OMAAVという病気を知っていますか?
OMAAVという病気をご存知でしょうか?
ANCA関連血管炎が原因で起こる中耳炎のことで、
Otitis media with antineutrophil cytoplasmic antibody assiciated vasculitis
の略語になります。
比較的最近出てきた概念で、抗菌薬や鼓膜換気チューブなどといった標準的な治療を行っても改善しない難治性の中耳炎の中で、ANCA関連血管炎が原因と考えられた症例が報告されて来ておりました。
本日はOMAAV(オマーヴ)について、日本からの2016年の全国調査のコホート研究をご紹介したいと思います。
ANCA関連血管炎のマネジメントについてのReviewはこちらをどうぞ。
Introduction
●ANCA関連血管炎の中でも中耳炎は多発血管炎性肉芽腫症(GPA)患者の30~50%に合併する。
●またGPAだけでなく、MPAやEGPAによる中耳炎患者は顔面麻痺や肥厚性硬膜炎を合併する事が報告されている。
●ANCA関連血管炎に伴う中耳炎はOMAAVと称され、以下の典型的特徴を有する。
1. 抗菌薬や鼓膜換気チューブに反応しない滲出液や肉芽を伴う難治性中耳炎
2. 中耳の滲出液や肉芽が原因で徐々に進行する難聴が、2か月以内に急激に進行する
3. ほとんどがMPO-ANCAまたはPR3-ANCA陽性
4. 顔面麻痺や肥厚性硬膜炎を伴う
●この疾患は比較的稀であり、診断が難しい事が多いため、大規模コホートは今までなかった。
●本研究では①顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎との関係性、②再発や予後不良の経過の要因、③初期治療で何が有効か、などについて日本国内で全国調査を実施し、OMAAV235例の臨床的特徴を解析した。
Patients and Methods
患者
●2013年12月から2014年2月にOMAAVに関する全国調査(アンケート)を実施。
●1回目のアンケートで過去10年間のOMAAV患者経験数を尋ねた。
●2回目のアンケートは、少なくとも1名のOMAAV患者を評価したことのある施設に電子メールで送付し、初期症状、病変部位、ANCAの状態、聴力データ、画像データ、局所所見、病理所見、治療法、臨床経過など、各患者に関するより詳細な情報を得た。
●関連する臨床情報およびフォローアップデータは、すべての症例について病院のカルテから取得した。
OMAAVの定義
●以下のA、B、Cの全てを満たす場合にOMAAVと分類した。
A: 抗菌薬や鼓膜換気チューブに抵抗性の滲出液または肉芽形成を伴う難治性中耳炎
B: 次の内、少なくとも1つが陽性
(1)血清MPO-ANCAまたはPR3-ANCAが陽性
(2) ANCA関連血管炎に一致する病理組織所見
①壊死性血管炎
②肉芽の有無に関わらず、小動脈優位に炎症を認める
(3)耳以外のANCA関連血管炎の病変
→眼、鼻、咽頭・喉頭、肺、腎臓、顔面神経麻痺、肥厚性硬膜炎、その他
C: 他の疾患の除外
難治性中耳炎
・細菌性中耳炎
・コレステロール肉芽腫
・コレステリン腫
・悪性骨髄炎
・結核
・悪性腫瘍
・好酸球性中耳炎
自己免疫性疾患・血管炎
・コーガン症候群
・結節節性多発動脈炎
・その他の自己免疫性疾患
ちなみに、2016年の日本耳科学会のOMAAV診療の手引きでは以下の定義
寛解・再燃の定義
●寛解は、3か月間ANCA関連血管炎に起因する症状が認められない状態と定義。
●再燃は寛解後、新たな病変の発生、または臨床的血管炎の症状の再発、悪化と定義。
血清ANCA
●血清MPO-ANCAとPR3-ANCAは酵素結合免疫吸着法(ELISA)、化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)、または蛍光酵素免疫測定法(FEIA)の3つの酵素免疫測定法のいずれかによって測定した。
