健常者で見られやすい抗核抗体~抗DFS70抗体~
血液検査で偶然『抗核抗体が陽性』になる事はしばしばありますよね。
専門外来でもこのようなご紹介を受ける事がしばしばあります。
『抗核抗体』は『自己免疫疾の太鼓判』というイメージがあるかと思いますが、
無症状の場合、抗核抗体陽性のみでは、自己免疫疾患の可能性は高くありません。
健常人でも一定の割合で陽性になる上に、健常者の方がより陽性になりやすい自己抗体がある事も知られて来ています。
本日は『健常人で陽性になりやすい自己抗体~抗DFS70抗体~』という内容でお送りしたいと思います。
- 健常人で見られる抗核抗体の陽性率は?
- 抗核抗体の測定方法
- 健常者に見られやすいDFSパターンとは!?
- DFSパターンを見たときにどう考えるか?
- 抗DFS70抗体はどんな場合に陽性となるの?
- 抗DFS70抗体にまつわるあれこれ
まず健常人でどのくらいの方が抗核抗体が陽性になるかについて以下にお示しします。
健常人で見られる抗核抗体の陽性率は?
これは、以前に別のページでもまとめましたが、健常者の抗核抗体の希釈倍率毎の陽性率について調べた有名な論文(1)によりますと、抗核抗体の陽性率は以下と通りです。
健常人での抗核抗体の陽性率
40倍希釈で31.7%
80倍希釈で13.3%
160倍希釈で5.0%
320倍希釈で3.3%
ここで言う倍率は、検査結果で帰って来る『抗核抗体〇〇倍』の〇〇の部分です。全身性エリテマトーデスの分類基準では80倍以上を有意と取っていますが、この結果からは、13%の健常者が80倍になる事が分かりますね。
もう少し勉強したいという方は、こちらをどうぞ!!
さて、抗核抗体の結果で大事なことは何倍か、だけでなく、そのパターンがどんなものかも重要です。また、抗核抗体は細胞の核内の様々な物質に対する自己抗体の総称である事も理解する必要があります。
次の項では抗核抗体の測定方法についてご説明します。
抗核抗体の測定方法
まず、抗核抗体の測定方法には、大きく2つある事に注意してください。
①間接蛍光抗体法(FA法)
この中で、抗核抗体のパターンが分かるのは①間接蛍光抗体法(FA法)になります。
間接蛍光抗体法の原理
これは患者さんの血清を実験細胞に振りかけ、さらにそれに対する蛍光抗体を振りかけたときに、実際に実験細胞の核や細胞質の物質に対する抗体があれば、光って(=染色されて)見えるという検査になります。
光る(=染色)パターンは、およそ5つ(6つのときもある)に分けられます。
①Homogeneous
②Peripheral(Homogeneousと区別できず、含まれる場合もある)
③Speckled
④Centromere(Discrete speckled)
⑤Nucleolar
(⑥Cytoplasmic)
先ほど、抗核抗体が細胞の核内の様々な物質に対する自己抗体の総称、だと申しましたが、このパターンに対応する疾患に特異的な抗体がある程度分かっています。
もっと少し細かい分類と、対応する自己抗体について勉強したい方は以下の記事もご参考にどうぞ。一番上は専門向け。下二つは一般内科医向けです。
その次のステップが特異的な抗体を②酵素結合免疫吸着法(ELISA)で検出する事です。
さて、この光るパターンの中でリウマチ膠原病患者よりも、健常者で良く見られるパターンがある事が言われてきました。それがDFSパターンです。
健常者に見られやすいDFSパターンとは!?
20年ぐらい前から、間接蛍光抗体法で健常者に見られやすい抗核抗体の染色パターンがある事が注目されて来ましたが、その特徴に則ってDense fine speckled=DFSパターンと名付けられました。
実際には以下のような染色パターンになります。
出典:文献(2)
特徴は、
①間期(細胞増殖していない時期)に核全体が斑点状に光る
→全視野に写る、淡く緑色を呈しているすべての核を指します(黄色丸)。
②斑点の明るさ、サイズ、分布が不均一
→黄色小矢印のように緑色の斑点が大小、明暗様々である事を指します。
→斑点がある所とない所があるのが分布の不均一性です。
③分裂中期に強い光度の斑点が集簇する
→写真で言うと、黄色太矢印を指します。
※これだけがDFSパターンではない事に注意してください!!
では次の写真もDFSパターンでしょうか??
答えは、左がHomogeneousパターンで、右がSpeckledパターンです。
パット見たら、全然区別がつかないですよね…
したがって、慣れていないと、HomogeneousパターンやSpeckledパターンに見間違えてしまう可能性がある事にご注意下さい!!
DFSパターンを呈する抗DFS70抗体とは?
さて、DFSパターンというのがある事は分かりましたが、このパターンに対応する抗体の90%は抗DFS70抗体です(PMID=27350273)。
これは健常者で陽性となりやすく、自己免疫疾患ではむしろ陽性になりにくい自己抗体として有名です。
実はこの抗体は最初にアトピー性皮膚炎患者で発見されてからちょうど20年になります。以下、簡単な歴史になります。
※出典:文献(3)
抗DFS70抗体が認識する抗原とは?
抗DFS70抗体が認識する具体的な抗原には、
75 kDのLens epithelium-derived growth factor(LEDGF/p75)
PC4
SFRS1 Interacting protein 1(PSIP1)
が含まれます。
転写複合体の形成
特定の遺伝子の転写活性化
mRNAスプライシングの調節
DNA修復
ストレスに対する細胞の生存
に重要な役割を果たしています。
さらに基礎を勉強したい方はこちらを論文をお勧めします!!
Greisha L Ortiz-Hernandez, Auto Immun Highlights. 2020 Feb 3; 11 (1): 3.
