ANCA関連血管炎の長期寛解維持にリツキシマブは有効か?
ANCA関連血管炎のMAINRITSAN3試験の結果が出ました。
ANCA関連血管炎(AAV)の寛解導入においてリツキシマブがエンドキサンと同等である事は既に示されております(RITUXVUS試験)。リツキシマブを含むレジメンが登場してから、AAVの寛解率は53%から88%へと改善しました(PMID=20647199/19451574)。
さらに寛解後の維持療法におけるリツキシマブの効果を検証したMAINRITSAN1試験では、IVCYで寛解導入後、寛解維持療法においてリツキシマブ(Day0, 14, 6か月, 12か月, 18か月に500mg投与)がアザチオプリンよりも優位であった事も示されました。
これにより、諸外国ではAAVの寛解も維持もリツキシマブを使うという流れが出来ました。
リツキシマブの寛解維持における投与方法については、寛解維持においてリツキシマブ定期投与(Day0, 14, 6か月, 12か月, 18か月)にする群と、3か月毎に採血で末梢血のB細胞の出現やANCA力価の上昇をフォローし、出現した場合に投与する群(個別リツキシマブ投与)を比較した試験(MAINRITSAN2試験)があり、結果、両者に違いはなく、いちいち末梢血のB細胞やANCAを測定しなくても6か月毎の固定打ちで良いという結果となりました。
さて、寛解維持においてもリツキシマブの有効性を示したMAINRITSAN1試験でしたが、リツキシマブの投与を中止した後、高確率で再発が起こってしまいました(リツキシマブ最終投与から32か月時点で57.9%の患者が再発)。
これでは元も子もないという事で、リツキシマブを中止せずに、長期維持療法に使ったらどうかという試験が行われました。それが今回のMAINRITSAN3試験です。
お時間がない方は、以下のまとめ、Commentsだけご覧ください。
まとめ
●寛解維持においてリツキシマブ定期投与(Day0, 14, 6か月, 12か月, 18か月)にする群と、3か月毎に採血で末梢血のB細胞の出現やANCA力価の上昇をフォローし、出現した場合に投与する群(個別リツキシマブ投与)を比較したMAINRITSAN2試験の続きとなる試験が今回のMAINRITSAN3試験。
●MAINRITSAN2試験でリツキシマブを使用し、18か月経過したあと、さらに18か月間、リツキシマブ500mgを6か月毎に投与する群とプラセボを投与する群(すなわちリツキシマブは終了)を比較した。
●リツキシマブを6ヶ月ごとに500mgを投与することを延長する事は、寛解の維持に有効であることが示された。
●リツキシマブ群の有害事象の頻度もプラセボ群より高くなかった。
●再発は従来と同様、PR3-ANCA陽性例で多い。
●再発とANCA陽転化、末梢血でのCD19陽性B細胞の出現に強い関連性は見られなかったが、再発したプラセボ群12例中7例でANCA陰性から陽転化した。
●ANCAと末梢血でのCD19陽性B細胞が両者とも陰性の場合は、再発は見られなかった。
Comments
●MAINRITSAN2試験からの延長である事を意識しなければなりません。MAINRITSAN2試験は寛解導入にシクロホスファミドを使用した患者が100名(61.7%)、リツキシマブが61名(37.6%)、メトトレキサートが1名(0.6%)でした。
→つまりはMAINRITSAN3試験は『シクロホスファミド6割、リツキシマブ3割8分で寛解導入され(MAINRITSAN2試験の前段階)、寛解維持療法は、リツキシマブ500mgを6か月毎に投与するか、3か月に1回採血し、ANCAが上昇したり末梢血のCD19陽性B細胞が出現したタイミングで投与した患者ら(MAINRITSAN2試験)を、さらに18か月間6か月毎にリツキシマブ500mgを投与する事が寛解維持に有効かどうか』を見た試験という事になります。
●MAINRITSAN3試験ではMAINRITSAN2試験で重篤な有害事象が生じた患者は除外されているため、選択バイアスの可能性はあります。
●また、試験の対象患者はGPAが多くMPAが少ないのは、日本と真逆です。日本ではMPAが多いです。
●EGPA患者はMAINRITSAN2試験同様、含まれていません。なので全てのANCA関連血管炎に適応できるという訳ではありません。※EGPAは別に考えて下さい。
●結構本文中に引用されていましたが、肝心のSupplement dataがインターネットから見られませんでした…
