リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病徒然日記

リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

眼窩先端症候群という疾患を知っていますか?

 "急性発症の単眼の視力低下"の原因として"巨細胞性動脈炎"が疑われて紹介された患者さんで、蓋を開けてみると、"眼窩先端症候群"だった方がおられました。

 

 眼窩の構造は非常に複雑であるため、理解がなかなか進まないですが、逆に解剖を理解してしまえば、症候も分かりやすいかもしれません。

 

 今回はこの眼窩先端症候群についてまとめてみました。

 

ちなみに急性発症の視力低下の鑑別とアプローチについてはこちらをどうぞ。

 

視神経障害の鑑別についてはこちらをどうぞ。

 

 

眼窩の解剖

f:id:tuneYoshida:20200108224650p:plain

●眼窩の先端には視神経管上眼窩裂下眼窩裂の3つの穴が開いております。

●上眼窩裂の後方には海綿静脈洞が位置します。

 

f:id:tuneYoshida:20200108225841p:plain

●それぞれの穴には上記に示すように動静脈、神経が走行しております。

 

f:id:tuneYoshida:20200108225912p:plain

 

f:id:tuneYoshida:20200108230014p:plain

●さらに、眼窩先端には6つの外眼筋の内、4つの腱が上記の通り総腱輪(Annulus of Zinn)を形成して付着します。

 

眼窩先端症候群の定義と症状

f:id:tuneYoshida:20200108230425p:plain

●眼窩先端症候群は、視神経管上眼窩裂を走行する脳神経が障害される症候群です。

●この中でも総腱輪内の神経(視神経, 上位動眼神経、鼻毛様体神経、下位動眼神経、外転神経)が障害されやすいです。

●主には第II、III、IV、V1(眼神経の分岐神経)、VI神経が障害されるので、これらの症状である、視力障害眼瞼下垂複視顔面痛などが生じます。また、眼窩内圧が上昇するような病態では眼球突出が生じます。

 

眼窩先端症候群の原因

f:id:tuneYoshida:20200109215628p:plain

●原因は多彩です。

腫瘍

原発性神経腫瘍は稀です。

●神経周囲を浸潤する悪性腫瘍の場合、三叉神経が最も障害されます。

●小児では横紋筋肉腫が眼窩裂症候群を引き起こす最も一般的な眼窩腫瘍です。

神経鞘腫は基本的には三叉神経から生じます。

●神経線維腫は25~30%が頭頚部で発生するが、眼窩病変は稀です。

感染

f:id:tuneYoshida:20200109204500p:plain

●眼瞼には眼窩中隔(Orbital septum)と呼ばれる隔壁があるため、これよりも前の感染症が眼窩先端症候群を起こすことはありません。

炎症性

●Tolosa-Hunt症候群の脳神経麻痺は疼痛の発症と一致するか、2週間以内に発症するが、コルチコステロイドを投与すると72時間以内に改善します。

●特発性眼窩炎症は通常片側性で25%は両側性(小児に多い)です。

内分泌

甲状腺眼症はバセドウ病発症5年後に発生します。

血管性

 ●頸動脈海綿静脈洞瘻は外傷性と非外傷性に分けられます。

●非外傷性の代表的な疾患や病態は閉経女性、エーラスダンロス症候群、線維筋性異形成、骨形成不全、弾性線維性仮性黄色腫などです。

●症状は発症から数日~数か月後に発生します。

その他

●類皮腫、類上皮腫は20~30年に頭痛(32%)と痙攣(30%)を起こします。

●嚢胞の破裂により、化学性髄膜炎が起こる事があります(6.9%)。

●粘液嚢胞は壁の滑らかな構造を持つ不透明の空洞病変です。前頭骨(60~65%)、篩骨(25%)、上顎骨(5~10%)、蝶形骨(2~5%)に生じます。

●眼窩内伸展のリスクが最も高いのは後篩骨洞の病変で、蝶形骨洞からは稀です。

 