聴力検査
●聴力は定期的に純音オージオメトリで評価され、0.5、1、2kHzのしきい値の3音平均(算術平均)を用いて算出された平均聴力レベルで表された。
●完全難聴は、いかなる音でも検出不能な聴力レベル(105dB以上)の感音性難聴と定義した。
●聴力の転帰は、有意な回復(CR)、部分回復(PR)、非回復(NR)の3つに分類された。
●聴力の改善率は、全患者数に対するCRとPRの患者数の割合(%)で表した。
統計解析
●2群比較は、Wilcoxonの符号付き順位検定、Mann-Whitney U検定、カイ二乗検定、またはFisherの厳密検定を用いて検定された。
●3群比較は、Ryanの多重比較法またはSteel-Dwass検定を用いて検定した。
●関連因子の決定のために、一変量解析で選択された臨床変数を多変量ロジスティック回帰モデルに同時に入力した。
●Ryanの多重比較法はR統計ソフトウェアを使用し、その他はJMP® 11(SAS Institute Inc., Cary, NC)を用いた。
●統計的検定は、p<0.05の有意水準に基づいて行った。
Result
患者
●123施設のうち70施設が少なくとも1人のOMAAV患者を経験したことがあると回答し、合計で235人の患者が登録された。
●男性64人(27%)、女性171人(73%)、年齢の中央値は68歳(26~89歳)
●追跡期間は7~144か月、全患者の中央値は24か月。
臨床症状と障害臓器
●OMAAVの代表的な所見を以下に示す。
図: OMAAVの代表的な臨床所見。
(A) 右鼓膜が赤みを帯び、粘液性の滲出液で満たされているように見える。
(B) 側頭骨のCT画像。右中耳と乳様体腔には軟部組織物質が充填されている(矢印)。
(C,D) 肥大性硬膜炎のGd造影MRI。硬膜は両側幕状骨に沿って肥厚し(矢頭; C)。
右側頭葉の下側面には右翼状骨頂上の隆起した腫瘤(矢印D)が侵入している。
(E, F) 肥大性硬膜炎を伴う生検標本の顕微鏡写真。リンパ球浸潤、好中球の破片、コラーゲン壊死とともに、間質の肉芽腫性病変が見られる(120x; E)。リンパ球や形質細胞の浸潤に多核巨細胞(矢印; F)がみられる(360x; F)
●235人の患者の臨床的特徴を以下に示す。
●耳症状は全例で見られた。初めに中耳の滲出液や肉芽による難聴が徐々に進行し、その後、内耳障害による急激な進行性の難聴が見られた。
●その他、頭痛(26%)、顔面麻痺(22%)、肥厚性硬膜炎(17%)が見られた。
●CTでは231人中218人(94%)に骨びらんを伴わない中耳または乳突蜂巣が内容物で充填されていた。
●147人の患者で中耳またはその他の部位からの生検が得られたが、39人(27%)はANCA関連血管炎の病理組織(肉芽腫の有無に関わらず、小血管に優位に起こる壊死性血管炎)を認めた。残りの108人(73%)は炎症性肉芽のみであった。
血清ANCA値
●ANCAは232人の患者で得られた。
-MPO-ANCA陽性: 140人(60%)
-PR3-ANCA陽性: 45人(19%)
-両方とも陽性: 10人(4%)
-両方とも陰性: 37人(16%)
●最初にANCAが両方とも陰性だった5人の患者のうち、4人がMPO-ANCA陽性、1人がPR3-ANCA陽性に転化した。
聴力検査
●初診時に234人の患者の401個の耳について聴力測定データが得られた。
●結果、聴力レベルは10個の耳で正常、35個の耳で伝導性難聴、314個の耳で混合性難聴、42個の耳で感音性難聴が認められた。
●完全難聴は9個の耳で片側性に、8個の耳で両側性に認められた(4人)。
