リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

関節リウマチの発症は予測できるか?

 関節リウマチの早期治療は関節予後に関係すると言われております。2010年には早期関節リウマチを分類するための基準が設けられました。

 しかし、もう少し遡って、関節炎を発症する前の関節痛の段階で、関節リウマチに進展するか、予測出来ないかは未だに不明のままです。

 

 今回は、『関節リウマチを発症前に予測できるか』を検討した論文をご紹介致します。2013年と古いものですが、参考になれば幸いです。

 

 お忙しい方は下記の結果から得られた『予測モデル』のみご参照下さい。時間がある方、統計に詳しい方はそれ以下をご参照頂き、知識をお裾分けして頂ければ幸いです。

 

 

予測モデル

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コメント

●この予測モデルは関節痛があるにも関わらず、関節炎がないが方が今後関節リウマチを発症するかを予測したモデルです。

●70歳未満の患者でしか使用できません。

●関節炎はエコーで評価されている訳ではないので、エコーで関節炎を認める方は上記予測モデルは適応できません。

 

※※※※※※※※以下は統計に詳しい方にご意見頂きたい所です※※※※※※※※

Patients and Methods

●2004年8月から2011年6月の間でオランダのアムステルダム地域のリウマチ科外来で抗CCP抗体またはIgM-RFが陽性で、関節炎のない関節痛を訴える患者を対象とした。

●関節炎がない事は、訓練を受けた医師とベテランのリウマチ専門医による診察(44関節)で確認された。

●カルテで関節炎を認めたもの、2回目の検査で抗CCP抗体またはIgM-RFが陰性、年齢が70歳以上、既にDMARDsまたはステロイドによる治療を3か月以内に受けているものは除外された。

●フォローされていない患者(6か月未満のフォローアップ)も解析から除外された。

●下の図は組み入れのフローチャートである。

●合計で374人が解析された。

●83人は関節炎の発症に対する2回のデキサメタゾン筋注の効果を研究する無作為プラセボ対照試験にも組み込まれていた。これらの患者ではデキサメタゾンが関節炎を遅延または予防しなかったため、今回の解析に含めた。

追跡期間の中央値は32か月(IQR:13~48か月)

●抗CCP抗体はELISA(Axis Shield, Dundee, UK)と院内のELISAで測定した。カットオフ値は5U/ml(AU/ml)。

IgM-RFのカットオフ値はROC曲線分析に基づいて30U/mlに設定。

●統計解析はSPSSとRを用いた。

●単変量解析、多変量解析から単純化した予測モデルを導き、その診断パフォーマンスを評価した。

●さらにランダムに抽出した300例の症例をテストセットとして使用し、予測モデルの検証をした。

 

Results

一般背景

●合計374名の患者。平均年齢49±11歳。76%が女性。

●関節痛の期間の中央値(IQR)は12(8~46)か月

●痛みのある関節数の中央値(IQR)は4(1~8)か所

●圧痛のある関節数の中央値(IQR)は0(0~3)か所

●120人(34%)の患者はIgM-RFと抗CCP抗体が陰性、143人(30%)の患者はIgM-RF陰性かつ抗CCP抗体が陽性、111人(30%)の患者はIgM-RFと抗CCP抗体が陽性であった。194人(52%)の患者はSE陽性だった。

●中央値(IQR)の12か月(6~23)か月のフォローアップの後、131人(35%)の患者が関節炎を発症した。

●これらの患者の内、121人(92%)は2010年のACR/EULARの基準に従って関節リウマチと分類され、56人(45%)は1987年の分類基準を満たした。

●関節炎を発症した患者の診断時の圧痛関節痛の中央値は5(2~9)か所で、腫脹関節数の中央値は3(2~5)か所であった。

 

単変量解析

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●関節炎発症群では非アルコール摂取、NSAIDs使用者、12か月未満の症状、間欠的な症状、上下肢の症状、疼痛VASスケールが50以上、朝のこわばりが1時間以上、関節腫脹の自覚、平均圧痛関節数が多い事、抗CCP抗体、SE陽性の頻度が高かった。

 

多変量解析

●関節炎の予測モデルは後方視段階アプローチを使用した多変量Cox回帰で作成された。

●以下に予測モデルに含まれる変数と回帰係数を示す。

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●単変量解析で使用した変数の内、年齢、性別、喫煙、NSAIDsの使用、対称性の症状、少関節炎、圧痛の数、CRPとSEは除外された。

●上記の『B』は回帰係数を示す。

●Cross varidation後の回帰係数は著明な変化はなかった。

●代替検証方法としてbootstrappingも実施され、1000例のサンプルが用いられたが、回帰係数は大きく変化しなかった(このデータは示されていない)。

 

関節炎の予測

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●より簡単に適応できる予測モデルを作成するために回帰係数を半分にし、2をかけている。

●各変数に対応するリスク点を掛け算すると、各患者の予測モデルスコアが得られた。

●0~13点満点の内、今回のコホートのスコアは0~12点の範囲であった。

●上記に予測モデルの1年(A)、3年(B)、5年(C)のROC曲線を示す。

●AUC値とHarrel's Cを以下のTable 3に示す。

●上記『D』は各患者の予測モデルでの点数である。『E』では点数毎にリスクを『低』『中等度』『高』に分けた。

●低リスクは150人(41%)、中等度リスクは102人(27%)、高リスクは117人(31%)。

●『E』の下にリスク事の関節炎のない生存曲線を示している。

●低リスク群の1年、3年、5年後の関節炎の発症率は3%、7%、12%。

●中等度リスク群の1年、3年、5年後の関節炎の発症率は16%、36%、43%。

●高リスク群の1年、3年、5年後の関節炎の発症率は43%、74%、81%。

 

Discrimination

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●Harrell's CとAUCが1に近ければ近いほど、 より診断的(high predictive discrimination)である事を意味する。

●新予測モデルはHarrel's Cが0.79、5年後のAUCも0.82と良好であった。

●Cox回帰分析の従属変数として2010年の分類基準、1987年の分類基準を用いた場合、ROC曲線、Harrel's CのAUC値は著明に変化しなかった。

 

Discussion

●この予測モデルは高リスクと低リスクの患者を区別できるものの、27%を占める中等度のリスク群の区別は不確実。

●アルコール摂取が有益であるように思われた。

CRPの値が関節炎の発症と関連していなかった。

●このモデルでは血清反応陰性の患者は予測できない。

 

【参考文献】

van de Stadt LA, et al. Ann Rheum Dis. 2013 Dec; 72 (12): 1920-6. "A prediction rule for the development of arthritis in seropositive arthralgia patients."