眼窩先端症候群の類縁疾患

f:id:tuneYoshida:20200109215655p:plain

●上記に示す通り、基本的には3つとも進行性の疾患です。

●特に上眼窩裂症候群は海綿静脈洞症候群、眼窩先端症候群に進展します。

●眼窩先端症候群が海綿静脈洞症候群に進展する場合もあります。

 

眼窩先端症候群の診断アプローチ

f:id:tuneYoshida:20200109214640p:plainf:id:tuneYoshida:20200109214807p:plain

 


【参考文献】

 ●Goyal P, et al. Neuroradiol J. 2018 Apr; 31 (2): 104-125. "Orbital apex disorders: Imaging findings and management."

●Badakere A, et al. Eye Brain. 2019 Dec 12; 11: 63-72. "Orbital Apex Syndrome: A Review.“

●Yeh S, et al. Curr Opin Ophthalmol. 2004 Dec; 15 (6): 490-8."Orbital apex syndrome."

 

視神経障害の鑑別

 報告されている視交叉までの視神経障害の原因をまとめてみました。

 

 うーん、多い…

 

 急性視力低下の鑑別とアプローチはこちら。

 

 

視神経障害の診断

なっと言っても交叉点滅対光反射試験が重要だと思います。

 

まず、対光反射の経路についてです。

f:id:tuneYoshida:20200110150309p:plain

●視覚路と言えば、以下の経路です。

 視神経→視交叉→視索外側膝状体→視放線→一次視覚野

●しかし対光反射の反射弓は少し違います。

 視神経→視交叉→視索(ここまでは視覚と同じ経路)→中脳視蓋前域→両側動眼神経副覚(Edinger-Westphal核)→動眼神経→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋

 

●重要な事は外側膝状体を通らず、中脳の視蓋前域を通過し、一側の視神経からの光源情報が両側動眼神経副核に伝えられる事です。

●これにより、一側の眼に光刺激を入れても、両側で対抗反射が起こるわけです。

 

一側の視神経に異常があると、以下の通りになります。

f:id:tuneYoshida:20200106204223p:plain

(https://eyeguru.org/blog/examining-the-pupil/より引用)

正常

●正常では一側の眼にライトを当てると 対側も縮瞳します。

●すばやく対側にライトを移すと、対側眼の光源刺激により、同じく両側の縮瞳が起こります。

異常

●一側(上記の場合右眼)の視神経に異常があると、正常側にライトを当てると、正常側は縮瞳しますが、障害側でも遠心路(縮瞳させる機能)は正常であるため、縮瞳は起こります。

●しかし、いざ障害側にライトを当てると、視神経障害のため、光が届かず、障害側だけでなく、正常側も縮瞳が起こらなくなります。

 

視神経障害の鑑別

f:id:tuneYoshida:20200110003031p:plain

 

【参考文献】

●O'Neill EC, et al. Nat Rev Neurol. 2010 Apr; 6 (4): 221-36. "The optic nerve head in acquired optic neuropathies."

●Prasad S, et al. Neurologist. 2010 Jan;16 (1): 23-34. "Approach to optic neuropathies: clinical update."

●Petzold A, et al. Nat Rev Neurol. 2014 Aug;10 (8): 447-58. "The investigation of acute optic neuritis: a review and proposed protocol."

急性視力低下~鑑別とアプローチ~

 『急性の視力障害』と聞くと、『すぐに眼科!!』と思うかもしれません。しかし、眼科医の先生がすぐに対応できない病院も少なくなく、その場合は救急や一般内科医の先生が対応せざるを得ません。

 

 実は『視力障害』は問診と一般診察である程度鑑別が出来ます。

 

 今回、筆者も苦手な視力障害についてアプローチしてみたいと思います。いくつかの文献をもとに筆者が独自でまとめたものですので、臨床応用する際にはご注意下さい。むしろ、何か問題点や漏れがある場合は教えて下さい。

