リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

RA EULAR recommendation 2019

 欧州リウマチ同盟(EULAR)からの関節リウマチ(RA)に関するRecommendationが3年ぶりに改訂されました。

 ここでは2016年のRecommendationとの変更点などについてまとめたいと思います。

 

 

言葉の定義

予後不良因子

●従来の合成DMARD(csDMARD)療法に関わらず、持続的に中または高疾患活動性

●急性期炎症反応(CRP)が高い

●腫脹関節が多い

●RF/抗CCP抗体価が高値

●早期の骨びらん

●2種類以上のcsDMARDsが無効

 

低用量グルココルチコイド

プレドニゾロン<7.5mg/日

 

テーパリング(減量)

●薬剤を減量するか、投与間隔を延ばす。

●薬剤を減量し、中止する事も含まれる(例:PSL0mgへの減量)が、その場合は突然ではなく、徐々に減量し中止になった場合をテーパリングと定義する。

 

DMARDの命名

合成DMARDs

 ●従来の合成DMARDs(csDMARDs):

 -MTX、レフルノミド、スルファサラジン、ヒドロキシクロロキン

 ●分子標的型合成DMARDs(tsDMARDs):

 -バリシチニブ、トファシチニブ、ウバタシチニブ

生物学的DMARDs

 ●Biological originator DMARDs(bDMARDs):

 -TNF阻害薬

   (アダリムマブ、セルトリズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ)

 -IL-6阻害薬(サリルマブ、トシリズマブ)

 -共刺激阻害薬(アバタセプト)

 -抗B細胞(CD20):リツキシマブ

バイオシミラーDMARDs(bsDMARDs):

 -アダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ、リツキシマブ

 

寛解基準

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低疾患活動性

●SDAI≤11

●CDAI≤10

 

包括的原則

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LoE: エビデンスレベル, SoR: 推奨の強さ, LoA: 同意レベル


 ●相変わらず、関節リウマチはリウマチ専門医が治療すべきであるという立場です。

変更点

●新たに包括的原則に『D』が付け加わりました。これは、関節リウマチの複雑な病態が判明し、それに対する様々な機序の薬剤が出現してきたことを反映しているためです。

●関節リウマチを扱うリウマチ専門医は、寛解や低疾患活動性を目指すために、複数の薬剤を選択肢として持つ必要があります。

 

個々の推奨事項

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※推奨1-7、9、12は変更されておりません。推奨8、10、11のみ変更がありました。

 

推奨2

●ここで言う寛解BooleanまたはCDAISDAIによる寛解基準に基づきます。

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推奨3

3か月以内に疾患活動性の改善が50%未満の場合、寛解または低疾患活動性に達する可能性は低いと言われております。

●IL-6阻害薬やJAK阻害薬はCRPなどの産生に直接的に影響を与えるため、臨床的な改善とは無関係に急性期炎症反応の値に影響し得る事に注意して下さい。

 

推奨4

●初期治療でMTX+PSLに比べて、MTX+bDMARDsが優位であったという根拠は示されていないため、MTXは相変わらず初期治療のアンカードラックのままです。なお、初期治療でtsDMARDsとMTX+PSLの比較はされておりません。

●また、早期RA患者にMTXを使用して6か月の時点でTNF阻害薬を追加する群と、初期からMTX+TNF阻害薬を併用した群では効果に有意な差はありませんでした。

●MTXは0.3mg/kg/週になるまで4~6週間以内に漸増する必要があります。

●欧米では20~25mg/週ですが、アジアでは体重が低いため、最大用量は減る傾向にあります。日本では16mgが最大用量で、保険適応量も16mgです。ただし、欧米人のような体型の患者では16mgは少ないです。

 

推奨5

●MTXが禁忌である場合、bDMARDsまたはtsDMARDsへ変更するべきか、レフルノミドやスルファサラジンなどの他のcsDMARDsにすべきかの根拠は十分ではありません。

●MTX禁忌の際の選択肢にヒドロキシクロロキンを加えるという案もありましたが、軽症のRAに限られた根拠であるため、含まれていません。因みに日本では関節リウマチの保険適応薬ではありません。

●日本ではブシラミンやイグラチモドも承認されておりますが、世界的にはデータが不十分であるため、MTX禁忌時の選択肢として提示されておりません。

 

推奨6

●治療変更や薬剤増量をしてから、その薬剤が薬効を示すまでの間はタイムラグがあるため、関節炎をグルココルチコイドでコントロールする事が理にかなっています。

●ただし、その場合も短期(3か月以内)にとどめるべきです。

●グルココルチコイドを減量して中止するまでの間に、治療目標を維持できない場合は、変更や増量した薬剤の効果不十分と考え、bDMARDsまたはtsDMARDsに変更することを考慮します。

 

