リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

再発性アフタ性口内炎(Recurrent Aphthous Stomatitis: RAS)

【分類】

・再発性アフタ性口内炎(Recurrent Aphthous Stomatitis:RAS)は口腔粘膜の慢性炎症性疾患 (2)

・頬粘膜、口唇粘膜、舌に後発する(2)

・高度に角化した粘膜(口蓋、歯肉)には稀(2)

・再発性アフタ性口内炎はMinor、Major、ヘルペス状の潰瘍の3つに分類される(1)

・85%以上がMinorで大きさ1㎝未満で瘢痕を伴わない(1)

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・Majorは1㎝以上で数週から数か月持続し、瘢痕を伴い治癒する(1)

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ヘルペス状潰瘍は多発潰瘍の集簇として現れる、あらゆる口腔粘膜に散在する、名前は名前だが、単純ヘルペスウイルスとは関係ない(1)

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《3つのタイプの区別(1)

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・RASの内、Minorは75--90% 、Majorは10-15%、ヘルペス状潰瘍は5-10%(2)

・Minorは非角化粘膜(口唇、頬、舌)、Majorは角化(軟口蓋)+非角化粘膜、ヘルペス状潰瘍は非角化粘膜(舌の腹側)(2)

 

【疫学】

・一般人口の20%が再発性アフタ性口内炎を罹患する(1)

罹患率は5-50%で、民族や経済状況によって変わる(1)

・子供の場合、両心が再発性アフタ性口内炎を罹患している場合は90%に再発性アフタ性口内炎を罹患する(1)

・家族歴は24-46%に認める(2)

・女性(2)、白人(4)非喫煙者(4)でハイリスク

・社会経済的に高位の人に多いため、ストレスが誘因という説もある(1)

・発症年齢は10-19歳がピーク(1)

・30歳台以降に悪化する場合、背景疾患を考慮する(1)

・高齢でRASが減るには自然免疫と獲得免疫が低下するため(2)

・高齢者では好中球の遊走性と貪食性が低下し、メモリー細胞と比較してナイーブT細胞の割合が低下する(2)

・さらに免疫細胞はさらに異なるサイトカインを産生し、増殖反応が低下、シグナル伝達が欠損、抗原の認識能が低下する(2)

・高齢では末梢でのCD4陽性CD25高値FOXP陽性制御性T細胞が増加することで相対的に自己免疫性疾患の罹患率が減少する(2)

 

【病因】

外傷

・入れ歯やニコチン暴露がRASに関係するわけではない(1)

感染症

・ウイルスでは単純ヘルペスウイルスは実はあまり関係ない(1)

・むしろ水痘帯状疱疹ウイルスやサイトメガロウイルスが関係する(1)

・ピロリ菌は除菌によりVitB12値があがり、アフタの改善に関連するかも(1)

・連鎖球菌は特にStreptococcus sanguis 2AがRASに関連するかも(1)

Streptococcus orarisも(2)

栄養

・VitB12欠乏が代表的だが、補充して効果があったのは一部という報告と、血清の濃度に関わらず補充によって効果を認めたという報告あり(2)

亜鉛に関しても同様、補充が有効かはわかっていない

全身疾患

・自己免疫性疾患ではベーチェット病が最も多く、抗Saccharomyces cerevisiae抗体(ASCA)が高力価となる(ただしクローン病の70%、潰瘍性大腸炎の15%にも偽陽性となる)(1)

クローン病の10%にも口腔潰瘍を認め、消化管病変よりも先にでる(1)

・セリアック病の4-40%に再発性アフタ性口内炎を認め、口腔潰瘍は3-61%認める(1)

・AIDS患者ではCD4陽性細胞が100未満であればRASが頻回に起こる(1)

遺伝

・RAS患者で報告されている特異的なHLAとしてはHLA-A2、HLA-B5、HLA-B12、HLA-B44、HLA-B51、HLA-B52、HLA-DR2、HLA-DR7、HLA-DQ(1)

・その他、HLA-A33、HLA-B35、HLA-B81、HLA-DR5(2)

・HLA-B5、HLA-DR4は低い発症率

・IL-1β、IL-2、IL-4、IL-5、IL-6、IL-10、IL-12、IFN-γ、TNF-αの代謝の変化に関わるDNAポリメラーゼの遺伝的変化を認める(2)

セロトニン受容体遺伝子、内皮NOシンターゼ、細胞接着因子に関連するDNAポリメラーゼの役割も考えられている(2)

過敏反応

・特定の食物や口腔内菌(S. Sanguis)、微生物由来のHeat-shock proteinに対する過敏反応を原因と考えられる(1)

・RAS患者の一部には牛乳、チーズ、小麦アレルギーの方がいる(1)

・その他、グルテン、チョコレート、ナッツ、着色料がRASのカスケードを引き起こすと考えられている(2)

・歯磨き粉に含まれるラウリル硫酸ナトリウムの効果の変化がRASの原因とも考えられている(1)

・ラウリル硫酸ナトリウムを含む歯磨き粉では潰瘍の期間や疼痛スコアが高いという報告があるが(3)、含まれない歯磨き粉を使用してもRASを予防できなかったという報告もある(1)

免疫機序

・Minor RASの一部の患者では唾液中のIgAが急性期と回復期に高値となる(1)

・ある報告ではRASの重症度はCD4/CD8比に比例するとのこと、回復期はCD4陽性細胞がRAS部に多く、潰瘍期はCD8陽性細胞が多い(1)

・IL-2、IFNγ、TNFαのmRNAがRAS領域で見られる(1)

 

【鑑別】

・RASと診断する前に再発性の口腔潰瘍の鑑別をする必要がある

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※表の番号は参考文献の論文に対応しています。

※薬剤には天疱瘡やStevens-Jonson症候群、中毒性表皮壊死症を起こすものも含まれますが、上記表では省略しています。全身の皮疹が出る場合にはそれぞれの疾患を起こす原因薬剤をしっかり検索してください。

