リウマチ膠原病徒然日記

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リウマチ膠原病疾患に関して日々疑問になったことを中心にまとめたものです。

ANCAを測定すべき状況と検査の感度・特異度~2017年国際的コンセンサスステートより~

ANCAの測定方法にはいくつかの方法があり、どの方法を選択すれば良いのか皆さん悩まれるかと思います。また、どのような状況でANCAを測定すべきか悩まれることもあるかもしれません。

 

ANCA関連血管炎以外でANCAが陽性になる疾患は意外と多いので、むやみに提出する事で誤診に繋がってしまうかもしれません。

 

そこで本日は、2017年に改訂されたANCA測定に関する国際的コンセンサスステートをご紹介致します。

 

これは、ヨーロッパの4つの研究所の専門家グループが作成したで、4大陸16人の専門家に、結果を吟味してもらったものです。

 

 

まずANCA測定の歴史についてです。検査が誕生していった歴史を見て行くと、どのように検査の精度が上がっていったか分かると思います。

 

検査が確立していった歴史

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●ANCAは1959年に慢性炎症性疾患患者で最初に発見されましたが、1982年に初めて血管炎(特に糸球体腎炎)と好中球の細胞質成分と反応する自己抗体との関連について明らかになりました。

●その後1985年に間接蛍光抗体法(IIF)によってc-ANCA(細胞質染色パターン)が同定されました。後に対応抗原としてPR3が同定されます(1989年)。

MPOが抗原として同定されたのは1988年でPR3よりも1年早いです。その翌年に間接蛍光抗体法(IIF)でp-ANCA(各周囲染色パターン)と対応されました。

●その後1990年になってから今でも使われているANCA抗体価が分かるELISA法が商業化しました。第1世代のELISAはDirect法というもので、その後、1998年にはCapture法(第2世代)2007年Anchor法(第3世代)が誕生し、どんどん精度が上昇していきました。

●ELSIAだけでなく、間接蛍光抗体法(IIF)2009年BioChip IIF2014年Cytobead IIFと改良がなされ、精度が上がっています。

●IIFやELISA以外にもドット・ラインイムノアッセイ、光酵素免疫アッセイ(FEIA)、Addressable Laser-Based イムノアッセイ、化学発光イムノアッセイ(CLIA)などの測定方法が発展していきました。

●ANCAの病原性については2002年にまずMPO-ANCA、10年遅れて2012年PR3-ANCAの病原性が証明されました。

●2010年にはEULARが分類基準にANCAを含むことを検討しており、2012年のCHCC(Chapel Hill Consensus Conference)で血管炎の命名法にANCAが用いられるようになりました。

●ANCA測定に関しては1999年に国際的なコンセンサス が出されましたが、この度、2017年に改訂されています。

 

間接蛍光抗体法(IIF)とELISA

良く見る測定方法には間接蛍光抗体法(IIF)ELISAがあります。以下に簡単に違いをお示しします。

 

間接蛍光抗体法(IIF)

●間接蛍光抗体法は抗体の蛍光パターンを直接観察する事で、細胞質が染色されるcytoplasmic pattern(c-ANCA)と核周囲が染色されるperinuclear pattern(p-ANCA)とに分ける方法です。

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https://ivd.mbl.co.jp/diagnostics/search/detail/2300.htmlより引用改変

 

 

ELISA

PR3-ANCA and MPO-ANCA detection by antigen-specific assays. The... |  Download Scientific Diagram

Clin Rev Allergy Immunol. 2012 Dec; 43 (3): 211-9.より引用(PMID=22669754)

ELISA抗体価が数字で分かる定量的方法です。

●先に示した通り、第1世代(Direct法)第2世代(Capture法)第3世代(Anchor法)になるにつれて徐々に精度が上昇していきます。

 

 

年代別IIF法とELISA法の精度の推移

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※Hagen:  1998年(PMID=9507222), Damoiseaux: 2017年(PMID=27481830)

●ここでは年代別に2つのコホート研究における間接蛍光抗体法ELISA感度特異度を示しています。

●Hagenらの1999年代はELISAに関してはまだ第2世代(Capture法)しかありませんでした。Damoiseauxらの研究が報告された2017年は第3世代(Anchor法)が登場しています。また、間接蛍光抗体法(IIF)に関しても2009年にBioChip IIF、2014年にCytobead IIFと新しい方法が登場しています。

●これを見ると、特異度に関しては2017年になってから間接蛍光抗体法でもELISAでも上昇している事が分かります。

●新規に診断されたGPAに関しては、間接蛍光抗体法におけるc-ANCA感度は軽度上昇しておりますが、ELISAにおけるPR3-ANCA感度は10以上上昇している事が分かります。

●新規に診断されたMPAに関しては、間接蛍光抗体法におけるp-ANCA感度の大幅な上昇が見られます。またELISAにおけるMPO-ANCA感度も大幅に上昇している事が分かります。

 

※まとめると、時代の変遷に伴い、新たな方法が生み出されてから検査の精度がどんどん良くなってきたことが分かります。

 

では、ELISA法と、間接蛍光抗体法ではどちらが優れた検査でしょうか?