●伝音性難聴、混合難聴、感音性難聴の群の平均聴力レベルを以下に示す。各難聴毎の空気伝導聴力レベルと骨伝導聴力レベルの中央値と、括弧内に25~75パーセンタイルを示す。
・伝音性難聴: 32(28~47)dB、14(12~18)dB
・混合性難聴: 75(59~90)dB、48(35~58)dB
・感音性難聴: 114(47~115)dB、73(49~73)dB
治療と臨床経過
●226人の初期治療データが得られた。
●コルチコステロイド(経口PSL106人、mPSL静注16人)と免疫抑制薬を併用した122人(54%)とコルチコステロイド単独(経口PSL90人、mPSL静注14人)の104人(46%)の2群に分けられた。
●PSLの経口投与量は10~80mgで初期治療の中央値は40mgであった。
●免疫抑制薬はシクロホスファミド97人(POCY69人、IVCY28人)、アザチオプリン11人、メトトレキサート6人、シクロスポリン3人、タクロリムス3人であった。
●残りの5例と4例はそれぞれ、治療希望なしと治療法の選択肢を知らない患者であった。
●臨床経過中に41%の患者が再発した。以下に症状と経過を示す。
・両側完全難聴: 6%
・顔面麻痺: 36%
・肥厚性硬膜炎: 28%
・咽喉頭病変: 5%
・肺病変: 35%
・腎臓: 26%
・その他の血管炎に関連する症状: 37%
●4人(2%)が死亡し、3人が疾患関連死(全てくも膜下出血)、1人が治療関連死(心不全)であった。
ANCAに応じた臨床的特徴
●上記より、MPO-ANCA陽性例では、最も年齢が高く(70歳、p<0.001)、PR3-ANCA陽性例では鼻(64%、p<0.001)と肺病変(51%、p<0.01)が多かった。
●MPO-ANCA、PR3-ANCAが両者とも陰性例では治療前の症状の期間が最も長く(8.0か月、p<0.05)、肥厚性硬膜炎(54%、p<0.001)と疾患関連死の発生率(8%、p<0.01)が最も高かった。
罹患病変、再発、生存による臨床的違い
●顔面麻痺と肥大性硬膜炎を有する患者と有さない患者の比較を上記に示す。
●顔面麻痺のある患者は、ない患者に比べて、頭痛(35% vs 21%、p<0.05)、肥大性硬膜炎(35% vs 24%、p<0.05)の発生率が有意に高かった。
●肥大性硬膜炎患者は、ANCA陰性(32% vs 10%、p<0.001)、耳鳴(67% vs 46%、p<0.01)、頭痛(48% vs 18%、p<0.001)、顔面麻痺(47% vs 33%、p<0.05)の割合が有意に高かったが、肺病変(19% vs 41%、p<0.01)、腎病変(11% vs 24%、p<0.05)の割合が低かった。
●多変量解析により、以下が肥大性硬膜炎と関連する有意な独立因子と判明した。
・頭痛(OR=3.73、95%CI=1.87~7.56、p=0.0002)
・耳鳴(OR=2.37、95%CI=1.21~4.80、p=0.01)
・両ANCA陰性(OR=3.31、95%CI=1.49~7.44、p=0.004)
●年齢、性別、ANCAの種類、初期症状、顔面神経麻痺、肥大性硬膜炎、その他の病変は、疾患の再発に影響を及ぼさなかった。
●2群比較解析では有意差は認められなかったが,コルチコステロイドと免疫抑制剤を併用した患者(122人中45人、36%)は、コルチコステロイド単独投与患者(101人中47人,47%)と比べて再発率が低かった。
●多変量解析で、コルチコステロイド+免疫抑制剤療法は、疾患の再発がないことの独立した予測因子であることが確認された(OR=1.90、95%CI=1.07~3.42、p=0.03)。
●年齢、性別、耳痛、耳漏、めまい、頭痛などの初期症状、肺や腎病変は患者の死亡率に影響を与えなかった。