 

【メカニズム(2)

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・RASではTh2よりもTh1が活性化している(2)

クローン病、セリアック病、PFAPAではTh1が活性化している(2)

・RAS患者ではさらに炎症性サイトカインの発現を抑制するHeat-shock proteinが減少している(2)

・喫煙ではこのHeat-shock proteinが増加しているため、RASになりにくいと考えられている(2)

・RAS患者では細胞傷害性のあるIL-2を分泌するγ/δT細胞数も増加している(2)

・γ/δT細胞数は関節リウマチ、結核、セリアック病、ベーチェット病でも増加している(2)

 

《RAS患者のサイトカインの挙動(2)

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・TNFα、IL-2は増加、IL-10は低下(3)

 

【臨床症状】

・潰瘍病変に2-48時間先行する灼熱感(1)

・頬粘膜と亢口唇粘膜が最も侵されやすい(1)

・瘢痕を形成することなく、10-14日間持続する(1)

ベーチェット病の潰瘍はMajor RASに似る(1)

 

【病理】

・潰瘍形成前は上皮下の炎症性単核細胞と多数のマスト細胞、結合組織の浮腫、好中球の境界への浸潤を認める(1)

・上皮障害は基底層から始まり、上皮層に達する(1)

・潰瘍周辺には赤血球を認める(1)

・有棘層に非特異的に結合した免疫グロブリンや補体を認める(1)

・これらの所見は免疫複合体型血管炎に似る(1)

・RASの発症はT細胞由来の細胞性免疫、TNFαの産生に関連する(1)

・TNFαはToll like receptors(TLRs)の活性化によって産生される(1)

・TLRsには催炎症性と抗炎症性があり、RAS患者では催炎症性TLRsの発現が増加しており、抗炎症性TLRsの発現が減少している(1)

 

【マネジメント】

以下の表は(5)より抜粋編集したものです。

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・ラウリル硫酸ナトリウム含有の歯磨き粉は一応中止する(3)

・局所フッ素化コルチコステロイドを1-2時間毎に有症状部位に塗布する(3)

・全身疾患は原疾患の治療を行う(3)

ビタミンB12の補充(ある報告では1000μg/日、5-6か月)も血中濃度に関わらず有用かもしれない(3)

・コルチコステロイド内服を0.75mg/kg朝1回を1週間、0.25mg/kgを2週間使用し、中止する方法もある(3)

・NEJMでは30-60mgの経口プレドニゾロンを1週間投与する方法がある(4)

・コルヒチン単独処方でも有効であるが、ダプゾンの単独投与は効果なし(3)

・コルヒチンとダプゾンの併用は6割ぐらいの寛解(3)

・テトラサイクリン250mg口腔リンス・内服治療はあまり勧められない(3)

サリドマイドとコルヒチンまたはダプゾンの併用も6割ぐらいの寛解(3)

・ペントキシフィリン400mg1日1回を1か月投与するとTNFα値、好中球の機能、遊走能、貪食能が低下し、6割ぐらいに有効だが、中止すると全例で再発する(3)

・TNFα阻害薬が有効であったが副作用の問題もあり(3)

・経口プレドニゾロンは疼痛緩和と潰瘍治癒に有効(3)

プレドニゾロン(15mg/day)とレバミソール(150mg/day)を毎週連続する3日間併用すると2週間以内に全例が寛解したという報告もある(3)

・モンテルカストもプレドニゾロンに劣るが副作用がなく、長期使用が可能(3)

ベーチェット病のアフタ、性器潰瘍、皮膚病変にはシクロスポリンAが使われる、3-6mg/kg/dayが有効だが中止で再発する(3)

 

【参考文献】

(1) Akintoye SO et al. Dent Clin North Am. 2014 Apr;58(2):281-97. Recurrent aphthous stomatitis.

 (2)Slebioda Z et al. Arch Immunol Ther Exp (Warsz). 2014 Jun;62(3):205-15. Etiopathogenesis of recurrent aphthous stomatitis and the role of immunologic aspects- literature review.

(3)Cui RZ et al. Clin Dermatol. 2016 Jul-Aug;34(4):475-81. Recurrent aphthous stomatitis.

(4)Scully C. N Engl J Med. 2006 Jul 13;355(2):165-72. Clinical practice. Aphthous ulceration.

(5)Edgar NR et al. J Clin Aesthet Dermatol. 2017 Mar;10(3):26-36. Recurrent Aphthous Stomatitis: A Review.

後腹膜線維症

"Idiopathic retroperitoneal fibrosis and its overlap with IgG4-related disease."

Rossi GM et al. Intern Emerg Med. 2017 Apr;12(3):287-299.

 

後腹膜線維症についてまとめてみました。この疾患はほんとに鑑別が難しいです。この論文で特に炎症性大動脈瘤、大動脈周囲炎などの用語の使い分けがよくわかりました。 

 

特発性後腹膜線維症(Idiopathic retroperitoneal fibrosis:IRF)

【疾病分類学

・後腹膜線維症は大動脈、腸骨動脈を包む線維組織で、尿管を包み、閉塞することが特徴的

・大動脈壁(特に外膜)単独を含むこともあるし、他の膜を含むこともある、大動脈拡張を含むこともある

・ここが重要だが、特発性後腹膜線維症、炎症性腹部大動脈瘤、傍大動脈瘤性後腹膜線維症は臨床的には連続する病態であり、慢性大動脈周囲炎にまとめられる

・後腹膜線維症は特発性と二次性に分けられる

・特発性はIgG4関連とIgG4非関連に分けられる

・二次性の鑑別は以下

 

《二次性後腹膜線維症の鑑別》

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※悪性腫瘍にはSarcomaも含まれる

※Erdheim-Chester病は非ランゲルハンス細胞組織球症

 