以下にお示しします。

 

ELSIA法と間接蛍光抗体法の精度の比較

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●2016年の多施設EUVUS評価におけるPR3-ANCAとMPO-ANCAのELISA法と、いくつかの間接蛍光抗体法(IIF)のROC曲線の比較が上図です。
●これを見ると、ELISA法は、どの間接蛍光抗体法(IIF)よりROC曲線が左上隅を通っており、感度、特異度が高い事が分かります。(※もちろん両検査毎に患者対象が異なるため、単純比較ができず、この数字も参考値であると考えるべきですが…)

●また、一部の患者ではELISA法はIIFで見逃している抗体を検出する可能性があるのと同時に、その逆もあり得る事に注意が必要です。

 

ANCAの測定についての2017年の推奨事項

推奨のアルゴリズム

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●1999年のコンセンサスでは間接蛍光抗体法とELISA法を組み合わせて検査する方法が理想的で、そうでなくても、まずは間接蛍光抗体法スクリーニングをしてその後にELISA法でPR3-ANCA、MPO-ANCAを測定する事が推奨されてきました。

●しかし、上述した通り、ELISA法が間接蛍光抗体法よりも感度、特異度とも優れている可能性が示されました。そのため、2017年のANCA測定に関する推奨では、ANCA関連血管炎が疑われる患者では、まずはELISA法によりPR3-ANCA、MPO-ANCAを測定し、それらが陰性で、かつ血管炎が疑わしい場合、またはELISA法で低陽性の場合は、他のPR3-ANCA、MPO-ANCAの測定系または間接蛍光抗体法を行う事が推奨されています。

 

詳細な推奨文

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●上記より、まずはELISA、陰性または低値であれば間接蛍光抗体法を含めた他の測定方法を実施することが推奨されています。

ANCAの陽性陰性によってANCA関連血管炎は診断も除外もできない事には注意してください!! 

 

ANCA測定が推奨される患者

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●上記がANCAを推奨されているANCAを測定すべき状況、患者になります。 

 

2020年国際的コンセンサス

●最後に2020年の国際的コンセンサスの推奨文も記載します。ここでは主に他の疾患の患者でANCAを測定する意義について言及されています。

●他疾患ではELISA法によるMPO-ANCAやPR3-ANCAよりも間接蛍光抗体法によるp-ANCA、c-ANCAの検出率が有意の様です。

MPO-ANCAやPR3-ANCAは対応抗原がそれぞれMPO、PR3である1つの抗体を示しますが、c-ANCAやp-ANCAは蛍光のパターンがそれぞれ細胞質パターン、各周囲パターンと、直接観察したものであり、該当する抗原、抗体は多数存在します。研究が進めば、それぞれのパターンに合致する新たな抗体などが見つかるかもしれません。

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ASCA: 抗Saccharomyces cerevisiae抗体, LoA: 一致レベル

スコア1: まったくそう思わない, 2: そう思わない, 3: 未定, 4: そう思う, 5: 非常にそう思う


【参考文献】
 

(1) Xavier Bossuyt, et al. Nat Rev Rheumatol. 2017 Nov; 13 (11): 683-692. "Position paper: Revised 2017 international consensus on testing of ANCAs in granulomatosis with polyangiitis and microscopic polyangiitis" PMID=28905856

(2) Sergey Moiseev, et al. Autoimmun Rev . 2020 Sep; 19 (9): 102618. ”2020 international consensus on ANCA testing beyond systemic vasculitis” PMID=32663621

ANCA関連血管炎以外でANCAが陽性になる疾患

ANCA関連血管炎以外でANCAが陽性になる疾患は以外とたくさんあります。

 

2006年のLancetにもそれまでのANCAが陽性になる疾患のまとめがありました(Lancet
. 2006 Jul 29; 368 (9533): 404-18. PMID=16876669)が、だいぶ前の報告である事と、頻度が書かれていない事が問題点でした。

 

今回はなるべく最近に発表された3つのReview(2016年、2017年、2020年)から、ANCAが陽性になる頻度を重視してまとめてました。何かの参考になれば幸いです。

 

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※注意すべき点は、ANCAのELISA法は、昔よりも検査精度が上がって来ているという事です。ANCAを産生する病態が確立されている疾患を除いて、昔のELISA法でMPO-ANCAやPR3-ANCAが陽性になった頻度が、現在のキットでも同じく陽性になるとは言い切れません。したがって、数字はあくまでも参考であると考えてください!!飛び切り高い頻度でないものに関しては”眉に唾を付けて”お読みになってください!!