 

 ※ここでは急性発症の持続性の視力障害を扱っている事にご注意ください。 

 

こちらもご覧ください。

 

 

Step 1 外傷、白内障術後、異物曝露による角膜炎を除外する

●これらは問診で簡単にわかります。

●外傷であれば、以下の鑑別が挙げられます。

f:id:tuneYoshida:20200106183549p:plain

→眼のどこが障害されているかに関してはStep 3をご覧ください。

●異物曝露の代表はコンタクトレンズ紫外線化学物質です。

白内障の術後はブドウ膜炎角膜浮腫急性緑内障急性黄斑症網膜剥離のリスクが高くなると言われているため、直ちに眼科医に相談します。

 

Step 2 視交叉よりも後ろの病変を除外する

●Step 1で視力障害が起こる特定の条件が除外されたら、次のステップとしては障害部位の特定になります。

●最も簡単に出来る事は『障害部位が視交叉よりも後ろかどうか』を特定する事です。

●これには同名半盲があるかどうかを確認します。

●以下に示すように、視交叉よりも後ろの病変は必ず同名半盲を来します

f:id:tuneYoshida:20200106184234p:plain

●逆に、視力障害が単眼であれば、視交叉よりも前であるとわかります。

 

Step 3 視交叉よりも前の病変を鑑別する

●Step 2では視交叉よりも後ろの病変を除外しました。

視交叉よりも前の病変=単眼性視力障害とお伝えしましたが、視交叉よりも前は解剖学的にかなり複雑であるため、Step 3ではこれを分類して行きます。

 

視交叉よりも前の解剖

f:id:tuneYoshida:20200106202039p:plain

●視交叉よりも前の眼の解剖を上記に示します。かなり複雑な組織であることが分かります。

●これをStep 1の外傷の部分でも示したように、前眼部眼内視神経疾患で分けると分かりやすいと思います。

 

急性単眼性視力障害の鑑別

● この3つの部位の疾患は自覚症状疼痛の有無随伴症状交叉対光反射試験の問診と身体所見である程度分類できます。

f:id:tuneYoshida:20200106203031p:plain

●前眼部であれば、随伴症状である程度分かるかもしれません。

●眼内や網膜は直接見る事に限りますが、自覚症状が特徴的です。

●視神経の障害は交叉対光反射試験(以下)明らかに陽性となります。

●各部位の疾患の鑑別にはさらに疼痛の有無が重要です。

●ある程度鑑別したら、最終的には眼科医による検査が必須となりますが、視神経疾患を疑う場合は眼窩MRI(T2 colonalやGd造影)や視神経炎を起こし得る疾患の鑑別のために血液検査が重要となります。

 

交叉対光反射試験

f:id:tuneYoshida:20200106204223p:plain

(https://eyeguru.org/blog/examining-the-pupil/より引用)

●これは視覚の求心路に異常がないかを見るための身体所見です。

●正常では一側の眼にライトを当てると 対側も縮瞳します。

●すばやく対側にライトを移しても縮瞳は持続したままです。

●一側(上記の場合右眼)の視覚の求心路に異常があると、正常側にライトを当てると、遠心路(縮瞳させる機能)は正常であるため、障害側でも縮瞳します。

●しかし、いざ障害側の眼にライトを当てると、求心路は異常であるため、光に対して障害側の縮瞳が起こらないばかりか、正常側も縮瞳が起こらなくなります。

 

これは対光反射の反射弓を考えるとわかりやすいです。

対光反射の反射弓

f:id:tuneYoshida:20200110150309p:plain

●視覚路と言えば、以下の経路です。

 視神経→視交叉→視索外側膝状体→視放線→一次視覚野

●しかし対光反射の反射弓は少し違います。

 視神経→視交叉→視索(ここまでは視覚と同じ経路)→中脳視蓋前域→両側動眼神経副覚(Edinger-Westphal核)→動眼神経→毛様体神経節→短毛様体神経→瞳孔括約筋

