口唇生検はIgG4関連疾患の診断に有用か?
2019年はIgG4関連疾患の新分類基準が発表された記念すべき年でした。この分類基準の特徴は生検(病理所見)がなくてもその他の部分で有意な所見があれば、IgG4関連疾患と診断出来るという包括的な基準でした。
しかし、IgG4関連疾患の診断において病理所見が重要である事に変わりはありません。以下の様な特徴的な所見が得られれば、IgG4関連疾患の診断ができると言っても過言ではありません。
IgG4関連疾患の特徴的な病理所見
①IgG4陽性形質細胞の浸潤(IgG陽性形質細胞の内、40%以上)
②花むしろ状線維化
③閉塞性静脈炎
さらに、病理所見はIgG4関連疾患の診断だけでなく、その他の疾患(悪性リンパ腫など)の除外にも有用です。可能な限り、生検をして病理所見を見る事が重要です。
とは言え、IgG4関連疾患のフェノタイプによっては、生検がなかなか出来ない場合もあります。例えば後腹膜+大動脈周囲に限局するタイプでは生検がなかなか出来ないのも事実です。
この後腹膜+大動脈周囲タイプはアジア人には少ないと言われておりますが、最近割と多くいらっしゃるように思います。
鑑別は多岐に渡りますが、結局は腹部の深部で、重要臓器の周囲であるため、生検が出来ず、泣く泣くステロイドの反応性を見るという方法をとることが多かったです(※IgG4関連疾患はステロイドが著効するため)。
今回ご紹介するのは、IgG4関連疾患の診断を口唇生検で出来ないかを調べた論文です。口唇生検は小唾液腺の生検を意味します。顎下腺、耳下腺などの大唾液腺生検と比べると、侵襲や合併症が少なく済む可能性があります。
それでは早速、論文の本文に入りましょう。
Materials and methods
患者
●期間:2008年から2015年
●場所:九州大学病院
●Inclusion:血清IgG4値が上昇し、びまん性または局所性の腫瘤や腫脹を認める66名のIgG4関連疾患疑い患者(男性25名、女性41名、平均年齢64.0±11.1歳)
●IgG4関連疾患の診断は以下の2つ(①、②)
●全ての生検検体はステロイドや他の免疫抑制治療前に行った。
●口唇生検の方法はGreenspanらの方法(Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1974;37(2):217-29.)を用いた。
診断クライテリア
1. 臓器腫大、腫瘤または結節性病変、臓器不全
2. 血液検査で血清IgG4値が上昇(≥135mg/dl)
3. 病理組織学的検査でIgG4陽性形質細胞が浸潤(IgG4陽性形質細胞/IgG陽性形質細胞の比が0.4(40%)より大きい、かつhigh power fieldでIgG4陽性形質細胞が10個以上)
①上記の3つともを満たす場合をIgG4関連疾患と診断
②2つまたは1つしか満たさない場合、IgG4関連の涙腺炎、唾液腺炎、腎症、自己免疫性膵炎などの臓器特異的あ疾患の診断基準を満たす場合をIgG4関連疾患と診断
口唇生検の病理組織、免疫組織化学染色
●他の疾患でIgG4陽性形質細胞の浸潤の程度を測るために、43名のシェーグレン症候群(男性3名、女性40名、平均年齢55.2±12.4歳)、8名の粘液嚢胞(男性4名、女性4名、平均年齢38.6±18.7歳)に同様に口唇生検をした。
※本文では示されていないが、悪性リンパ腫も3名組み入れている様子
●シェーグレン症候群の診断は厚生労働省1999年と米国・ヨーロッパ分類(AECG)を用いた。
Results
Clinical findings
●IgG4関連疾患疑いの66名の患者の最終診断
-IgG4関連疾患:45名
-シェーグレン症候群:12名
-シェーグレン症候群疑い:4名