【疫学】

・年間罹患率は1.3/10万(オランダからの報告)

・平均発症年齢は64歳

・男性優位(男性:女性>3:1)

 

【臨床症状と検査所見】

・閉塞性尿路障害が最も頻度が高い臨床的合併症

・非特異的な症状として倦怠感、食思不振、体重減少などの消耗症状

・他に頻度が高い症状は背部、季肋部、腹痛(便秘を伴うことも)、精巣痛

・精巣静脈が巻き込まれると陰嚢水腫や精巣静脈流が起こる

・稀な症状としては射精障害、勃起障害、頻回の血尿、排尿障害など

・検査所見としては炎症マーカ上昇が一般的だが、発症の指標となる上、寛解と共に低下するが、再発に同期するわけではない

・急性期の炎症マーカが高い場合は症状も強いが、治療への反応性を規定するものではない

 

【腎合併症】

・両側尿管閉塞が起こった場合は急性腎不全を起こし得る

・1/3の患者は水腎症を来さず腎低形成または萎縮を起こし得る

 

【血管合併症】

・特発性後腹膜線維症(IRF)は腎血管を圧迫する可能性がある

・腎静脈が圧迫されれば腎梗塞を起こす(±血栓症)、ゆっくり圧迫されれば側副血行路ができる

・下大静脈圧排症候群、DVT、肺塞栓を起こすことも

新規の高血圧または既存の高血圧が悪化することはIRFを疑うサインで1/3の患者で見られる

・腎動脈圧迫による腎血管性高血圧症は稀

・腹部・胸部大動脈瘤と同時に認めることもある

・腸骨動脈を圧迫して跛行を起こすことは稀

 

【性器と腹部合併症】

・精巣静脈を圧迫すると精巣静脈瘤、陰嚢水腫を起こし、精巣痛を起こすことがある

・便秘も頻回に起こる

・腸管膜、小腸、十二指腸、大腸を含むと重篤な症状を起こしやすい

・稀だが、小腸虚血は重要な合併症の一つ

 

【画像】

超音波

・下位腰椎、仙骨岬前方の低エコー域

 

CT

・大動脈周囲の辺縁不整の境界明瞭な腫瘤

・腎動脈から腸骨動脈まで認める

・より頭側、十二指腸、腎盂、腎を含むことがあるが、この場合、必ず悪性腫瘍を除外する

線維組織のCT吸収値は大体、腸腰筋と同じくらい

・造影した場合、早期には造影効果が強く、晩期には造影効果が乏しい

・その他、水腎症やDVT、腎動脈病変を認めることも

・1/4に線維性腫瘍の近傍に1cm未満のリンパ節腫大を認めることがある

・大動脈や下大静脈の後方のリンパ節がそれらの血管の前方にまで腫脹してきた場合、悪性腫瘍を疑う

 

MRI

・CTよりもガドリニウム造影しなくてもコントラストがはっきりしている

・T1低信号、T2で様々な信号、活動性が高い場合はT2ガドリニウム造影で造影される

寛解になった場合はガドリニウム造影の造影効果は認めなくなる

 

核医学

・活動性を評価できるため、診断にもフォローアップにも有用(CRPよりも有用)

・活動性がない場合は免疫抑制薬の利益は得られない

 

【組織学】

・細胞外マトリックスI型が沈着している

・リンパ球、形質細胞、マクロファージを含む炎症像を認める

・結節性の集積では胚中心のように中心部にB細胞、周辺にCD4陽性T細胞が認めあれる

・好中球や肉芽は稀

・IgG4陽性形質細胞がIgG陽性形質細胞の40%以上の時や、花むしろ構造の線維化、閉塞性静脈炎が併存する時、IgG4関連疾患の組織クライテリアを満たし、IgG4関連疾患と診断出来る

 

【病因】

※以下別の論文(J Am Soc Nephrol 27:1880-1889,2016.)からの抜粋です

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アスベストやたばこなどの環境暴露とHLA II型(HLA-DRB1*03)などの遺伝的要因が関係する

・この特定の遺伝子型が発現していると免疫細胞が自己抗原に対して活性化した状態(antigen-driven)となる

・自己免疫を発症させる自己抗原は特定できていないが、抗原提示細胞がそれらの抗原を大動脈壁内または周囲の後腹膜でCD4陽性T細胞に提示する

・CD4陽性T細胞はIL-6を分泌し、B細胞と線維芽細胞を活性化させる

・CD4陽性T細胞はあらにIL4、IL-10、IL-13などのTh2型サイトカインを分泌し、B細胞を形質細胞に分化させる

・この過程でIgG4優位の形質細胞になる

・リンパ球はeotaxin-1を分泌し、好酸球と肥満細胞が動員される、これらの分泌物がさらに線維芽細胞を活性化させる

・線維芽細胞は活性化すると筋線維芽細胞となり、コラーゲンを分泌する

・これが線維症を起こす機序と考えられている

 

【診断】

・基本的に除外診断(二次性の除外をする)

・閉塞性尿路障害がある場合は積極的に疑い、画像診断(エコー、CT、MRI)を行う

・生検が次に大事だが、常に免疫抑制薬を開始する前に二次性を意識すること

・特に悪性腫瘍と感染症の除外が大事

・筆者はHBVHCVHIV、梅毒、血培、腫瘍マーカを検査していると

・腎周囲の病変がある場合はErdheim-Chester病を強く疑い、骨シンチを行う

 

【関連する疾患】

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・IRFは大きく2つの疾患グループに区別される、線維炎症性疾患と自己免疫介在性疾患