 

●重要な事は外側膝状体を通らず、中脳の視蓋前域を通過し、一側の視神経からの光源情報が両側の動眼神経副核に伝えられる事です。

●これにより、一側の眼に光刺激を入れても、両側で対抗反射が起こるわけです。

まとめ

●Step 1:外傷白内障術後異物曝露による角膜炎を除外する。

●Step 2:視交叉よりも後ろの病変を除外する。

    →視交叉よりも後ろの病変は必ず両側性の視力障害(同名半盲)を呈する。

●Step 3:視交叉よりも前の疾患の鑑別をする。

    →視交叉よりも前の病変は前眼部眼内視神経疾患に分ける。

    →自覚症状疼痛の有無随伴症状交叉対光反射試験で鑑別する。

    →ある程度考えがまとまったら確認は眼科医にお願いする。

    →視神経疾患は眼窩MRI(T2 colonalやGd造影)と鑑別のための血液検査を。

 

※ただし、疾患によっては、早期に眼科医に介入して頂く事が必要なものもあるため、のらりと鑑別に時間を要してはいけません。

 

緊急疾患 

ちなみに急を要する疾患についてはこちら。

f:id:tuneYoshida:20200109223453p:plain


【参考文献】 

●UpToDate "Approach to the adult with acute persistent visual loss" Last update: Nov 30, 2017.

●Prasad S, et al. Neurol Clin Pract. 2012 Mar; 2 (1): 14-23. "Approach to the patient with acute monocular visual loss.“

●Bagheri N, et al. Prim Care. 2015 Sep; 42 (3): 347-61. "Acute Vision Loss."

乳頭浮腫~機序と原因~

乳頭浮腫の発生機序についてあまり理解していなかったので、調べてみました。

解剖がとても大事だとわかりました。

 

こちらもご覧ください。

 

 

 

正常解剖

神経鞘と髄液循環

f:id:tuneYoshida:20200103182338p:plain

●視神経は神経鞘という膜(外鞘と内鞘)に包まれておりますが、実はこの神経鞘は髄膜から連続した構造物なのです。

●視神経鞘は外鞘と内鞘に分けられますが、外鞘硬膜内鞘くも膜、軟膜と、それぞれ連続しています。

●頭蓋内と同様にくも膜と軟膜の間にクモ膜下腔(鞘間隙)が存在し、眼球まで達しております。ここを脳脊髄液が灌流します。

 

※重要な事は頭蓋内と視神経周囲の髄液灌流が連続している事です!!

 

続いて、眼を栄養する動脈についてです。

 

栄養血管

f:id:tuneYoshida:20200103173851p:plain

●視神経の栄養血管は眼動脈から分岐する軟膜血管です。

●視神経乳頭部は眼動脈から分岐した短後毛様体動脈から血流を受けます。

●網膜を栄養する血管には眼動脈の分岐血管である①網膜中心動脈②後毛様体動脈があります。

●網膜中心動脈は眼球の後ろ、15-20mmの所で視神経の下内側1/4から視神経内に入り、網膜の内層を栄養します。

●後毛様体動脈は脈絡膜動脈などを分岐し、網膜の外層を栄養します。

 

黄斑の栄養血管

●黄斑は視神経が最もきめ細かく配置されており、視野の最も解像度の良い部分です。

●黄斑は網膜の中で最も薄い部分でもあり、中心窩を形成します。

●余計な血管があると視野に異常をきたすため、血管の侵入がありません

●その代わり、周囲の網膜血管から物質が浸潤して来ると言われております。

網膜中心動脈閉塞症という疾患の眼底所見で黄斑部だけが赤く見えるCherry Red Spotという所見が有名です。

●これは網膜中心動脈が閉塞することにより、網膜内層全体の血流が低下し、白く見える一方で、脈絡膜血流(外層の血流)は残存しているため、最も層が薄い黄斑部で脈絡膜動脈が透けて赤く見えるためです。黄斑部の血管が豊富であるためではないことに注意してください。

f:id:tuneYoshida:20200103185437p:plain

 