推奨7

●MTX治療に失敗した患者でも、他のcsDMAEDsにしばしば反応する事が知られております。

 

推奨9

●臨床では40%がbDMARDs単剤療法を行っておりますが、推奨ではbDMARDsまたはtsDMARDsはcsDMARDsと併用した方が良いとされております。

●MTXを併用する場合、高用量である必要はありません。TNF阻害薬との併用では10mg/週で十分です。

●単剤ではトシリズマブとサリルマブはアダリムマブ単剤よりも有効で、JAK阻害薬も一般的に良い臨床効果があるため、単剤を使用する際にはIL-6阻害薬またはJAK阻害薬を使用する事が良いです。

 

推奨10

●前半部分は変更ありません。bDMARDまたはtsDMARDsが無効なら、他のbDMARDまたはtsDMARDsに変更します。

 ●トシリズマブでの治療失敗後にサリルマブが有効であったという報告があります(Ann Rheum Dis 2018; 77: A327.)。

●TNF阻害薬無効でJAK阻害薬に変更した場合とJAK阻害薬無効でTNF阻害薬に変更した場合ではアウトカムが変わらなかったという報告があります(Ann Rheum Dis 2019; 78: 1454-62.)。

 

推奨12

●推奨レベルが『C』から『B』に格上げしました。

●csDMARDsに反応し、bDMARDまたはtsDMARDsに反応しない患者でも持続的寛解が得られたら、csDMARDsを減量できます。

●bDMARDまたはtsDMARDsを漸減中止で来た患者ではcsDAMRDsの漸減を検討する事ができます。

●完全な中止は困難かもしれませんが、減量を考慮する必要があります。

 

変更点

推奨8

●最初のcsDMARDsで治療目標に到達しなかった場合、予後不良因子があれば、bDMARDsまたはtsDMARDsを『検討する必要がある』から『追加する必要がある』という文言に変更されました。

●また2016年では推奨8の最後に『最近の臨床ではbDMARDsが選ばれる』という文言が2019年の推奨では削除されております。

→これはJAK阻害薬(tsDMARDs)の長期的有効性や安全性の根拠が出て、bDMARDsと優劣をつける事が出来ないためです。

→bDMARDsの根拠も示され、バイオシミラーが登場し、値段も低下してきているため、推奨文の『検討』から『追加』とより推奨される文言に変更されました。

●一方、MTX治療に失敗した予後不良因子のない患者でbDMARDsまたはtsDMARDsと他のcsDMARDs(+グルココルチコイド)を直接比較した研究はありません。

 

推奨10

●推奨文の前半は変更がありませんが、後半では、『2剤目のTNF阻害薬』の前に『別の作用機序の薬剤』が加えられました。

●これは2剤目のTNF阻害薬よりも別の作用機序の薬剤を使用する方が良いという報告に基づきます。

 ●TNF阻害薬が治療失敗した時に、2剤目のTNF阻害薬を使用するか、他の薬剤にするべきかについてはHead to Head試験はない。

 

推奨11

●この推奨文では文言に『tsDMARDs』が追加されました。

●また推奨レベルが『B』から『A』に変更されています。

●2016年同様、薬剤の中止順番は①グルココルチコイド、②bDMARDsまたはtsDMARDs、③csDMARDsと明確化されております。

●漸減や中止前には必ず、寛解状態が持続していることが条件です。

●bDMARDs漸減前に深い寛解(Boolean基準に基づく)に至っていない事は再燃と相関関係があります。

→この『持続』が3か月か、6か月か、12か月かは研究されていません…

→一部の研究では6か月寛解持続の定義としております。

ちなみに、低疾患活動性状態での薬剤のテーパリングは高い確率で再燃するため、推奨されません

●また、関節の損傷を認める患者では、損傷が悪化するリスクがあるため、CRPなどの炎症反応が陽性の患者や、(低)疾患活動性が持続する患者同様、bDMARDsの中止は慎重に考えるべきである。

●csDMARDsを中止して、bDMARDsまたはtsDMARDsを継続する方法も考えられましたが、ランダム化試験ではcsDMARDsを継続して、bDMARDsまたはtsDMARDsを中止する群と、結果に有意差はありませんでした(Ann Rheum Dis 2019; 78: 746-53.)。費用の面ではbDMARDsまたはtsDMARDsを中止し、csDMARDsを継続する推奨となっております。

●bDMARDsの減量中止による再燃が懸念されるため、完全な中止よりも投与量を減らしたり、投与間隔を延ばしたりすることを好む医師もおります。確かにbDMARDsの漸減、中止により、再燃した場合、関節破壊が進行し、不可逆的な障害につながる可能性があります。しかし、再燃したとしても大多数(>80%)が再投与で有効な結果が得られるとされております。

 

治療のアルゴリズム

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1:早期RAの診断には2010年ACR/EULARの分類基準を用いる