●ANCA関連血管炎の一般的なマネジメントについては以下をご覧ください。
Methods
Overview
以下が概要。
●この試験はリツキシマブの寛解維持における投与方法(固定投与 vs B細胞、ANCA上昇に合わせて投与)について検討したMAINRITSAN2試験の延長の他施設ランダム化二重盲検比較試験である。
●MAINRITSAN2試験は28か月のフォローアップ期間だが、MAINRITSAN3試験ではそこからさらに28か月間フォローアップしている。
●2015年3月から2016年4月の間に2群無作為割り付け、2018年8月に終了している。
●MAINRITSAN2試験終了時にmajor relapseがなく、完全寛解状態に至った患者をMAINRITSAN3試験にエントリーしている。
→完全寛解の定義はBVAS version 3で0点(0~63点、高いほど高活動性)。
●患者はリツキシマブ投与群とプラセボ投与群の1対1に振り分けられた。
●リツキシマブ投与群は6か月毎に500mgの固定投与(0, 6m, 12m, 18mの4回投与)。
●プラセボ群はリツキシマブ群と同様の投与回数。
Outcomes and follow up
●Primary end point:ランダム化28か月時点での無再発率
→再発はAAV症状の再出現や悪化(BVAS>0)と定義
●Secondary end point:major/minor relapse free survival
→Major relapse:life threateningまたはmajor organを1つ以上含む
→Minor relapse:AAV症状再出現または悪化+BVAS>0、Major relapseではない
●他のSecondary end point:臓器障害(VDI)、health related quality of life(Physical Functioning Scale and Mental health Component scores of the Medical Outcomes Study 36-Item Short-Form Health Surver/Health Assessment Questionnaire)、ANCAやCD19陽性B細胞数と再発の関係、累積グルココルチコイド量、血清ガンマグロブリン値、死亡、全副作用(治療関連orそれ以外)
●ランダム化後28か月経過するまで3か月毎に通院して頂いた。
●28か月まで、受診毎にBVASが計算され、血液サンプル(CD19陽性B細胞、ANCA)採取。
→B細胞数の減少でリツキシマブ使用が分かってしまう事を恐れて、血液検査は第3者が評価していたという徹底ぶり…
Results
Patient Characteristics
● MAINRITSAN2試験の患者162名から最終的に97名がランダム化された。
●GPA68名(70%)、MPA29(30%)、新規のAAV診断は57名(59%)、40名(41%)は再発。
●50名(52%)はリツキシマブ投与継続群、47名(48%)はプラセボ群。
●以下に背景を示す。
●リツキシマブ投与群では42名の患者が4回全てのリツキシマブの投与を受けたが、8名は途中で治療を中断した。
●プラセボ群では37名の患者が4回全てのプラセボ群投与を受けたが、10名の患者は途中で治療を中断した。
●それぞれの群で1名ずつフォローアップ期間である28か月を待たずしてフォローアウトした。
Primary end point
●リツキシマブ群の28か月時点での無再発率は96%(95%CI, 91%~100%)。
●プラセボ群の28か月時点での無再発率は74%(95%CI, 63%~88%)。
●ハザード比は7.5(CI, 1.67~33.7, p=0.008)
●死亡者は両群でいなかった。
●再発はリツキシマブ群で2名
→ランダム化後3か月時点で発熱性好中球減少症を発症し退薬、14か月時点で再発
・1名:PR3-ANCA陽性GPA
→ランダム化後7か月時点、リツキシマブ投与1か月後に再発
●プラセボ群で再発した12名のうちGPA10名(83%)、MPA2名(17%)。12名中6名は最初の再発。10名はPR3-ANCA陽性、2名はMPO-ANCA陽性。
●12名の内5名はMAINRITSAN2試験で個別リツキシマブ投与、7名はリツキシマブ固定投与を受けていた。
