、求心路は異常であるため、光に対して障害側の縮瞳が起こらないばかりか、正常側も縮瞳が起こらなくなります。

 

これは対光反射の反射弓を考えるとわかりやすいです。

対光反射の反射弓

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●視覚路と言えば、以下の経路です。

 視神経→視交叉→視索外側膝状体→視放線→一次視覚野

●しかし対光反射の反射弓は少し違います。

 視神経→視交叉→視索(ここまでは視覚と同じ経路)→中脳視蓋前域→両側動眼神経副覚(Edinger-Westphal核)→動眼神経→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋

 

●重要な事は外側膝状体を通らず、中脳の視蓋前域を通過し、一側の視神経からの光源情報が両側の動眼神経副核に伝えられる事です。

●これにより、一側の眼に光刺激を入れても、両側で対抗反射が起こるわけです。

まとめ

●Step 1:外傷白内障術後異物曝露による角膜炎を除外する。

●Step 2:視交叉よりも後ろの病変を除外する。

    →視交叉よりも後ろの病変は必ず両側性の視力障害(同名半盲)を呈する。

●Step 3:視交叉よりも前の疾患の鑑別をする。

    →視交叉よりも前の病変は前眼部眼内視神経疾患に分ける。

    →自覚症状疼痛の有無随伴症状交叉対光反射試験で鑑別する。

    →ある程度考えがまとまったら確認は眼科医にお願いする。

    →視神経疾患は眼窩MRI(T2 colonalやGd造影)と鑑別のための血液検査を。

 

※ただし、疾患によっては、早期に眼科医に介入して頂く事が必要なものもあるため、のらりと鑑別に時間を要してはいけません。

 

緊急疾患 

ちなみに急を要する疾患についてはこちら。

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【参考文献】 

●UpToDate "Approach to the adult with acute persistent visual loss" Last update: Nov 30, 2017.

●Prasad S, et al. Neurol Clin Pract. 2012 Mar; 2 (1): 14-23. "Approach to the patient with acute monocular visual loss.“

●Bagheri N, et al. Prim Care. 2015 Sep; 42 (3): 347-61. "Acute Vision Loss."