・最も関連するのは橋本病、併存するだけでなく、経過中に25%が発症する

・ANCA関連血管炎、SLE、膜性腎症、関節リウマチ、強直性脊椎炎、乾癬も関連する

・線維炎症性疾患にはRiedel甲状腺炎、硬化性膵炎・胆管炎、硬化性唾液腺炎・涙腺炎、眼窩偽腫瘍、硬化性縦隔炎が含まれ、これらはIgG4関連疾患と定義された

・関連疾患を検索するために、ルーチンでANCA、ANA、補体価、C3、C4、甲状腺自己抗体を測定することを推奨される

 

【治療と予後】

・筆者は一般的にFDG-PETでのSUVを治療の指標としている様子

・治療の第一目標は尿路閉塞の解除

・これに対しては内科的な治療が不成功であったとき、保存療法が困難であったとき、外科的な処置を行う

・尿路閉塞がない場合や軽症の場合、腎機能障害が兄場合、免疫抑制療法が第一選択

・中等度から重度の腎機能障害がある場合は尿管ドレナージが第一選択でその後免疫抑制療法を行う

 

内科的治療

・免疫抑制療法の第一選択はコルチコステロイド0.75-1mg/kg/dayで徐々に6-9か月以内に5-7.5mg/dayに減量し中止する

寛解の基準は水腎症、症状の改善、炎症マーカの正常化、腫瘤の消退

・コルチコステロイドを使用すると第1週目から腫瘤が消退する

ステロイド単独では5-25%に治療失敗あり

・Steroid Sparing drugとしてはミコフェノール酸モフェチル、メトトレキサート、アザチオプリン、シクロホスファミドなどが挙げられるが症例報告レベル

・Steroid Sparing drugが入った場合でも少量のステロイドは継続する

・Steroid Sparing drugの追加でも効果不十分な場合、リツキシマブかトシリズマブを使用するが、効果は不十分

・何もかもが効果ない時、尿管剥離術の適応

・IRFでは70%に再燃あり

・臨床症状、炎症マーカ、エコー、CT、MRI、FDG-PETなどを駆使する

・再燃しても予後は良好、死亡率は3-7%

・一方で1/3にCKDが起こるが、透析または腎移植なが必要な末期腎不全が起こる可能性は稀

 

 

外科的治療

・尿管ステント留置(double J型)を留置することがあるが感染のリスクのため、6か月ごとに交感する

・尿管ステント留置が困難な場合、経皮腎瘻造設術を行う

・経皮腎瘻造設術は尿管ステントよりも感染リスクが高いと言われているが、最近は同等

・両者が失敗したら尿管剥離術を行う

 

【IgG4関連の後腹膜線維症】

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・IgG4関連後腹膜線維症は30-59%

・最初で最も全体的に出現するのは1型自己免疫性膵炎(膵尾部が腫大する)、その他、唾液腺炎、涙腺炎、リンパ節、硬化性胆管炎

・腎、肺、後腹膜病変は稀

 

ちなみにIgG4関連疾患の難病情報センターの診断クライテリアは下記

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※血清IgG4値が高値でも臓器病変がない場合、組織所見が典型的なものでなければ診断してはいけない

 

《IgG4関連と非関連後腹膜線維症の比較》

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・IgG4関連は高齢、男性に多い

・IgG4関連で後腹膜以外の多臓器病変が多い

・IgG4関連でCTで大動脈石灰化が多い

・IgG4関連で抗核抗体が高値で背部や腹部症状が少ない

・IgG4関連で再燃率が高い

レイノー現象

"Raynaud's Phenomenon" 

Wigley FM et al. N Engl J Med. 2016 Aug 11;375(6):556-65.

 

レイノー現象の患者さんをどのようにマネジメントしていますか?上記の論文がかなりまとまっていますのでご紹介します。NEJMは相変わらず図が綺麗です。

時間がある方は本文を、時間がない方は図や表だけでもご覧ください。

 

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A: レイノー現象の虚血相  B: レイノー現象のチアノーゼ相

 

【診断と臨床的特徴】

・有病率は性別、地域、環境、職業によって変わるが、おより3-5%

原発レイノー現象二次性に分けられるが、違いは以下に記載

・二次性レイノー現象の多くに結合組織病、特に強皮症を認める

・ある原発レイノー現象と診断された3029人の内、37.2%に結合組織病を認めたという報告あり

・ACR2013年の強皮症の分類にレイノー現象が含まれており、診断に有用

・最近の報告では40歳以上でレイノー現象を発症した場合、発作頻度が高い場合、爪郭毛細血管異常を認める場合、結合組織病の可能性がある、早期の強皮症の診断にも有用

原発レイノー現象の299人の追跡調査では爪郭毛細血管異常がなく、強皮症の抗体が陰性であれば強皮症になる確率は2%以下

・強皮症様または非特異的爪郭毛細血管異常(血管湾曲、拡張、出血、血管減少)は皮膚筋炎、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、未分化結合組織病、混合性結合組織病にも見られる

原発性と二次性の鑑別にはCapillaroscopyが有用

 

原発レイノー現象の特徴》

・二次性と異なり15-30歳とやや若年で起こる

・母指は罹患しにくい

・二次性の疾患、末梢血管疾患、指端虚血、爪郭毛細血管異常(下記写真)を認めない

原発性の30-50%は一親等にも同じ症状の方がいるが遺伝的感受性は未だに不明

 

※かつては赤沈正常が鑑別として採用されていたが、現在は除外されている

※抗核抗体も40倍程度なら原発性であっても良い

 

[爪郭毛細血管異常] 

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C: 正常, D: 毛細血管ループが拡張

 