 

また、『?』が付くものに関しては頻度がまとめられていないもの、症例報告レベルのものが混在しています。症例報告レベルのものは果たして本当にANCA陽性とその疾患や薬剤が関連するのか疑問が残ります。

 

【参考文献】

(1) Bossuyt X, et al. Nat Rev Rheumatol. 2017 Nov; 13 (11): 683–92. “Revised 2017 international consensus on testing of ANCAs in granulomatosis with polyangiitis and microscopic polyangiitis.” PMID=28905856
(2) Weiner M, et al. Autoimmun Rev. 2016 Oct; 15 (10): 978–82. “The clinical presentation and therapy of diseases related to anti-neutrophil cytoplasmic antibodies (ANCA).” PMID=27481040
(3) Sergey Moiseev, et al. Autoimmun Rev. 2020 Sep; 19 (9): 102618. ”2020 international consensus on ANCA testing beyond systemic vasculitis” PMID=32663621

巨細胞性動脈炎のmimicker

巨細胞性動脈炎の鑑別は難しいですよね…特に大血管型の場合は生検も出来ませんので、画像診断が主かと思います。

 

しばしば原因不明の発熱や高炎症状態で鑑別に上がる巨細胞性動脈炎ですが、その鑑別疾患も多岐に渡ります。

 

鑑別疾患を以下に挙げます(論文1より)。

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しかしこの表はどの疾患が多く、どのくらい考えなければならないという重み付けがなく、いまいち使える気がしません。

 

関節リウマチも鑑別に上がっていますが、本当に鑑別しなければならないの?と疑問に思うかもしれません。

 

つい最近巨細胞性動脈炎のmimickerを調べたコホート研究が発表されました(論文2)。

著者は上記の鑑別疾患を報告した著者と同じ先生で、おそらく同じ様に疑問に思われたのかもしれません。

 

このコホートは、GCA疑いでしたが、側頭動脈生検陰性が陰性で、かつ巨細胞性動脈炎が除外された患者を対象としたコホート研究で、最終診断の結果は以下の通りです。過去の報告も一覧にまとめられています。

 

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これによると、大部分の最終診断は”非特異的な頭痛/非炎症性頭痛”と診断されています(69/195, 35%)。”良くわからない”というのが現実という事なのでしょう。

 

次に多いのは”リウマチ性多発筋痛症”で19%を占めています。GCAでもPMRでもないリウマチ性疾患”はその次で13%を占めています。それぞれの頻度はそれほどでもないのですが、”関節リウマチ”が最も多かったという結果(n=11, 6%)でした。過去の報告でも関節リウマチの頻度が多いようですね…

 

GCAでない血管炎”は6人(3%)しかおらず、そのうち4人(2%)は”ANCA関連血管炎”でした。確かに、巨細胞性動脈炎のような大血管炎かと思ったら、大血管を栄養する微小血管の血管炎だったという事もありました(頻度は高くありません)。

 

10人(5%)を占める”Non-Arteritic Ischemic Optic Neuropathy”は略してNAIONで、非動脈炎性前部虚血性視神経症の事を指します。動脈炎が原因ではなく、高血圧症や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病により、視神経の栄養血管に動脈硬化による血流障害が起こり、片眼もしくは両眼の視力低下、水平半盲、弓状暗点などの視野障害が起こる疾患です。これは重要な鑑別疾患ですね。

 

"不明熱"が9人(5%)を占めていますが、これはどこまで調べて不明熱だったか、正直分かりません。

 

これも詳細は不明ですが、"感染症"は7人(4%)を占めており、過去の報告でもそれなりに鑑別はあるようです。血管炎と決めつける前にしっかり感染症の除外は必要という事でしょうか。梅毒がすぐに思いつくかもしれませんが、血管に感染して動脈瘤を起こす細菌は黄色ブドウ球菌サルモネラ菌大腸菌など色々いますので、早期思考閉鎖にならないように注意しましょう!!