PMID=32127038
難しい話は置いておいて、抗DFS70抗体が認識する抗原は約70kDの重さのDNAに関連する蛋白質で、DNAは核内に充満しているため、抗DFS70抗体も核全体が染色されるパターン(DFSパターン)となることだけ理解しておけば良いです。
しかし、10%ほどDFSパターンを呈する他の自己抗体も多数あります。例えば、抗ds-DNA抗体は普段はHomogeneousパターンを呈する事で一択ですが、DFSパターンを呈する事もあります。したがって、DFSパターンを呈するから全員が健常者である、と決めつけは出来ません。
DFSパターンを見たときにどう考えるか?
では、間接蛍光抗体法でDFSパターンを見たときどう考えるかについて、アルゴリズムをご紹介します。
出典:文献(2)を参考に筆者作成
抗核抗体の間接蛍光抗体法で、DFSパターンを確実に読影できる技師さんがいるのであれば、アルゴリズムの右側に進みますが、先にお伝えした通り、DFSパターンを呈していても抗DFS70抗体以外の場合もあります。
したがって、良く間違えられるHomogeneous/Speckledパターンを呈する自己抗体を提出する事が重要です。陽性であれば、それぞれに対応する疾患を検索します。
陰性であれば、抗DFS70抗体が陽性である可能性が高いですが、現時点で商業ベースで抗DFS70抗体を測定する事はできませんので、『おそらくはそうであろう』として、自己免疫疾患の可能性を下げても良いと思います。
抗DFS70抗体はどんな場合に陽性となるの?
健常者での陽性率
健常者では、コホートによる違いはありますが、0-22%で抗DFS70抗体が陽性となる事が知られています(PMID=27350273)。
一方で抗核抗体が陽性の健常者では、24–54%で抗DFS70抗体が陽性になると言われています。
全身性自己免疫性リウマチ性疾患における陽性率
出典:文献(4)
上記より、全身性自己免疫性リウマチ性疾患では陽性率が高くないように思います。
その他の炎症性疾患における陽性率
出典:文献(4)
こうしてみると、皮膚や眼の炎症性疾患では陽性になる確率が高い事が分かります。
自己免疫性リウマチ性疾患を除いて様々な疾患で陽性になる事が知られていますが、これらの疾患は比較的臨床症状から分かりやすいかと思います。
したがって、臨床症状がない場合に抗DFS70抗体が陽性の場合(DFSパターンで他の抗体が陰性の場合)は、やはり自己免疫性リウマチ性疾患の可能性が低いと言えるでしょう。
ただし、これらの頻度は自己抗体の異なる測定方法が混じっているため、数字は疾患同士で比較は出来ません!!
抗DFS70抗体にまつわるあれこれ
測定方法を見極める!
抗DFS70抗体に関する論文ですが、間接蛍光抗体法(FA法)で測定しているのか、酵素結合免疫吸着法(ELISA)で測定しているか、見極める必要があります。(※厳密に言えば、まだまだ他にも測定方法がありますが、ここでは割愛します)
というのも間接蛍光抗体法(FA法)で測定した場合、あくまでも見た目のパターンであるため、上述した通りDFSパターンの事を指します。
DFSパターンを呈する自己抗体には抗DFS70抗体以外にも他の自己抗体が含まれている可能性があるため、注意が必要です。
一方で酵素結合免疫吸着法(ELISA)は抗DFS70抗体そのものを測定しているので、比較的に特異的と言えます。
抗DFS70抗体が陽性となる患者のプロファイル
ちなみに抗DFS70抗体は女性で陽性になりやすいです(82% vs 18%)が、男性と女性では抗DFS70抗体が陽性の患者のプロファイルが少し異なるようです(PMID=30778125)。
男性で抗DFS70抗体が陽性の場合、他の自己抗体が陽性になる事はありませんが、女性の場合は約半数(51%)で他の自己抗体が陽性になります。
以下に抗DFS70抗体と一緒に陽性になった自己抗体の詳細を記載します。
甲状腺疾患に関連する自己抗体が多いですね。
ENA: extractable nuclear antigen; TPO: thyroid peroxidase; TG, thyroglobulin; tTg, tissue transglutaminase; ASCAs, anti-Saccharomyces cerevisiae antibodies; aCL, anti-cardiolipin.
出典:文献(5)
抗DFS70抗体の自己免疫疾患予防効果
抗DFS抗体は自己免疫疾患を予防する役割があるかもしれないと提唱するグループもいます(PMID=31474007)。
ループス腎炎マウスモデルでも抗DFS70抗体を投与する事で、糸球体腎炎の進展予防と生存期間の延長が得られたという報告もあります(PMID=33175665)。
ただし現時点ではまだ確固たる根拠はなく、今後の動向を見て行く必要性があります。
【参考文献】
(1) E M Tan, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11. "Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals" PMID=9324014
(2) Maria Infantino, et al. Clin Chim Acta. 2020 Nov; 510: 157-159. "Dense fine speckled (DFS) immunofluorescence pattern and anti-DFS70 antibodies: Cleaning up the current concepts" PMID=32645389
(3) Michael Mahler, et al. Expert Rev Clin Immunol. 2019 Mar; 15 (3): 241-250. ”Anti-DFS70 antibodies: an update on our current understanding and their clinical usefulness” PMID=30623687
(4) Karsten Conrad, et al. Clin Rev Allergy Immunol. 2017 Apr; 52 (2): 202-216. "The Clinical Relevance of Anti-DFS70 Autoantibodies" PMID=27350273
(5) Teresa Carbone, et al. Sci Rep. 2019 Feb 18; 9 (1): 2177. "Prevalence and serological profile of anti-DFS70 positive subjects from a routine ANA cohort" PMID=30778125