《実際のアプローチ》

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【病態】

レイノー現象は手指、足趾、鼻尖部、耳の動脈血流に影響を与える

・上記組織は他の部位と比較して構造的も機能的にも体温調整能が異なることがわかっている

・上記組織では動静脈吻合が発達しており、毛細血管をバイアスする

・動静脈吻合は体温調整には寄与するが、毛細血管が関与する皮膚の栄養には寄与しない

・動静脈吻合は寒冷刺激で収縮し、温暖刺激で拡張する

・血管の収縮は交感神経反射によるもので、寒冷刺激自体が交感神経反射を増幅させる

・動静脈吻合は豊富な交感神経に支配されており、安静時で常温環境でも交感神経により血管が収縮しているが、ストレスや寒冷刺激では交感神経による血管収縮が増加する

・動静脈吻合があると血流が変動するが、毛細血管は通常交感神経による血管収縮の影響を受けない

レイノー現象の患者では手指、足趾、鼻尖部、耳の領域はもともと交感神経刺激が強く、範囲も広い

・寒冷刺激ではより上流の動脈、動静脈吻合、栄養を供給する動脈が収縮する

・栄養動脈は通常寒冷刺激誘発の交感神経性血管収縮から守られているが、原発レイノー現象ではそれがやや障害されており、強皮症などの二次性レイノー現象ではその障害が重篤(二次性レイノー現象では血管内皮細胞の機能障害があるため)

・血管内皮細胞の機能障害があると血管拡張機能、NO、プロスタサイクリンが減少し、血栓や炎症反応が増加、血管収縮作用のあるエンドセリン-1産生が増加する

・栄養血管の血流は上流動脈の内皮細胞の活動に伴う血管拡張により保証されるが、強皮症患者ではこれが制限されているため、栄養血流が足りずに指尖部潰瘍をきたす

レイノー現象は血管平滑筋のα2アドレナリン受容体活性化により仲介される

・α2アドレナリン受容体による血管収縮は寒冷刺激で増強する

レイノー現象の発作時の蒼白は動脈や動静脈吻合の強い収縮と静脈流による

・青色変化や赤色変化は動脈、静脈、動静脈吻合のバラバラな血管運動によって起こる

 

【一般的なマネジメント】

・症状が軽い場合は寒冷刺激やストレスを回避することで避けられる

・443人のレイノー現象の調査報告では64%が自身の発作をコントロール出来ていない、16%しか内服薬が有効であると信じていない

QOLの低下は二次性レイノー現象で強い

・バイオフィードバック、針灸、レーザー治療、漢方などのエビデンスは乏しい

・原疾患に関わらず、寒冷刺激を避けることが全レイノー現象の治療において最も有効

・全身と局所を温めることが皮膚血流増加に効果的

・全身の加温は重ね着、手袋、帽子など

・急激な温度変化を避ける(エアコンの効いた場所に急に移動するなど)

・手袋やお湯の中で手を擦ったりすることは発作の予防に加えて素早い回復にも効果的

・典型的な発作は復温後、15-20分で改善する

 ・効果的な教育と明快な説明は不安を減らし、重症度を緩和させる

・喫煙や交感神経作動薬、ADHD治療薬、片頭痛治療薬などの悪化因子を避ける

エストロゲン、カフェイン、非選択的β遮断薬などは悪化因子と考えられているが避けるべき明確なエビデンスはない

 

【薬物治療へのアプローチ】

・寒冷刺激とストレスを避けることがレイノー現象で最も重要

原発性はこれで大部分が治療できる、二次性でも重要な要因

・非薬物療法が効果なかった時に薬物療法を開始する

薬物療法原発性でも二次性でも質の高いエビデンスが乏しいのが現状

・二次性ではカルシウム拮抗薬やプロスタサイクリンアナログを使用するが確固たるエビデンスはない

・実臨床では性持続ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の単剤を副作用が出ない極量まで増量する

・361人のメタ解析ではレイノー現象の発作を2.8-5回/週減少させたという報告あり

・コクランレビューではカルシウム拮抗薬は原発レイノー現象の発作減少効果は小さいことを報告(1.72回/週)

・カルシウム拮抗薬は二次性レイノー現象には中等度の効果があるようである

・カルシウム拮抗薬が高価不十分または副作用のため継続困難な場合はPDE-5阻害薬、局所硝酸薬を単剤またはカルシウム拮抗薬と併用する

SSRIARBもある程度エビデンスがある様子

・あるOpen label crossover研究では6週間のSSRI(フルオキセチン20mg)とカルシウム拮抗薬(ニフェジピン40mg)治療では原発性、二次性ともにフルオキセチンが勝ったという

ARB(ロサルタン50mg)とニフェジピン40mgを15週間比較した研究では原発性、二次性ともにARBの方が重症度が低く、発作頻度も少なかった

・その他、プラゾシン(α1アドレナリン受容体拮抗薬)やペントキシフィリン(キサンチン誘導体)、シロスタゾール(PDE-3阻害薬)、Nアセチルシステイン(抗酸化物質)などが選択肢として挙げられる

・治療抵抗性のレイノー現象の最も一般的治療は血管拡張薬を増強または模倣し、内皮細胞由来の一酸化窒素の活動性を保護すること

・経皮硝酸薬(パッチ、クリーム、ゲル、軟膏)が原発性、二次性レイノー現象の発作頻度、重症度を減らす、ただし長期の有効性は不明

・一酸化窒素はグアニル酸シクラーゼを刺激し、cGMPを増加させることによって血管拡張を起こし、PDE酵素によって分解させる

・PDE阻害薬はレイノー現象の発作頻度、重症度を減少させる

・カルシウム拮抗薬が無効の場合、PDE阻害薬を追加するか変更する

・プロスタサイクリンは血管収縮、血栓形成、炎症、血管のリモデリングを抑え、内皮細胞由来の一酸化窒素の放出を刺激する

・二次性レイノー現象でプロスタサイクリンアナログの点滴が発作頻度や重症度を減らし、手指虚血潰瘍の予防や治癒を促進する

・経口プロスタサイクリンは肺高血圧症には有効だが、レイノー現象にはエビデンス不足

・致命的な虚血や治療抵抗性の手指潰瘍、血管拡張薬による血流増加がすぐに得られない時、手指の交感神経切断術(近位の胸郭ではなく)が行われる

・重症の手指虚血と大血管疾患が併存する際、閉塞性大血管疾患の治療は重症の二次性レイノー現象の治療の選択肢となり得る

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【新しい選択肢】

・栄養血流を保つことが二次性レイノー現象で重要

・上流の動脈の拡張によって動静脈吻合が拡張すると発作は減るが栄養血流は増えない

・これは内皮細胞が障害されており、微小血管の栄養血流が寒冷刺激の際に重度に制限される強皮症で特に重要

・進行期の強皮症では血管は自己調整能を欠いた管の様

・このような状態で血管拡張薬を使用すると栄養血流はさらに減少するため、注意が必要

・血管拡張だけでなく、収縮抑制、炎症抑制、血栓予防が必要

 