●しかし、疾患関連死を呈した3人の患者はいずれも疾患の再発(p<0.05)を経験し、ANCA陰性(p<0.01)、顔面麻痺、肥大性硬膜炎(それぞれp<0.01)を示した。
聴力の予後
●220人の患者(男性60人、女性160人、年齢中央値68歳)の計381個の耳について、追跡期間中央値24ヶ月の聴力予後が得られた。
●転帰は152個の耳でCR(40%)、119個の耳でPR(31%)、110個の耳でNR(29%)に分類された。
●両側性完全難聴は14例(6%)に認められた。聴力改善率は71%であった。
●フォローアップ期間、年齢、性別、ANCAの種類、耳漏、めまい、頭痛などの症状、肺や腎病変は聴力に影響を与えなかった。
●初診時の聴力レベルに差はなかったが、聴力改善率は、顔面麻痺のある患者では、ない患者と比べて、有意に悪化していた(53% vs 67%、p<0.01)。
●肥大性硬膜炎のある患者でも、ない患者と比べて、聴力改善率は有意に悪化していた(55% vs 65%、p<0.05)。
●聴力データと治療データの両方が374個の耳で得られた。
●201個の耳(54%)にはコルチコステロイドと免疫抑制剤の併用療法が、173個の耳(46%)にはコルチコステロイド単独療法が行われた。
●治療前の聴力レベルに差はなかったが、聴力改善率は、コルチコステロイド+免疫抑制剤併用療法を受けた耳で有意に良好であった(68% vs 56%、p<0.01)。
●多変量解析により、コルチコステロイドと免疫抑制剤の併用療法が聴力改善の独立した予測因子であることが確認された(OR=2.58、95%CI=1.56~4.32、p=0.0002)。
ANCA関連血管炎の基準による分類
●一般的なANCA関連血管炎の診断基準は厚生労働省1998年版(JMHLW)と欧州医薬品庁(EMEA)のアルゴリズムがある。
●JMHLWの基準によると、本研究の235人の患者はEPGA 3人(1%)、MPA 22人(9%)、definite GPA 43人(18%)、probable GPA 134人(57%)に分類された。
●残りの33人(14%)はPR3-ANCAが陰性で(27人はMPO-ANCA陽性だったが)、組織学的な証拠がなく、上気道(耳、鼻)以外の障害部位がなかったため、GPAの基準を満たさなかった。
●EMEAの基準によると、本研究の235人の患者はEPGA 3人(1%)、MPA 22人(9%)、GPA 183人(78%)と分類された。残りの27人(12%)は分類基準の項目である組織学的証明、ANCA、血管炎や肉芽腫を強く示唆する特異的検査のうち、少なくとも1つ以上を満たしていなかった。
Discussion
●本研究ではJMHLWとEMEAの基準を満たさない症例がそれぞれ33人(14%)、27人(12%)であり、これはRemIT-JAV試験とほぼ同率であり、これらの基準がOMAAVにも適応が出来ると思われる。
→しかし、これは235人の大多数が顔面神経麻痺や肥厚性硬膜炎、肺や腎病変などの病状の進行により基準を満たしていたことに起因する。
●ANCA陽性でだが、耳以外の病変を示さず、組織学的に証明されていない初期のOMAAV患者についてはJMHLWやEMEA基準では診断出来ない。
→実際そのような患者は初診時に235人中41人(17%)見られた。過去の報告(Clin Exp Nephrol. 2013;17:663–6./Ann Rheum Dis. 2010;69:1934–9.)では上気道に病変が限局している患者の半数がANCA陰性であり、生検検体中に組織学的血管炎が含まれるのも3分の1であり、上気道限定型ANCA関連血管炎の診断基準が必要である。
●今回の研究ではGPA,MPA、EGPAに分類された患者では臨床的特徴に差がなかった。
→ANCA関連血管炎のサブグループ間での鑑別は困難であるため、ANCA関連血管炎による難治性中耳炎には適応できない。