 

乳頭浮腫の機序

f:id:tuneYoshida:20200103171559p:plain

 ●正常の眼圧10-20mmHgと言われておりますが、頭蓋内圧20mmHg以上になると上記のように視神経が圧排されます。

●視神経が圧排されると、中心を走行している網膜中心動静脈が圧排されます。これにより乳頭浮腫を起こすというわけです。

 

乳頭浮腫の原因

f:id:tuneYoshida:20200103192329p:plain

※以下の内容は参考文献の論文から抜粋しております。

●頭蓋内はスペースが限られているため、脳実質髄液血液のいずれかが増えると当該内圧が上昇します。 

●脳腫瘍で60~80%、特に水道周囲に発生するテント下病変では高頻度で乳頭浮腫を起こります。

クモ膜下出血では10~24%に見られ、片側の場合は出血と同側であったという報告があります。

●乳頭浮腫は慢性よりも急性期のクモ膜下出血で多く見られます。

●外傷性頭蓋内出血(例: クモ膜下出血, 硬膜下血腫, 硬膜外血腫, 脳実質内出血)では3.5%のみ乳頭浮腫が見られたという報告があります。

●硬膜外血腫では特に上矢状静脈洞を圧排する場合は、受傷後、数週間経ってから乳頭浮腫が出現する可能性があります。

髄膜炎では2178例の髄膜炎の研究では、2.5%のみ乳頭浮腫を起こしたという報告があります。

●他の髄膜炎よりも梅毒性髄膜炎結核髄膜炎がより乳頭浮腫を来したと言います。

●脊髄病変で乳頭浮腫を来すものは半分以上が上衣細胞腫または神経線維腫です。

●ギランバレー症候群などで乳頭浮腫を来す機序は、髄液中のタンパク質が増加することによって、髄液を回収するクモ膜顆粒が閉塞する事で頭蓋内圧が亢進するためと考えられています。

 

まとめ

●髄膜と視神経鞘は連続しており、視神経周囲にも頭蓋内の髄液が灌流する。

●眼球の後方15-20mmの所で網膜中心動静脈が視神経内に侵入する。

●正常の眼圧10-20mmHgだが、頭蓋内圧20mmHg以上になる視神経が圧排されるようになる。

●視神経が圧排されると中心を走行する網膜中心動静脈も圧排され、乳頭浮腫が起こる。

●頭蓋内圧が亢進する病態は脳実質髄液血液のいずれかが増加した時。

●乳頭浮腫は脳腫瘍で高頻度で見られるが、外傷髄膜炎では意外と少ない。

 

【参考文献】

●Rigi M, et al. Eye Brain. 2015 Aug 17; 7: 47-57. "Papilledema: epidemiology, etiology, and clinical management."

健常者の抗核抗体陽性率

無症状ですが、『抗核抗体陽性』のご紹介をしばしば受けることがあります。

健常者でも抗核抗体が陽性となる事は有名ですが、特に間接蛍光抗体法ではしばしば偽陽性を経験します。

今回は昔から言われている健常者の抗核抗体の陽性率と日本のデータについてお示しします。

 

 

健常者の希釈倍率毎の抗核抗体陽性率について調べた論文で有名なのは、以下の論文(1)です。

 

Tan EM, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11."Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals."

