リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

DICとTMAの鑑別

 播種性血管内凝固(DIC)血栓性微小血管障害(TMA)はしばしば鑑別が困難な場合があります。両者とも血小板減少出血傾向臓器不全に関連した微小血管血栓症を呈します。これらは治療法が異なるため、臨床的に鑑別する事が重要です。

 

 日本からの報告でこの両者の鑑別について、非常に分かりやすい論文があったので、以下にまとめます。

 

  

DICとTMAの定義と概念の違い

Fig. 1 DICとTMAの概念

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*DIC, disseminated intravascular coagulation; TMA, thrombotic microangiopahy; MHA, microangiopathic hemolyitc anemia; FRMs; fibrin related markers

 

TMAには血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)志賀毒素産生性大腸菌(STEC)溶血性尿毒症症候群(HUS)補体介在性のHUS(atypical HUS: aHUS)二次性TMAが含まれる。

DICには無症候性タイプ著明な出血性タイプ臓器不全タイプTTPやヘパリン誘発性血小板減少症などに合併するタイプなどがある。

DICの頻度は肺炎では100万人あたり70という報告がある(PMID=24943516)。

●他のタイプのDICも追加すると、100万人あたり300人なる。

●一方、TTPの頻度は100万人あたり2人と極端に少ない(PMID=25377323)。

単純計算をしてDICの頻度はTTPの150倍!!

DICは様々な原因によって、後天的に起こる血管内凝固の活性化が特徴的で、重度になると臓器機能不全を引き起こす可能性がある。

DICではフィブリン関連マーカー(可溶性フィブリンモノマー、FDP、D-dimerなど)の上昇が特徴的で、微小血管系非炎症性障害を反映する。

TMA溶血性貧血血小板減少症腎臓中枢神経系やその他の臓器の障害を含む微小血管性溶血性貧血(MHA)が主病態。

TTPではADAMTS13が著明に低下し、STEC-HUSではSTEC感染が認められる。aHUSでは補体系の異常が検出される。

●DICの診断に特定のマーカーはないがスコアリングシステムが使用される。

TMAとDICはしばしば関連して起こり、鑑別が困難な事も稀ではない。

TMAに関連したDICは胃癌などの固形癌の骨髄転移肝不全A群溶連菌感染症で見られる。

●骨髄転移は主にMHAを起こし、肝不全は主にvon Willebrand因子/ADAMTS13比を上げ、A群溶連菌感染症は主に大量の溶血を起こす。

 

DICおよびTMAの発症メカニズムの相違点と類似点

Fig. 2 DICとTMAの発症メカニズム

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*DIC, disseminated intravascular coagulation; TMA, thrombotic microangiopahy; TF, tissue factor; ULM-VWF, ultra-large multimers of von Willebrand factor

 

DICでは凝固系の著明な活性化とそれに伴う消費、それに続く二次線溶の活性化が発症の基本のメカニズム。

TMAでは血小板が著明に活性化して消費され、それに続いて血管内皮細胞の活性化と障害が起こる事が基本のメカニズム。

●凝固系の亢進のトリガーは組織因子(Tissue factor:TF)炎症性サイトカインリポ多糖(LPS)活性化白血球とそれらの異常遊走が挙げられる。

●血小板や血管内皮細胞の活性化のトリガーはADAMTS13の著明な減少(TTP)STECの同定(STEC-HUS)補体系の異常(aHUS)や、移植妊娠薬剤自己免疫疾患などの二次性TMAが挙げられる。

●特にADAMTS13の減少で、von Willebrand因子の超巨大多量体を切断する事が出来ない事によって、血小板凝集を引き起こす。

DICではいくつかの敗血症の場合を除き、ほとんどが線溶系が亢進している。一方、TMA患者ではあまり観察されない。

●いずれの場合も微小血管血栓症を来す。DICの場合は凝固系の活性化、TMAの場合は血小板と血管内皮細胞の活性化によって起こされる。

血友病の治療薬であるEmicizumabの臨床試験では活性化プロトロンビン複合体濃縮製剤(APCC)で治療された何人かの患者ではTMAが複雑化する事がある。

●APCCはしばしばTMAではなく、DICを引き起こすが、これらの症例では鑑別が重要。

●DICは後天性だが、家族性TTPとしてのUpshaw-Schulman症候群とaHUS患者の多くが先天性TMAである。

 