●併存症としては顔面麻痺(初診時22%、全経過36%)、肥厚性硬膜炎(初診時17%、全経過28%)、肺病変(35%)、腎病変(26%)が多い。
●顔面麻痺はGPA患者の5~8%に起こると報告されており、肥厚性硬膜炎はGPAでは0.6%(Ann Neurol. 1993;33:4–9.)から6.7%(Arch Neurol. 1969;8:145–55.)認めるという報告がある。
●YokosekiらはANCA関連血管炎による肥厚性硬膜炎21人のうち、66%に中耳炎が見られたのに対して、肺、鼻、喉頭、腎臓病変はそれぞれ、29%、10%、0%、10%しか認めていないと報告している(Brain. 2014;137:520–36.)。
●ANCA陽性の肥厚性硬膜炎100例のデータでも初発部位は耳(49%)が最多で次いで、眼(27%)、腎臓(7%)、鼻(3%)、肺(1%)となっている(データ未公表)。
●これらから、顔面麻痺と肥厚性硬膜炎はOMAAVの特徴的な症状と考えられる。
●これは中耳と顔面神経、硬膜が解剖学的に隣接しているためと考えられる。
●炎症性肉芽が直接顔面神経管に沿って広がって破壊し、顔面麻痺を起こす事がある(Allergol Int. 2014;63:523–32.)。
●中耳の静脈は硬膜静脈と交通しているため、炎症が直接硬膜に広がる可能性がある(Brain. 2014;137:520–36.)。
●頭蓋底の肥厚性硬膜炎は脳神経VIIIに直接影響を与え、不可逆的な蝸牛性感音難聴を引き起こす。脳底動脈まで血管炎が進展すると、くも膜下出血を引き起こす。
●顔面麻痺と肥厚性硬膜炎は患者の聴力や生命を脅かす予後不良因子である。
→聴力と生命予後を守るために早期に肥厚性硬膜炎の診断が必要。
●肥厚性硬膜炎の予測因子は激しい頭痛である。
●OMAAVのANCAの種類に関して、日本や韓国などのアジア諸国ではMPO-ANCA陽性が多く、欧米ではPR3-ANCA陽性が多い。これはANCA関連血管炎に準ずる。
→顔面麻痺や肥厚性硬膜炎は地域に関係なく、共通して認める。
●本研究では37人(16%)がANCA陰性であったが、①現在の方法で検出出来ないANCA、②まだ発見されていない特異性のあるANCAがある、③ANCAが関与していないメカニズムなどが考えられる。
→より感度の高いキット(Wieslab®(Euro Diagnostica, Malmo, Sweden))を用いることで陰性だった患者のANCAが測定出来たとの事(データ未公表)。
●ANCAの陽性率は病変部位によって異なり、局所GPAの場合は陽性率60%、全身性GPAでは陽性率97%という報告あり(Auris Nasus Larynx. 2007;34:379–82.)。
●両ANCA陰性の患者では聴力障害と生命予後が不良であった。これは治療開始前までの期間が長かったことに起因すると考えられる。
→37人の両ANCA陰性患者の内、症状が耳だけの段階で組織学的証明されたり、ANCA関連血管炎の分類基準を満たしたのは11人(30%)だけで、70%が顔面麻痺や肥厚性硬膜炎、肺病変、腎病変が出現するまで診断がつかなかった。
●両ANCA陰性は肥厚性硬膜炎と関連があったことも予後と関連するかもしれない。
●両ANCA陰性患者の血清から検出されたBPI-ANCAとエラスターゼ-ANCAは化膿性肺疾患を伴う全身性血管炎(Intern Med. 2004;43:331–5.)、壊死性半月体形成性糸球体腎炎(Nephrol Dial Transplant. 2007;22:2068–71.)と関連している。
→これらの事実はMPO-ANCA、PR3-ANCA陰性の表現型が高い疾患活動性を表している可能性がある。
●PSLと免疫抑制薬の併用は長期寛解を達成し、聴力、生命予後を改善した。
