結核性椎体椎間板炎の診断に組織所見は有用か?
結核性の椎体椎間板炎の診断はいつも難しく感じます。
生検検体の培養やPCRなどの微生物学的検査が診断のゴールドスタンダードであると思いますが、結果が判明するまでに時間がかかる上に、陽性率が低いことが問題です。
今回ご紹介するのは、結核性椎体椎間板炎の診断を生検した組織で出来ないか、組織診断の有用性について調べた論文です。
Methods
●調査機関:2014年1月から2018年2月。
●単施設で121例の感染性椎体椎間板炎患者の生検検体を用いた。
●それぞれの検体は11ゲージの針で一つにつき、5~7サンプルが採取された。
●全ての検体はホルマリン漬けにして病理室に運ばれた。
●検体は4μmの切片に薄切された後、HE染色された。
●結核性椎体椎間板炎の組織学的診断は類上皮性肉芽腫や乾酪壊死がある場合とした。
●微生物学的検査には、組織を無菌生食で洗浄し、その洗浄液のみを培養に提出した。
●Ziehl-Neelsen染色に加えて、培養はSolid medium(Lowenstein-Jensen medium)とLiquid medium(mycobacterial growth indicator tube)の両方で行った。
●培養で陽性だったものは感受性を調べた。
●菌種同定のために従来のbiochemical testと結核菌特異抗原(MPT 64)同定を行った。
●なお、嫌気、好気培養、真菌培養も同時にされている。
●ただし、PCRは実施されていない。
●患者は結核性椎体椎間板炎群と非結核性椎体椎間板炎群(例:化膿性、ブルセラ性、真菌性)に分けられた。
●結核性椎体椎間板炎はさらに2つのカテゴリーに分けられた。
①Difinite群:微生物学的検査が陽性
②Probable群:微生物学的検査は陰性だが、組織所見、臨床経過、画像が矛盾しない
●最後に微生物学的検査をゴールドスタンダードとして、結核性椎体椎間板炎における組織診断の感度、特異度、陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、正確性を求めた。
Results
●97人の患者から121検体採取された。
●部位:腰椎47例、胸椎45例、頸椎5例。
●臨床データが得られたのは45例だった。
結核性椎体椎間板炎:24例(Difinite:6例、Probable:18例)
化膿性脊椎関節炎:20例
真菌性椎体椎間板炎:1例
●平均年齢:57歳(27~77歳)
●男:女=22:23
●椎体椎間板炎のリスクを有する患者は29人((64.4%)いた。
臨床所見
●症状を含めた臨床所見は以下の通り
●症状として最も多いのは疼痛で特に慢性腰背部痛が最多43例(95.5%)。
●神経学的異常が見られたのは19例(42.2%)。
●上記にはないが、本文ではCRP上昇(>6mg/dl)は28/32例(87.5%)に見られたとの事。
●ツベルクリン反応が陽性だったのは17/31例(54.8%)
微生物学的検査(培養)
●微生物学的検査(培養)で結核性椎体椎間板炎と診断がついたのは63/121例(52.1%)。
細菌:41例(65.2%)
マイコバクテリウム:17例(26.9%)
Mycobacterium tuberculosis:13/16例
Mycobacterium bovis:2/16例
真菌:3例(4.8%)
ブルセラ:2例(3.2%)
●マイコバクテリウム属は全てリファンピシンとエタンブトールに感受性を認めた。
●イソニアジド耐性を認めたのは1/15例だった。
●ピラジナミド耐性はM. tuberculosisの1/3例で認めた。
●組織診断および微生物学的検査(培養)で結核性椎体椎間板炎と診断されたのは55/121例(45.4%)であった。
●男:女=12:43
●平均年齢:52歳
●Difinite群は17検体(30.9%)、Probable群は38例(69.1%)。
●Probable群では6~18か月の抗結核薬を投与することにより、臨床的な反応(食欲不振・体重減少・背部痛が消失、神経学的症状が減少)が得られた。
●55例の結核性椎体椎間板炎のうち、53例(96.4%)が組織診断が陽性となった。
●Ziehl-Neelsen染色は8例に行われたが、全て陰性であった。
組織所見と頻度
●以下に結核性椎体椎間板炎の病理所見とその頻度を示す(上記Table 2)。
乾酪壊死を伴う肉芽腫:34例(61.8%)
乾酪壊死を伴わない肉芽腫:15例(27.7%)
肉芽腫を伴わない乾酪壊死:3例(5.4%)
膿を伴う肉芽腫:1例(1.8%)
肉芽腫を伴わない膿性炎症:2例(3.6%)→結核性椎体椎間板炎の所見とは言わない。
●上記『Positive Culture』は微生物学的検査(培養)で陽性となった16例の内訳である。
→組織が乾酪壊死を伴う肉芽腫でも9/16例(56.2%)しか陽性にならない事が分かる。
●以下は巨細胞を伴う類上皮性肉芽腫の病理所見
組織診断の偽陽性と偽陰性
●微生物学的検査(培養)をゴールドスタンダードとすると、組織診断の内、15例が真の陽性、43例が真の陰性、3例が偽陽性、2例が偽陰性
●偽陽性(結核培養検査は陰性だが、組織で乾酪壊死を伴う肉芽腫を認める)の3例の内、1例はブルセラ症であった。残りの2例は真菌症であった。
組織診断の感度、特異度、適中率、正確性
●感度:88.2%
●特異度:93.4%
●陽性適中率:83.3%
●陰性適中率:95.5%
●正確性:92%
Discussion
●結核性椎体椎間板炎の組織診断は微生物学的検査をゴールドスタンダードとすると、高い感度、特異度であった。
→これはおそらくは1検体につき、5~7サンプルを採取しているためと考えられる。
※French Infectious Disease Societyでは1検体2サンプルの採取が推奨されている。
●本研究では微生物学的検査陽性+組織学的所見陽性であるDifinite群は30.9%、微生物学的検査陰性+組織学的所見陽性であるProbable群は69.1%だった。
●過去の報告では培養の陽性率は50~70%。
→本研究の培養陽性率が低いのは組織の洗浄液のみを培養に提出しているためと考えられる。
※本来であれば組織標本を少なくとも2つは培養に提出する事が推奨される。
●壊死性肉芽腫は結核を強く示唆するが、化膿所見の所見である膿性炎症所見も3.6%に認められた。
→化膿所見が得られても、結核は除外できない。
●ブルセラ症や真菌症でも乾酪壊死を認めるものもあった。
→乾酪壊死を認めても、ブルセラ症や真菌症の除外が必要。
●Ziehl-Neelsen染色が陰性である事は、結核性椎体椎間板炎を除外しない。
【参考文献】
Romdhane E, et al. J Clin Rheumatol. 2020 Mar; 26 (2): 63-66. "The Value of Histology in the Diagnosis of Tuberculous Spondylodiscitis."