●再発までの中央値はプラセボ群でMAINRITSAN2試験でリツキシマブ投与終了後から22か月(IQR, 20~23か月)。
Secondary end point
Major and Minor Relapses
●メジャーな再発フリー生存率はリツキシマブ群で100%(CI, 93%~100%)、プラセボ群で87%(CI, 78%~97%)(p=0.009)。
●プラセボ群の6名がメジャーな再発を来した。
・3名:腎病変の悪化
・3名:肺病変の悪化(肺胞出血、気管支狭窄、肺結節)
→全ての患者は新しい寛解導入療法(PSL大量+リツキシマブ)を受けて寛解した。
→1名の患者は持続的腎機能障害を来したが、透析は不要だった。
●マイナーな再発フリー生存率はリツキシマブ群で96%(CI, 91%~100%)、プラセボ群で87%(CI, 78%~97%)(p=0.134)。
Damage and Quality of Liife
●平均Vasculitis Damage Index scoreは開始時、リツキシマブ群で2.2(SD, 1.9)、プラセボ群で1.6(SD, 1.6)、28か月後、リツキシマブ群で2.2(SD, 1.8)、プラセボ群で1.7(SD, 1.6)。
●両群の有意差はなかった。
●QOLのアウトカムも有意差が見られなかった。
ANCA陽性またはB細胞増加と再発の関係
●28か月時点リツキシマブ群の14/47名(30%)がANCA陽性、プラセボ群の24/42名(56%)がANCA陽性であった(p=0.057)。
●最初にANCAが陰性であり、その後に陽転化する事は再発と関連しているようである。
→再発群の50%に陽転化が診られたが、無再発群では15%しか陽転化しなかった。
●ANCAが持続的に陰性であるにも関わらず再発したのは1名のみであった。
●ANCAとCD19陽性B細胞がない患者は再発しなかった。
●プラセボ群ではPR3-ANCA陽性の内10/25名(40%)が再発し、MPO-ANCA陽性の内2/17(12%)が再発した。
グルココルチコイドの使用
●ランダム化後の平均累積グルココルチコイド量はリツキシマブ群とプラセボ群では有意差がなかった(2565mg[SD, 2932] vs 3376mg[SD,3371], p=0.22)。
●試験終了時(28か月後)、リツキシマブ群では19/49名(39%)がグルココルチコイドを処方されており、プラセボ群では23/46名(50%)がグルココルチコイドの処方を受けていた。
●試験終了時のグルココルチコイド量の中央値はリツキシマブ群で5mg(IQR, 5~5mg)、プラセボ群では5mg(IQR, 5~8.75mg)。
Safety
●リツキシマブ群で46名(92%)、プラセボ群で44名(94%)は少なくとも1回副作用を経験した(p=068)。少なくとも1回重大な副作用を経験したのはそれぞれ12名(24%) vs 14名(30%)(p=0.65)。
●リツキシマブ群では6名(12%)の患者に9回の重症感染症が起こった(2例は敗血症性ショックと尿路感染症、1例はライム病、胆管炎、好中球減少症、気管支炎、肺炎)、一方、プラセボ群では4名(9%)に6回の重症感染症が起こった(4例は肺炎、1例はインフルエンザ、1例はニューモシスチス肺炎)。
●試験終了時の平均γグロブリン値はリツキシマブ群で6.6g/L(SD, 1.9)、プラセボ群で7.9g/L(SD, 2.9)(p<0.001)。
●試験終了時に低ガンマグロブリン血症を呈していたのは以下。
・4d/L未満:リツキシマブ群2/48(4%)、プラセボ群3/43(7%)
・5d/L未満:リツキシマブ群10/48(21%)、プラセボ群6/43(14%)
●最終IgG, IgMの平均値はリツキシマブ群で6.60g/L(SD, 1.97)、0.44g/L(SD, 0.37)。
●最終IgG, IgMの平均値はプラセボ群で8.02g/L(SD, 2.92)、0.48g/L(SD, 0.43)。
【参考文献】
Pierre Charles, et al. Ann Intern Med . 2020 Jun 2. doi: 10.7326/M19-3827. Online ahead of print."Long-Term Rituximab Use to Maintain Remission of Antineutrophil Cytoplasmic Antibody-Associated Vasculitis: A Randomized Trial"