エンドセリン-1阻害薬

・エンドセリン-1は強力な血管収縮、炎症誘発、線維促進物質

・血管内皮細胞でのエンドセリン-1産生は原発レイノー現象では見られないが、強皮症患者では亢進している、さらに表在微小血管に優位である

・これはエンドセリンが強皮症患者において栄養血管に病理学的な役割を果たしていることを示す

・エンドセリン-1ETA/ETB受容体拮抗薬(ボセンタン)は発作頻度は減少させなかったが、新規の手指潰瘍を予防する

・エンドセリン-1が強皮症患者で栄養血流減少に関連

・エンドセリン-1阻害薬はヨーロッパでは手指潰瘍がある場合は推奨されるがレイノー症候群単独では推奨されない

・なお、他のエンドセリン-1阻害薬(macitentan)は潰瘍予防効果はなく、選択的ETA阻害薬(ambrisentan)は手指の血流を増やさなかった

 

スタチン

・スタチンはLDLを減少させることと別に血管保護作用を有する

・スタチンはさらに他の血管疾患の血管内皮細胞障害を回復させ、一酸化窒素の産生を増加させ、エンドセリン-1の産生を減少させる

・スタチンは二次性を含むレイノー現象で有効な治療効果が期待される

・発作頻度、潰瘍の数、新規潰瘍形成を減少させ、機能を回復させる研究あり

・スタチンの直接的血管保護作用はRhoやRhoキナーゼシグナリングを抑制することで発揮される

・このシグナリングは一酸化窒素の活性の低下、寒冷によるα2アドレナリン受容体活性の増強を含む血管内皮細胞の障害に寄与する

・先行研究ではRhoキナーゼ阻害薬は寒冷刺激後の皮膚温度の回復には寄与しなかったが、健常者では寒冷による血管収縮の抑制効果を示した

 

可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬

・可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬はcGMP上昇させ、一酸化窒素とは別に血管拡張をさせるが、レイノー現象では研究段階

 

α2アドレナリン受容体遮断

・寒冷刺激による皮膚血管収縮は寒冷感受性α2受容体によって仲介される

・二次性レイノー現象では内皮細胞メディエーター活性によってこれが増強されるため、交感神経の抑制が微小血管収縮に有効かもしれない

・しかし中枢/末梢の節前寒冷感受性α2アドレナリン受容体の遮断は交感神経性血管収縮を引き起こしてしまった

・最近の研究ではα2cアドレナリン受容体をターゲットにしたが失敗だった

・ボツリヌス毒素が交感神経活動を抑制するという限られた研究がある

 

抗血小板薬・抗凝固薬

アスピリン、ジピリダモールなどの抗血小板薬、抗凝固薬が使用されてきたが、有効性は確かめられていない

・しかし血栓リスクがある二次性レイノー現象ではしばしば使用される

・過凝固状態でない場合に長期の抗凝固薬の使用は推奨されない

・しかし小規模のプラセボ比較試験では低分子ヘパリンを使用した重症レイノー現象患者で4週と20週で重症度が低下したという

 

抗炎症薬・免疫抑制薬

・血管炎などに使用される抗炎症薬・免疫抑制薬がレイノー現象にも高価があるかは不明

着色尿

"Abnormal Urine Color" 

Aycock RD et al. South Med J. 2012 Jan;105(1):43-7.

 

入院患者でしばしば相談される着色尿のReviewを読みました。

患者さんも看護師さんも驚かれることが多いので、原因がわかるものに関しては是非お伝えして安心させてあげたいですね。薬剤による着色尿は幸いにしてほとんどの場合、無害のようです。

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下線がひかれた薬品は"Pharmacy Press 薬局新聞 2013年7月号"の記載から追加したものです。

疥癬UpToDate

UpToDate"Scabies: Epidemiology, clinical features, and diagnosis" Last updated: Mar 22, 2018.

 

UpToDate"Scabies: Management" Last updated: Jul 27, 2018.

 

全然リウマチ膠原病ではないですが、高齢患者の病棟管理において必ず問題となるあれ…『疥癬』についてまとめてみました。細胞性免疫不全患者では角化型疥癬になり得るため注意が必要ですね。

 

【まとめ】

疥癬Sarcoptes scabiei.による皮膚感染症

夜間激しい掻痒感を伴う典型的な分布(指間、手首、腋窩、乳輪、会陰部)の皮疹が特徴的

・通常型疥癬と重症型の角化型疥癬に分けられる

・細胞性免疫が低下している場合は角化型疥癬となる

・通常型疥癬は初期感染から3-6週間後に起こる

・感染は接触感染が主で、相手は家族やパートナーが主

・通常型の場合、短い接触では感染しない

・角化型疥癬は長期介護施設、免疫抑制患者で起こる

・診断は虫体、虫卵、排泄物を鏡検で確定

・治療はペルメトリン外用かイベルメクチン内服、角化型疥癬で両者を併用する

 

【疫学】

・世界では1億人が罹患、地域差あり

・有病率は0.2-71%、太平洋地域、ラテンアメリカに多い、貧困地域に多い

・人口密度が高い場合も流行のリスク

・長期介護施設、刑務所で流行する

 

