"急性発症の単眼の視力低下"の原因として"巨細胞性動脈炎"が疑われて紹介された患者さんで、蓋を開けてみると、"眼窩先端症候群"だった方がおられました。
眼窩の構造は非常に複雑であるため、理解がなかなか進まないですが、逆に解剖を理解してしまえば、症候も分かりやすいかもしれません。
今回はこの眼窩先端症候群についてまとめてみました。
ちなみに急性発症の視力低下の鑑別とアプローチについてはこちらをどうぞ。
視神経障害の鑑別についてはこちらをどうぞ。
眼窩の解剖
●眼窩の先端には視神経管、上眼窩裂、下眼窩裂の3つの穴が開いております。
●上眼窩裂の後方には海綿静脈洞が位置します。
●それぞれの穴には上記に示すように動静脈、神経が走行しております。
●さらに、眼窩先端には6つの外眼筋の内、4つの腱が上記の通り総腱輪(Annulus of Zinn)を形成して付着します。
眼窩先端症候群の定義と症状
●眼窩先端症候群は、視神経管と上眼窩裂を走行する脳神経が障害される症候群です。
●この中でも総腱輪内の神経(視神経, 上位動眼神経、鼻毛様体神経、下位動眼神経、外転神経)が障害されやすいです。
●主には第II、III、IV、V1(眼神経の分岐神経)、VI神経が障害されるので、これらの症状である、視力障害、眼瞼下垂、複視、顔面痛などが生じます。また、眼窩内圧が上昇するような病態では眼球突出が生じます。
眼窩先端症候群の原因
●原因は多彩です。
腫瘍
●神経周囲を浸潤する悪性腫瘍の場合、三叉神経が最も障害されます。
●小児では横紋筋肉腫が眼窩裂症候群を引き起こす最も一般的な眼窩腫瘍です。
●神経鞘腫は基本的には三叉神経から生じます。
●神経線維腫は25~30%が頭頚部で発生するが、眼窩病変は稀です。
感染
●眼瞼には眼窩中隔(Orbital septum)と呼ばれる隔壁があるため、これよりも前の感染症が眼窩先端症候群を起こすことはありません。
炎症性
●Tolosa-Hunt症候群の脳神経麻痺は疼痛の発症と一致するか、2週間以内に発症するが、コルチコステロイドを投与すると72時間以内に改善します。
●特発性眼窩炎症は通常片側性で25%は両側性(小児に多い)です。
内分泌
血管性
●頸動脈海綿静脈洞瘻は外傷性と非外傷性に分けられます。
●非外傷性の代表的な疾患や病態は閉経女性、エーラスダンロス症候群、線維筋性異形成、骨形成不全、弾性線維性仮性黄色腫などです。
●症状は発症から数日~数か月後に発生します。
その他
●類皮腫、類上皮腫は20~30年に頭痛(32%)と痙攣(30%)を起こします。
●嚢胞の破裂により、化学性髄膜炎が起こる事があります(6.9%)。
●粘液嚢胞は壁の滑らかな構造を持つ不透明の空洞病変です。前頭骨(60~65%)、篩骨(25%)、上顎骨(5~10%)、蝶形骨(2~5%)に生じます。
●眼窩内伸展のリスクが最も高いのは後篩骨洞の病変で、蝶形骨洞からは稀です。
眼窩先端症候群の類縁疾患
●上記に示す通り、基本的には3つとも進行性の疾患です。
●特に上眼窩裂症候群は海綿静脈洞症候群、眼窩先端症候群に進展します。
●眼窩先端症候群が海綿静脈洞症候群に進展する場合もあります。
眼窩先端症候群の診断アプローチ
【参考文献】
●Goyal P, et al. Neuroradiol J. 2018 Apr; 31 (2): 104-125. "Orbital apex disorders: Imaging findings and management."
●Badakere A, et al. Eye Brain. 2019 Dec 12; 11: 63-72. "Orbital Apex Syndrome: A Review.“
●Yeh S, et al. Curr Opin Ophthalmol. 2004 Dec; 15 (6): 490-8."Orbital apex syndrome."