●EULARの推奨でも臓器を脅かすANCA関連血管炎の寛解導入にはPSLとシクロホスファミドを併用すべきであると言われている(Ann Rheum Dis. 2009;68:310–17.)。特にANCA陽性の肥厚性硬膜炎では併用療法が必要である。
→OMAAVでも聴力や生命を脅かす可能性が判明しているため、初期より、免疫抑制薬併用療法を行うべきである。
Limitation
●第一に全国コホート調査であり、データの再現性を論じることが出来ない。
●第二に登録患者は日本国内の大学病院、紹介病院から選ばれた患者であるため、機関バイアスを考慮する必要がある。
●現在と過去の研究では、ほぼすべての患者が、耳鼻咽喉科診療所から大学・紹介病院に紹介され、難治性中耳炎の評価を受けた後、最終的にOMAAVと診断されている。
●したがって一次診療所で治療・経過観察を行い、本研究から脱落したOMAAV患者は相当数に上るはずである。
●第三に初診時から顔面神経麻痺、肥大性硬膜炎、肺・腎臓病変、再発までの期間をカウントしていないため、群間比較のための生存時間解析やCox比例ハザード回帰分析ができていない。
●最後に治療法の選択は主治医の裁量で決められていたため、治療法は一様ではなかった。
私からのComments
●OMAAVは局所のANCA関連血管炎と考える。
●高齢女性に多く、MPO-ANCA陽性が優位(60%)ですが、最終的な診断としてGPAが優位なのは実に興味深い。
●診断は難しい。耳鼻科から紹介されてもすぐ否定してはいけない理由を以下に示す。
①ANCAが陰性だから→過去の報告では『ANCA陰性が半数』
→4人の患者でANCA陰性から陽転化する、1回の陰性でも完全には否定できない!!
②病理が陰性だから→『病理でも血管炎所見は3分の1』
③他の臓器障害がないから→併存症の頻度は以下の通り決して高くない。
顔面麻痺(初診時22%、全経過36%)
肥厚性硬膜炎(初診時17%、全経過28%)
肺病変(35%)
腎病変(26%)
④ANCA関連血管炎の分類基準を満たさないから→『最初は耳だけのフェーズがあると考えた方が良い』
●併存症としては顔面麻痺、肥厚性硬膜炎は特に気を付けるべき!!
●顔面麻痺や肥厚性硬膜炎が出現するまで待っていたら、聴力障害と生命予後が不良となる(この二つは予後不良因子)。
→早期診断が求められます→問診と診察、Gd造影MRIが必須です!!
→激しい頭痛が肥厚性硬膜炎を示唆する症状ですが、乳突蜂巣炎でも激しい頭痛が起こり得るので、鑑別にはやはりGd造影MRIが必要。
●顔面麻痺、肥厚壊死はGPAに合併する事が報告されており、OMAAVもやはりGPAと関連すると考えるべきでしょうか…というか最終的にはGPAと分類されている症例が圧倒的!!
●14人(6%)が両側完全難聴、3人(1%)が疾患に関連して死亡しています。
→『耳だけだから』とステロイド中等量を単独で使用する医師も多いが、予後不良の経過となるため、重要臓器を脅かすANCA関連血管炎に準じて、初期治療から免疫抑制薬の併用を行うべき!!
●GPAに似ていると考えるのであればリツキシマブが有効かもしれません。
【参考文献】
Harabuchi Y, et al. Mod Rheumatol. 2017 Jan; 27 (1): 87-94. "Clinical features and treatment outcomes of otitis media with antineutrophil cytoplasmic antibody (ANCA)-associated vasculitis (OMAAV): A retrospective analysis of 235 patients from a nationwide survey in Japan."