【ライフサイクル】

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S. scabiei var. hominisは白茶色で八本足のダニ

・オスよりメスが大きい(0.4×0.3mm)

・交配後、メスは蛋白分解酵素を分泌しながら角化細胞を溶かして行きながら、上皮内に潜伏する

・メスは4-6週間後に死ぬまでに2-3個の卵をその隠れ家に産み付ける

・幼虫は3-4日で孵化して、3回脱皮して成虫になる

・通常型疥癬では虫体量は平均10-15匹だが、角化型疥癬では数100万の虫体量を有する

疥癬虫は平均的な湿度と温度では宿主に34-36時間住み着く

・低温、多湿では生存期間は延長する

 

【伝染】

・家族やパートナーとの長期間の接触感染で伝染する

・短時間の皮膚接触では伝染しにくい

・通常型疥癬では衣類や寝具からの伝染は起こりにくいが、角化型疥癬では起こりやすい

・動物からヒトに感染することは少ない(動物の疥癬は種族が異なる)

 

【臨床症状】

通常型疥癬

・特徴的な症状は夜間に悪化する重篤な掻痒症で虫体や虫卵、排泄物に対する遅発型過敏症による

・症状は初期感染から3-6週間後に起こる

・しかし、以前に感染した既往がある場合は1-3日以内に症状が起こる(既に感作されているため)

・典型的な皮疹は多発性小紅斑性丘疹、しばしば皮が擦りむける

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疥癬トンネルは2-15mmで細く、灰色、赤色、茶色の蛇行した線
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・皮疹は1か所以上に起こる、1か所に留まることは少ない

 

《典型的な皮疹の部位》

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指の横や指間、手関節の屈側、肘伸側、腋窩、乳輪周囲(特に女性)、臍周囲、腰、男性の会陰部(陰茎、亀頭、陰嚢)、膝伸側、肛門周囲の臀部と近接した大腿、足の側後方

・背部は比較的罹患しない、頭部は小児を除いて起こらない

・小児ではしばしば手掌と指のあらゆる側面に皮疹を生じる

・小児ではしばしば成人よりも炎症が強く、小胞や水疱を形成しやすい

・結節状疥癬は稀だが、祖型、会陰部、臀部、腋窩が好発部位

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・結節は先行または最近の疥癬感染に対する過敏反応を示す

 

角化型疥癬

・細胞性免疫が低下している場合に起こり得る(AIDS、HTLV-1感染、らい病、リンパ腫)

・高齢者とダウン症の患者、長期介護施設入所者、コルチコステロイド使用者にも起こりやすい

・あらゆる部位が侵されるが頭皮と手、足は特に感受性が高い

・治療しない場合は全身に広がる

・爪は肥厚し、変色する

・掻痒は最少またはないことがある

 

【合併症】

・二次性のブドウ球菌や連鎖球菌感染症(膿痂疹、膿瘡、爪周囲炎、フルンケル症)が起こるとしばしば通常型疥癬を複雑にする

・角化型疥癬だと全身の菌血症を起こす可能性あり

・連鎖球菌感染症は糸球体腎炎などを起こし得る

疥癬のSMSB4という補体抑制物質が二次性連鎖球菌感染症を引き起こす可能性があると

 

【組織病理学】

・表皮の海綿状変化、好酸球、リンパ球、組織球の浸潤

・角化型疥癬では角質層の著明な肥厚を認める

疥癬の虫体、虫卵、排泄物が角化型疥癬の生検検体で見られることがある

 

【診断】

疥癬の虫体、虫卵、排泄物を鏡検で見つけることが第一だが、通常型疥癬では検出率が低い可能性がある

・上記が見られなくても病歴と身体所見で診断することもある

 

病歴と身体所見

※以下の1つ以上を認める場合は通常型疥癬を疑う

①皮膚変化と釣り合わない、広範囲の掻痒感、夜間に悪化、頭部は除く(小児や乳児はあっても良い)

②特徴的な分布(上記)

③同じ症状の方がいる

 

※以下を認める場合は角化型疥癬を疑う

①肥厚した表面が荒い亀裂局面

②高齢者、免疫抑制患者

 

疥癬トンネルはしばしば身体所見で見られないこともあるが、見られたら、より診断に有意

・鏡検の感度は46-90%、特異度は100%

 

方法

・複数個所で皮疹(特に疥癬トンネル部)を擦過してプレパレートに乗せる

・麻酔は不要

・十分な表皮が取れるように勢いよくメスの刃で擦過する(出血させる必要はない)

ミネラルオイルを少量擦過部位につけておくと虫体や虫卵が取りやすい

・削り取った表皮にKOHを滴下し、角化細胞を融解させる

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上記のような虫体と虫卵が見られたら診断確定

 

【鑑別診断】

通常型疥癬の鑑別

アトピー性皮膚炎

接触性皮膚炎

・貨幣状湿疹

節足動物咬傷

・疱疹(ヘルペス)状皮膚炎:グルテン過敏に関連

・類天疱瘡

・肢端膿疱症(乳児)

・ランゲルハンス組織球症

 

角化型疥癬の鑑別

・乾癬

脂漏性皮膚炎

ダリエ

・掌蹠角化症

 

【治療】

通常型疥癬

ペルメトリン

・局所合成ピレスロイド

・ダニの電位依存性ナトリウムチャネルを阻害し、神経伝達を阻害する

・治癒率は90%以上

ペルメトリンクリームを全身に塗布する(30g程度必要)

・小児では頭部も好発部位であるため、塗布する

・8-14時間後にシャワーで洗い流す

・1-2週間後に2回目の塗布を行う(1週か2週かは不明確)

・副作用は皮膚の不快感のみ

・妊婦、授乳婦、小児に推奨される

 