 

これによると、健常者の抗核抗体陽性率は以下と通りです。

 

《健常者の抗核抗体陽性率》

40倍希釈で31.7%

80倍希釈で13.3%

160倍希釈で5.0%

320倍希釈で3.3%

 

健常者でも割と陽性になる事が分かります。

 

さて、この論文は各国(主にはアメリカ(6施設)、ヨーロッパ(5施設)、オーストラリア(2施設)、カナダ(1施設))の研究室から集めた健常者の血清を調べたもので、日本は1施設しか血清を提供しておりません。

 

続いて日本からのデータをお示しします。

以下の論文(2)は、1996年から2000年の間で検診を受けた2181人の血清サンプルを用いて抗核抗体の陽性率を調べた、日本からのビッグデータとなっております。これは検診を受けた人を対象としているので、中には当然膠原病患者も混じっている可能性があります。

 

Hayashi N, et al. Mod Rheumatol. 2008; 18 (2): 153-60. "Prevalence of disease-specific antinuclear antibodies in general population- estimates from annual physical examinations of residents of a small town over a 5-year period."

 

↓早速結果です。

 

《40倍希釈と160倍希釈による抗核抗体の年齢、性別毎の陽性率の違い》

f:id:tuneYoshida:20191229191548p:plain

●抗核抗体の陽性率は40倍希釈で26%160倍希釈で9.5

●男女で比較すると、女性の方が陽性率が有意に高い

 

抗核抗体が陽性となった健常者の内、556人に対して疾患特異的抗体を測定した結果が次の表です。

 

《抗核抗体陽性健常者の疾患特異的抗体陽性率》

f:id:tuneYoshida:20191229192230p:plain

f:id:tuneYoshida:20191229192252p:plain

●■:EIA法以外で陽性

○□:EIA法のみで陽性

 

上の表を要約しますと、

●抗核抗体が陽性となった556人中、100人(18%)に疾患特異的抗体が陽性

●以下に内訳を示す

 -抗U1RNP抗体:11例(女性10例、男性1例)

 -抗SS-A/Ro抗体58例(女性50例、男性8例)

 -抗SS-B/La抗体:5例(女性4例、男性1例)

 -セントロメア抗体30例(女性26例、男性4例)

 -抗ds-DNA抗体:10例(女性6例、男性4例)

●抗Sm抗体、抗Scl-70抗体、抗Jo-1抗体は陰性であった

 

→抗核抗体が陽性となる健常者では抗SS-A抗体セントロメア抗体が陽性となりやすい事が分かります。

 

抗U1RNP抗体、抗SS-A/Ro抗体、抗セントロメア抗体、抗ds-DNA抗体が陽性となった60人に問診と診察をした結果が以下の表になります。 

 

特異的抗体が陽性の健常者で実際にどれくらい疾患が診断出来たかを見ています。

f:id:tuneYoshida:20191229194917p:plain

結果は、

●抗SS-A/Ro抗体陽性40例の内、シェーグレン症候群と診断出来たのは4例(10%)と診断された

●抗セントロメア抗体陽性17例の内、1例がシェーグレン症候群(6%)、1例が限局型全身性強皮症(6%)と診断された

●特異的抗体が陽性となった60例の内、34例(57%)が無症候であった

 

抗核抗体の陽性率には地域性が重要だと考えられます。

よって、日本からのデータは非常に重要です。

この論文の結果は、実に臨床応用ができそうなデータでした。

 

まとめ

●健常者の抗核抗体陽性率は

 40倍希釈で31.7%

 80倍希釈で13.3%

 160倍希釈で5.0%

 320倍希釈で3.3%

女性の方が陽性となりやすい

● 日本のデータでは抗核抗体陽性の内、疾患特異的抗体が陽性となるのは18%

●特に抗SS-A抗体セントロメア抗体が陽性となりやすい

●特異的抗体が陽性となっても57%が無症候性

 

例えば『抗核抗体160倍』で紹介されても、

『5%の健常者で陽性です。特に女性では多いです。抗核抗体が陽性だとしても疾患特異的抗体は2割しか陽性になりませんし、その半分以上は無症状です』と説明できるかもしれません。診察では特にシェーグレン症候群強皮症の身体所見を取るようにしましょう!!

 

【参考文献】

(1) Tan EM, et al. Arthritis Rheum. 1997 Sep; 40 (9): 1601-11."Range of antinuclear antibodies in "healthy" individuals."