-悪性リンパ腫:3名
-全身性エリテマトーデス・ワルチン腫瘍:1名ずつ
●45名のIgG4関連疾患の血液検査
-平均IgG値:2354.2±1341.7mg/dl
-平均IgG4値:1009.8±772.7mg/dl
-全てのIgG4関連疾患患者は抗SS-A抗体・抗SS-B抗体が陰性
●45名のIgG4関連疾患の障害臓器
-顎下腺:25名
-リンパ節:25名
-涙腺:18名
-膵臓:15名
-腎臓:11名
-耳下腺:10名
-肺:10名
-後腹膜:10名
-胆管:6名
唾液腺病変の有無による比較
●45名のIgG4関連疾患患者を唾液腺病変の有無で分けると唾液腺病変あり群(IgG4-RD S+)は25名、唾液腺病変なし群(IgG4-RD S-)は20名であった。
●2群で平均年齢、性別、罹患期間に有意差はなかったが、IgG4-RD S+群で罹患臓器数が多く、アレルギー疾患の罹患率が高かった、またIgG陽性細胞に対するIgG4陽性細胞の比率も高かった。
IgG4関連疾患と類縁疾患の口唇生検組織の比較
●上記写真より、IgG4関連疾患の口唇生検では著明なIgG4陽性形質細胞浸潤と、胚中心の過形成を認める(e, j)。
●悪性リンパ腫でもわずかにIgG4陽性形質細胞を認める(l)。
●しかしシェーグレン症候群、粘液嚢胞では著明なリンパ球浸潤を認めるものの、IgG4陽性形質細胞は認められなかった(f, g, j, k)。
●上記(A)はIgG4陽性形質細胞の数、(B)はIgG4陽性形質細胞のIgG陽性形質細胞に対する比率を見ているグラフである。
●(A)より、シェーグレン症候群、粘液嚢胞ではIgG4陽性形質細胞は見られないが、悪性リンパ腫ではIgG4陽性形質細胞が見られる症例もある。
●しかし、IgG4陽性形質細胞/IgG陽性形質細胞比を取ると全てのシェーグレン症候群、粘液嚢胞、悪性リンパ腫の患者でIgG4関連疾患の特徴的な組織所見であるIgG4陽性形質細胞比が40%を超えるものはなかった。
口唇生検陽性群の特徴
IgG4関連疾患で唾液腺病変を伴わない20名の患者をさらに口唇生検の結果が陽性か陰性かで分けたものが以下になります。
●両群で平均年齢、性別、アレルギー疾患罹患率に有意な差はなかった。
●罹患臓器数と血清IgG4値は口唇生検陽性群で有意に高値だった。
口唇生検の有用性
●以上より、口唇生検の感度55.6%、特異度100%、正確性70%と判明。
●唾液腺病変がある場合は68%が陽性、唾液腺病変がなくても40%が陽性となった。
まとめ
●IgG4関連疾患で唾液腺病変を認める患者ではアレルギー疾患の罹患率が高い。
→アレルギー疾患がIgG4関連疾患の発症のリスクになっているかもしれない。
●IgG4関連疾患の類縁疾患ではIgG4陽性形質細胞比が40%を超える事はない。
→改めて鑑別に組織所見が重要である事が強調された。
●口唇生検の感度55.6%、特異度100%、正確性70%。
●口唇生検が陽性になるのは罹患臓器数が多い場合と、血清IgG4値が高い場合。
●唾液腺病変がある場合、口唇生検の陽性率は68%
→この場合、大唾液腺の切開生検をした方が良い(感度、特異度、正確性ともに高い)
●唾液腺病変がない場合でも口唇生検の陽性率は40%
→この陽性率を高いと取るか、低いと取るかは医療者次第
→後腹膜病変しかない患者でも5人に2人が口唇生検で診断ができるなら、私は勧めるかもしれません。
【参考文献】
Moriyama M, et al. Mod Rheumatol. 2016 Sep; 26 (5): 725-9. "The diagnostic utility of labial salivary gland biopsy in IgG4-related disease."