2:MTXは第一選択とすべき。csDMARDsとの併用は副作用が利益を上回るため、第一選択とすべきではない。特にMTX+PSLでは副作用に注意。

3:臨床的寛解はACR/EULARの基準に基づく。寛解が難しければ、低疾患活動性を目指す。6か月時点で目標に到達するようにする。3か月時点で改善が50%未満の場合は治療を変更する。

4:持続的寛解=6か月以上ACR/EULARのIndex-basedまたはBooleanの寛解基準を持続

5:禁忌とリスクを考慮する。

6:最も頻繁な組み合わせはMTX、スルファサラジンとヒドロキシクロロキンを含む。

7:csDMARDsが併用困難の場合、IL-6阻害薬、tsDMARDsが有効。

8:bDMARDsとtsDMARDsの減量や投与間隔の延長は再燃のリスクが少なく、安全に行う事が出来る。中止は再燃のリスクがあるが、同薬の再開で再寛解が望める。

9:JAK阻害薬不応後のbDMARDsの効果と安全性は分かっていない。同様に他の薬剤が不応であった後のIL-6阻害薬の効果と安全性は分かっていない。JAK阻害薬が不応であった後の他のJAK阻害薬の効果と安全性は分かっていない。

 

これからの課題

最後にこれからの課題について載せておきます。

 

●RAを発症するリスクが高いpre RA患者の特定の治療を推奨する十分なデータがない。

●アバタセプト、トシリズマブ、リツキシマブまたはJAK阻害薬が無効であったときに、TNF阻害薬が有効で安全かは分かっていない。

●他の非TNF阻害薬、bDMARDs、tsDMARDsが無効であったときに、アバタセプト、トシリズマブ、リツキシマブが有効で安全かは分かっていない。

●IL-6阻害薬/JAK阻害薬が無効であったとき、別のIL-6阻害薬が有効で安全かは分かっていない。

●JAK阻害薬が無効であったとき、別のJAK阻害薬が有効で安全かは分かっていない。

●JAK阻害薬とTNF阻害薬などのbDMARDsの併用が有効で安全かは分かっていない。

予後不良因子の有無に基づいてbDMARDs/tsDMARDsを開始するかどうかリスクを層別化する事で、両群の予後が改善されるかは分かっていない。

予後不良因子がない患者ではbDMARDsの追加同様、csDMARDsへの切り替えまたは追加する事が良いかは分かっていない。

●bDMARDs単独療法の漸減が可能かは分かっていない。

●bDMARDsまたはtsDMARDsの漸減に関して、中止後も良好な経過を維持できるように、事前に定義された予測因子に従って設計された無作為比較試験はない。

●bDMARDsまたはtsDMARDsに対する患者の順守がどの程度であり、順守しなかった場合に、効力がない事が説明できるか分かっていない。

●難治性RAはどのように定義し、どのように治療するか分かっていない。

●治療反応を予測し、患者を層別化出来るような新しいバイオマーカを特定できていない。

●生活習慣の特徴や治療歴などで治療決定につながる他の要因は分かっていない。

●JAK阻害薬が安全かは分かっていない。

●JAK阻害薬が起こす血栓塞栓症の分子機構は分かっていない。

●疾患の表現型が治療に影響を与えるか分かっていない。

●bDMARDs/tsDMARDsの使用は併存疾患/多発疾患の改善につながるか分かっていない。

●グルココルチコイドを超低用量(PSL1~3mg)で併用すると、副作用がなく、治療が成功するか分かっていない。

●治療モニタリングは疾患の経過と結果を改善し、薬剤間の切り替えに関する決定を補助するか分かっていない。

●レフルノミドは第一選択としてメトトレキサートと同等か分かっていない。

●複数の薬剤に抵抗性の活動性RA患者に対してJAK阻害薬とbDMARDsのような、より治療が成功する可能性のある組み合わせは分かっていない。

アドヒアランス不良や特定の薬剤の有効性が失われる事は薬剤の二次的な有効性の喪失になるか分かっていない。また後者の場合、効果不十分の原因が何か分かっていない。

→訳が難しかったので、原文を載せます。

 Is secondary loss of efficacy due to non-adherence or a consequence of true loss of efficacy of a given drug and if the latter, what is the reason for this loss of efficacy?

●csDMARDsを漸減できるようになるまでの持続的寛解の期間はどのくらいかは分かっていない。

●Boolean寛解基準は十分に明確に定義されているか分かっていない。

●RAの分類法を改善して治療の決定に導けるか分かっていない。

 

【参考文献】

Smolen JS, et al. Ann Rheum Dis. 2020 Jan 22. pii: annrheumdis-2019-216655. "EULAR recommendations for the management of rheumatoid arthritis with synthetic and biological disease-modifying antirheumatic drugs: 2019 update."