(2) Hayashi N, et al. Mod Rheumatol. 2008; 18 (2): 153-60. "Prevalence of disease-specific antinuclear antibodies in general population- estimates from annual physical examinations of residents of a small town over a 5-year period."

【簡易版】抗核抗体の国際分類基準2019

 前回、抗核抗体の国際分類基準について細かくまとめましたが、正直、リウマチ専門医でも、普段見慣れていないと分かりづらいかもしれません。

 

 臨床で忙しい先生方、非リウマチ科医の先生方でも、簡単に理解できるよう表を作成してみました。従来の分類からの変更点についても私見を織り交ぜてまとめたので、ご覧ください。

 

 元はこちらです。


抗体の出現頻度については論文(2)を参考にしました。

 

 

従来の抗核抗体の分類

抗核抗体は従来、

①Homogeneous

②Peripheral(Homogeneousと区別できず、含まれる場合もある)

③Speckled

④Centromere(Discrete speckled)

⑤Nucleolar

の5つに分けられます。

また、厳密にはに対する抗体ではなく、抗細胞質抗体を示す⑥Cytoplasmicも抗核抗体の結果で報告されることがあります。

 

新分類基準の核染色パターン

赤枠は従来の分類、青枠は新規分類、赤字は商業ベースで測定できる項目

f:id:tuneYoshida:20201203195937p:plain



AIH:自己免疫性肝炎、AIM:自己免疫性筋炎、APS:抗リン脂質抗体症候群CD:クローン病CLE:皮膚型エリテマトーデス、DIL:薬剤性ループス、GVHD:移植片対宿主病、HCV:C型肝炎ウイルスJIA:若年性特発性関節炎、LcSSc:限局型全身性強皮症、MCTD:混合性結合組織病、PBC:原発性胆汁性肝硬変、RA:関節リウマチ、SjS:シェーグレン症候群、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症

 

新分類の注意点と従来の分類からの変更点

●従来通り、Homogeneousパターンは抗ds-DNA抗体と、Centromere(Discrete speckled)パターンはセントロメア抗体と一対一対応と考えて良さそうです。

 

●注目点はSpeckledパターンとNucleolarパターンがかなり細分化されており、かつ、多数の自己抗体が両パターンを示す点です。

 

●残念ながら、日本でこの細かい分類が適応されるのは数年後以降であると思われるため(もしかしたら適応されないかもしれませんが)、SpeckledやNrcleolarパターンとなった際には該当する自己抗体を網羅的に提出するのではなく、臨床的に疑わしい疾患に応じた抗体を提出すべきであると考えます。

 

●従来のPeripheralパターンは抗ds-DNA抗体を示しますが、新分類基準ではこのパターンは消失しております。このパターンはもともとHomogeneousパターンと同様に核が均一に染色され、かつ中でも核の辺縁が強く染色されるパターンを示したものでした。しかし、Homogeneousパターンと区別がつきにくく、結局は同じ抗ds-DNA抗体を示すため、おそらくはHomogeneousパターンと統合されたと考えられます。

 

●抗核抗体の染色結果がSpeckledパターンの場合は大まかにはSLE皮膚筋炎シェーグレン症候群の臨床所見を再検索し、Nucleolarパターンの場合は強皮症の臨床所見を再検索すると良いかもしれません。

 

抗トポイソメラーゼI(以前のScl-70)抗体は従来Speckledパターンとして分類されておりましたが、新分類では特徴的な染色から、新たにAC-29TOPOI-likeパターンとしてSpeckledと区別して分類しております。

 

●従来RNAポリメラーゼIII抗体Nucleolarパターンとされておりましたが、実は抗RNAポリメラーゼIII抗体はAC-5Speckled(Coarse speckled)パターンを示します。Nrcleolarパターンを示すのは研究室でしか測定できない抗RNAポリメラーゼI抗体の方ですが、これが存在するときは常に抗RNAポリメラーゼIII抗体が存在するため、商業ベースで測定できる抗RNAポリメラーゼIII抗体をチェックする事が勧められております。ちなみに抗RNAポリメラーゼI抗体はNucleolarパターンの中でもPunctate nucleolarに細かく分類されております。

