リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

乾癬性関節炎の発症リスク

乾癬は乾癬性関節炎を起こすことがあります。乾癬の皮疹と関節炎が同時に生じることがありますが、皮膚科の先生から『乾癬の患者さんが関節痛を訴えている』という紹介を受けることが多いように思います。

 

気になるのはどんな乾癬患者が乾癬性関節炎を起こすかという事です。

今回は乾癬患者が乾癬性関節炎を起こすリスク因子についてまとめたいと思います。

 

 

乾癬と乾癬性関節炎

まず、乾癬と乾癬性関節炎の関係ですが、以下の事が分かっています。

 

●乾癬性関節炎自体の有病率は全乾癬患者で19.7%中等症から重症の乾癬患者では24.6%に上ります。日本での乾癬性関節炎の有病率は8.3% (95% CI, 1.6%-19.6%) です(PMID=29928910)。

●乾癬性関節炎の年間発生率は乾癬患者で1-3%と言われています(PMID=32747079)。

●乾癬性関節炎患者はほとんどに乾癬が先行します。米国リウマチ学会の2019年総会の発表(ABSTRACT NUMBER: 2854)によると、1631人の乾癬性関節炎患者のうち、乾癬と関節炎の発症の関係は以下の通りです。

 -関節炎先行71人 (4.4%)

 -皮疹と関節炎が同時発症309人 (18.9%)

 -皮疹先行1251人(76.7%)

●同報告では、乾癬性関節炎は乾癬の皮膚症状が出現してから65か月(5.4年)遅れて発症する事が報告されています。 

●よって、乾癬性関節炎の拾い上げはしばしば皮膚科の先生に委ねられます。

 

以下にアメリカとカナダの大規模なコホートをご紹介します。いずれも乾癬性関節炎の発症リスクについて検討したものです。 

 

アメリカの報告

 2009年のミネソタ州コホートが最も有名で、1970年1月1日から1999年12月31日の間に診断された18歳以上の1,593人の乾癬患者(Inclusion時点では乾癬性関節炎を発症していない)を対象としたものです。乾癬性関節炎はCASPER分類基準(3点以上)を用いて分類されています。

 

乾癬性関節炎の累積発生率

 まず、乾癬性関節炎の累積発症率は以下の通りです。

 なお、追跡10年、20年時点で追跡できた患者は1593人中それぞれ901人(56%)、353人(22%)でした。

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 この結果、乾癬患者の乾癬性関節炎発症率は5年で1.7%10年で3.1%20年で5.1%でした。

 

 なお、乾癬の発症時点で乾癬性関節炎を合併していた患者を入れると、20年時点での乾癬性関節炎の累積発症率は最大で7.5%となりました。

 

乾癬性関節炎の男女毎の累積発生率

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 20年時点での乾癬性関節炎の発症率の性差については男性(6.4%)が女性(3.9%)よりやや多かったですが統計学的有意差はありませんでした(p=0.11)。

 

乾癬性関節炎発症リスク

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●乾癬性関節炎のリスクは以下の通り

 -頭皮病変HR3.75 (95%CI 2.09–6.71)

 -爪異常(栄養障害)HR2.24 (95%CI 1.26–3.98)

 -臀部/肛門周囲病変HR 1.95 (95%CI 1.07–3.56)

 -病変部位≥3か所HR2.24 (95%CI 1.23–4.08)

 

皮疹+関節炎の同時発症と皮疹後に関節炎を発症した場合の比較

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 乾癬の皮疹と関節炎が同時に発症した患者は乾癬の皮疹のあとに関節炎を発症した患者よりも若年男性である可能性が高かったです。

 

カナダの報告

 続いては2016年のトロントコホートからの報告です。こちらは404人の乾癬性関節炎のない乾癬患者を対象としています。

 

乾癬性関節炎の累積発生率

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観察期間は8年ですが、20年までの推定発生率、死亡率が計算されて出されています。

 

乾癬性関節炎の年間発生率は乾癬患者100人あたり2.7人(95%CI 2.1-3.6)でした。疑い症例も含めると3.2人(95%CI 2.5-4.1)に増加しました。

 

乾癬性関節炎発症リスク

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こちらでは低学歴乾癬の重症度nail pitting全身レチノイド薬の使用がリスクとして上がりました。

 

時間依存性予測因子

次に変数が時間とともに変化し得ることを考慮して、時間依存共変量として評価した場合、以下の通りになりました。

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多変量解析ではnail pittingブドウ膜炎が予測因子として上がりました。

 

まとめ

●乾癬の乾癬性関節炎への進展リスクは低学歴頭皮病変爪異常(栄養障害)臀部/肛門周囲病変nail pitting病変部位≥3か所乾癬の重症度全身レチノイド薬の使用ブドウ膜炎などがあがりました。

●低学歴はおそらくは治療や生活習慣是正のアドヒアランスの低さに起因すると思われます。

●全身レチノイド薬使用に関しては皮膚症状の重症度に起因すると思われます。

●爪は末梢関節と密接に関連しているため、爪病変が末梢関節炎のリスクになるのは理解できます。

●なお、他の研究では肥満がリスクになるという報告もありますので、生活習慣の是正が必須です(PMID=22586165)。

●乾癬患者では上記に注意していきたいですね。

 

【参考文献】

●Floranne C Wilson et al. Arthritis Rheum . 2009 Feb 15; 61 (2): 233-9. "Incidence and clinical predictors of psoriatic arthritis in patients with psoriasis: a population-based study"

●Shelly Chandran, et al. Semin Arthritis Rheum . 2016 Oct; 46 (2): 174-182. "The Incidence and Risk Factors for Psoriatic Arthritis in Patients With Psoriasis: A Prospective Cohort Study"