[イベルメクチン]

・安価で内服薬なので簡便

・妊婦や授乳婦、体重が15㎏未満の小児には推奨されない

・200μg/kgを1回、1-2週間後に2回目を内服

・単回投与で治癒率は79%程度

 

角化型疥癬

・角化型疥癬ではペルメトリン外用とイベルメクチン内服を併用する

・5%ペルメトリンを7日間、その後完治するまで週に2回

・イベルメクチン200μg/kgを1,2,8,9,15日目に内服

・重症の場合はさらに22,29日目にも追加内服する

 

接触と環境】

・濃厚接触者は通常型疥癬と同じ治療を行う

疥癬虫は宿主から2-3日離れると生存できないため、環境や道具の接触感染に関しては数日前からの対策で良い

・衣類やリネンは最低3日間プラスチックバッグに入れるか、お湯で洗い、アイロンがけするかホットドライヤーで乾燥させる

・患者に接触する場合は疥癬が治療され、鏡検で消失するまで接触感染対策を行う

・症状は6週間遅れることがあるため、6週間以内に感染患者に濃厚接触した接触者に対して治療を行う

 

【復帰】

・感染者は最初の治療後、社会復帰が可能

 

免疫抑制患者へのワクチン接種

Immunology: Prevention of infections in patients with autoimmune diseases.

Meyer-Olson D et al. Nat Rev Rheumatol. 2011 Apr; 7(4): 198-200.

 

多くの自己免疫性炎症性リウマチ性疾患(AIRDs)において、最も多く見られる死因は感染症であるため、適切なワクチン接種が重要です。上記論文はEULAR2011年のワクチンに対する勧告をまとめたものです。

 

ちなみにEULAR 2019のワクチン接種に関するRecommendationsはこちら。

 

【推奨されるマネジメント】

・患者のワクチン接種状況を聴取する

・肺炎球菌ワクチン、未接種のワクチン、リスクに応じた特異的なワクチン接種の推奨と実施をする

・B細胞抑制療法(リツキシマブ)を始める前にワクチン接種を行う

 

【推奨されないワクチン】

・免疫抑制患者への生ワクチン(ポリオ、腸チフス、黄熱)

・BCGワクチン

 

【一般的に推奨されるワクチン】

・毎年のインフルエンザワクチン

・23価多糖体肺炎球菌ワクチン

 

【特異的なサブグループの患者に推奨されるワクチン】

・過度な免疫抑制でない患者への水痘帯状疱疹ワクチン

 (下記『水痘帯状疱疹ワクチンを接種できる患者(専門家意見)』参照)

・25歳までのSLE女性へのHPVワクチン

・無脾症、脾機能低下患者へのインフルエンザ桿菌、髄膜炎菌ワクチン

・リスクがある患者(流行地への旅行歴、感染者への接触)のA型肝炎B型肝炎ワクチン

・24週以内にリツキシマブ治療しており、大きい外傷または汚染された創部を持つ患者の破傷風免疫グロブリン(EULAR推奨原文では破傷風ワクチンは免疫抑制患者全例で推奨されている)

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以下にEULAR2011年の推奨原文を載せます。

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EULAR recommendations for vaccination in adult patients with autoimmune inflammatory rheumatic diseases.

van Assen S et al. Ann Rheum Dis. 2011 Mar;70(3):414-22.

 

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最初の論文に追加すべき情報としては

・DMARDs、TNFα阻害薬使用中でもワクチン接種は出来るが、理想的にはB細胞除去療法(リツキシマブ)前にワクチン接種は済ませる

渡航を考えている自己免疫性炎症性リウマチ性疾患患者は旅行先の感染症流行に則ってワクチン接種をすべきであるが、生ワクチンは禁止

ということ 

 

以下は特筆すべき項目についてまとめたものです。

 

《治療開始前にチェックすべきワクチン接種歴》

※自己免疫性炎症性リウマチ性疾患全例でチェックすべき

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帯状疱疹

・RA自体が帯状疱疹のリスクであり、コルチコステロイド、TNFα阻害薬、DMARDs(シクロホスファミド、アザチオプリン、レフルノミド)を使用しているとさらにリスクが上がる

・リツキシマブを使用しているSLEは帯状疱疹のリスクが上がる

・SLEの活動性はそれ自体帯状疱疹のリスクではない 

 

《水痘帯状疱疹ワクチンを接種できる患者(専門家意見)》

・コルチコステロイドの投与が14日以内

・コルチコステロイドの投与が20mg/日以内

・関節内、滑液包、腱へのコルチコステロイド注射

・長期間の低または中等量のコルチコステロイドを隔日投与している患者

・MTX0.4mg/kg/week

・Azathioprine<3.0mg/kg/day

 

結核

結核はリウマチ膠原病疾患、特にDMARDs、コルチコステロイドを使用している場合、TNFα阻害薬を使用している場合は発症率が上昇する

・BCGワクチンはTBの発症予防に効果があるか不明

・免疫抑制患者ではBCGによる結核発症のリスクあり

 

《ワクチンの効果減弱について》
・SLEでアザチオプリンを使用している患者ではインフルエンザワクチンの効果が落ちる報告あり(Ann Rheum Dis 2006;65:913-8.)(Rheumatology(Oxford) 2007;46:608-11.)

・TNFα阻害薬とMTXの併用では肺炎球菌ワクチンへの反応性が低下する報告あり(Rheumatology(Oxford) 2006;45:106-11.)(Rheumatology(Oxford) 2007;46:608-11.)(Vaccine 2008;26:3528-33.)

・リツキシマブ投与1-3か月後のインフルエンザワクチン、投与28週後の肺炎球菌ワクチンの液性免疫は強力に抑制される

・B細胞除去療法(リツキシマブ)を開始する前にワクチンを接種しておくことが望ましい

・6-mercaptopurine<1.5mg/kg/day