 

新分類基準の細胞質染色パターン

赤枠は従来の分類、青枠は新規分類、赤字は商業ベースで測定できる項目

f:id:tuneYoshida:20191223175209p:plain

ACV:アシクロビル、ADPN:後天性脱髄性ポリニューロパチー、AH:アルコール性肝疾患、AIH:自己免疫性肝炎、AIM:自己免疫性筋炎、ARS:アミノアシルtRNA合成酵素AZP:アザチオプリン、CH:慢性肝炎、CLL:慢性リンパ性白血病COPD:慢性閉塞性肺疾患CVD:Collagen vascular disease、GB:神経膠芽腫GPA:多発血管炎性肉芽腫症、HCV:C型肝炎ウイルスHD:橋本病、ICA:特発性小脳性運動失調、IDN:炎症性脱髄性ニューロパチー、IFN:インターフェロンIM:伝染性単核球症IMNM:免疫介在性壊死性ミオパチー、IPE:特発性胸水、IPF:特発性肺線維症、JNC:若年性鼻咽頭癌、LC:肝硬変、LcSSc:限局型全身性強皮症、LN:ループス腎炎、MCTD:混合性結合組織病、MMF:ミコフェノール酸モフェチル、M/S:Motor/Sensory、MTX:メトトレキサート、NF:神経線維腫、NPSLE:神経ループス、PBC:原発性胆汁性肝硬変、PCD:腫瘍随伴小脳変性、PM:多発性関節炎、RA:関節リウマチ、RBV:リバビリンSjS:シェーグレン症候群、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症

 

新分類の注意点と従来の分類からの変更点

●細胞質染色(Cytoplasmic)パターンは厳密には核に対する抗体ではなく、細胞質に対する抗体を示唆するため、抗核抗体とは言えません。しかし、抗核抗体の間接蛍光抗体法で細胞質の染色も見られるため、従来から報告されます。

●大きな変更点としてはCytoplasmicパターンが細分化されている点です。

Cytoplasmicパターンを見たら、自己免疫性肝炎原発性胆汁性肝硬変皮膚筋炎・多発性筋炎抗ARS抗体症候群中枢神経ループスが多いので、臨床症状を確認し、該当する抗体を提出するようにしましょう。

●検査会社であるSRLの分類では、抗SS-A抗体もCytoplasmicパターンとされておりますが、新分類ではCytoplasmicパターンではなく、AC-4のFine speckledパターンに含まれております。

 

新分類基準の有糸分裂パターン

f:id:tuneYoshida:20191223225826p:plain

DLE:円板状エリテマトーデス、CLL:慢性リンパ性白血病LcSSc:限局型全身性強皮症、PNH:発作性夜間ヘモグロビン尿症、PMR:リウマチ性多発筋痛症、RA:関節リウマチ、RP:レイノー現象、SjS:シェーグレン症候群、SLE:全身性エリテマトーデス、SSc:全身性強皮症、UCTD:特定できない結合組織病

新分類の注意点

●有糸分裂パターン自体、今まで報告されているのを、見たことがありません。新分類では詳細な分類を報告する事が推奨されております。

●商業ベースで測定できるものがないため、日常診療ではあまり気にしなくても良いかもしれません。

 

【参考文献】

(1) Damoiseaux J, et al. Ann Rheum Dis. 2019 Jul; 78 (7): 879-889. "Clinical relevance of HEp-2 indirect immunofluorescent patterns: the International Consensus on ANA patterns (ICAP) perspective."

(2) Agmon-Levin N, et al. Ann Rheum Dis. 2014 Jan; 73 (1): 17-23. "International recommendations for the assessment of autoantibodies to cellular antigens referred to as anti-nuclear antibodies."