DICとTMAの診断の違い

DICの診断基準

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 ISTH International Society of Thrombosis and Haemostasis, JSTH Japanese Society of Thrombosis and Hemostasis, JMHLW Japanese Ministry of Health, Labor and
Welfare, JAAM Japanese Association for Acute Medicine, PLT platelet count, FDP fibrinogen and fibrin degradation products, TAT thrombin antithrombin complex,
SF soluble fibrin, SIRS systemic inflammatory response syndrome, DIC disseminated intravascular coagulation
*PLTとPLTの減少率は3点以内でなければならない。

 

●DICの診断には上記の4つの基準がある。

●同様のスコアリングシステムを使用しており、4つの基準の間で有意な差はない。 

 

TMAの診断基準

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TMA thrombotic microangiopathy, aHUS atypical hemolytic uremic syndrome, TTP thrombotic thrombocytopenic purpura, STEC Shiga toxin-producing
Escherichia coli

 

TMAの診断基準は溶血性貧血(Hb<10g/dl)、血小板減少(Plt<12×109/μl)、臓器障害に基づく。

●TTPではADAMTS13<10%、STEC-HUSではSTECの検出、aHUSでは補体系の異常が認められる。

●しかし著明なADAMTS13減少が敗血症患者で認められた報告もあるため、ADAMTS13の減少による血小板の活性化は重症敗血症のDIC患者で見られる可能性がある。

TMAの多くはDICの診断基準を満たし、DICと診断する事が出来るが、DIC患者の約15%のみがTMAと診断する事が出来る。

 

DICとTMAの相違点

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AT:アンチトロンビン, rhTM:組み換えトロンボモジュリン

 

臨床症状
●臨床症状のうち、出血と臓器障害はDIC、TMA患者のどちらにもしばしば見られる。

または心血管障害DICでのみより見られる。

または中枢神経障害TMAでより見られる。

低血圧DICでより見られ、高血圧TMAで見られる。

 →高血圧は急性腎障害または動脈閉塞でより起こると考えられる。

 

検査所見

貧血TMAでより見られる。

破砕赤血球は高血圧の動脈側の微小血管塞栓症によって起こるが、静脈側の病変であるDICではあまり見られない。

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●血小板減少はDICとTMAの両者で見られる。

Hb低下Cre上昇ビリルビン値上昇LDH上昇はほとんどのTMAで見られるが、DICでは15%でしか見られない。

DICではPT延長アンチトロンビン減少アルブミン値の低下がしばしば見られる。

●ほとんどのDICでは著明なフィブリン関連マーカー(FDP、D-dimerなど)上昇が見られる。これはTMAでは見られない。

DICでは線溶系の亢進が見られるため、血栓症は通常、剖検では検出されない。

DICの最も有用なマーカーはフィブリン関連マーカーの上昇血小板減少である。

 

治療

●血小板輸血はTMAでは禁忌。

●抗凝固療法はDICでは推奨される。

●抗線溶療法は線溶亢進型のDICでは推奨される。

●TTPの様なTMAでは血漿交換が推奨。

●アンチトロンビンと組み換えトロンボモジュリンは日本ではDICに対して頻繁に使用される。

●一方エクリズマブはaHUSに有効と言われている。

●ADAMTS13抗体が高力価のTTPにはリツキシマブが有効。

 


【参考文献】

Wada H, et al. Thromb J. 2018 Jul 11; 16: 14. "Differences and similarities between disseminated intravascular coagulation and thrombotic microangiopathy."