 

"血液疾患"も7人(4%)を占めております。ただこれも何なのかは本文、Supplemental dataにも示されておりませんでした…おそらくはリンパ腫だとは思いますが。上の鑑別ではErdheim-Chester病というもの書かれていますが、極めて稀です。

 

”悪性腫瘍”も頻度が低く6人(3%)でした。中でも脳腫瘍は3人(1.5%)でした。

 

”その他”は今回のコホートでは示されていませんが、過去のコホートでは割と頻度が高い事が分かります。ここに稀な原因が含まれているのかもしれません。

 

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という事で、巨細胞性動脈炎を疑いつつも、生検で陰性だった場合、

”非特異的な頭痛/非炎症性頭痛”

”リウマチ性多発筋痛症”

GCAでもPMRでもないリウマチ性疾患”→特に関節リウマチ

”Non-Arteritic Ischemic Optic Neuropathy”

を考慮します!!

 

稀ですが、

GCAでない血管炎”→特にANCA関連血管炎

"感染症"

"血液疾患"

も考えましょう!!

 

【参考文献】

(1) Matthew J Koster, et al. Rheumatology (Oxford) . 2018 Feb 1;57(suppl_2):ii32-ii42. "Large-vessel giant cell arteritis: diagnosis, monitoring and management" PMID=29982778

(2) Matthew J Koster, et al. Semin Arthritis Rheum . 2020 Jun 17;50(5):923-929. "Giant cell arteritis and its mimics: A comparison of three patient cohorts" PMID=32906026

【永久保存版】メトトレキサートの作用機序~Nature Reviews Rheumatology 2020~

関節リウマチ治療の中心的役割のメトトレキサートについてまとめている論文を和訳しました。メトトレキサート治療に関わる全ての医療者に読んでいただきたい内容です。

 

 

 

薬理学

●メトトレキサートの半減期経口では約6時間非経口でも18時間経過したら、血清では検出されない(PMID=2715941)。

●メトトレキサートの生物学的利用能はでの吸収能に依存しており、単回経口投与によって最大<25mg吸収される(PMID=28012023)。

●メトトレキサートはメトトレキサートと7-ヒドロキシメトトレキサー(主要な代謝物)の両方として尿中に排泄される。

●メトトレキサートモノグルタミン酸(天然型)は細胞内でグルタミン酸を添加されてポリグルタミン酸となる(下図)。メトトレキサート-ポリグルタミン酸は何週間も組織で検出される。

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a: 葉酸とメトトレキサート、アミノプテリンは構造的に似ている事を示しています。

b: 細胞内でメトトレキサート-モノグルタミン酸がフォリルポリグルタメートシンターゼ(FPGS)によって可逆的にポリグルタミン酸に変化します(反対の反応はペプチダーゼγ-グルタミル加水分解酵素(GGH)が担います)。

 

メトトレキサート-ポリグルタミン酸はメトトレキサートの活性型であり、多くの酵素の阻害薬として働く(天然型の効力と異なる)。

5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)トランスフォーマイラーゼ(ATIC)はde noveプリン生合成の最後の段階を触媒するが、メトトレキサート-ポリグルタミン酸の良い阻害対象である。

メトトレキサート-ポリグルタミン酸はメトトレキサート-モノグルタミン酸の2000倍以上強力である。

 ●その他にもメトトレキサート-ポリグルタミン酸葉酸依存性酵素が関与するde novo プリン、ピリミジン合成を阻害する(下図a)。

●またトランスメチル化反応、ポリアミン合成に関与する酵素も阻害する(下図c)。

 

作用機序

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●当初DNAやRNAの合成に必要なプリン、ピリミジンのde novo合成の阻害により悪性腫瘍や非悪性腫瘍細胞の増殖を阻害する目的で作られた。

●以前はアメトプテリンとして知られていたメトトレキサートはアミノプテリンの類似体である。

●両者は1948年にまず白血病やその他の悪性腫瘍の治療目的で最初に高用量で使用され、1951年に初めて関節リウマチにアミノプテリンが化学療法量で使用された。

●アミノプテリンは製造上、困難があり、市場から排除され、メトトレキサートのみが残った。

●1960年代から1970年第にかけて重度の乾癬の治療に低用量のメトトレキサートが使用され、その後、関節リウマチにまで拡大された。

●1980年代半ばにはメトトレキサートは関節リウマチで臨床試験がなされ、1988年にFDAによって認可された。

●経口薬のバイオアベイラビリティが限られているという認識のため、2つの非経口薬(皮下注製剤)が2013年、2014年に開発、承認された。

※日本では1999年にリウマトレックスの名前で認可されました。

 

●メトトレキサートの作用機序としては、プリン、ピリミジンを抑えるメカニズムに加えて(下図a)、アデノシン放出の増強(下図b)、一部の細胞で必要なトランスメチル化反応の抑制(下図c)、ポリアミン蓄積の減少(下図c)、一酸化窒素合成酵素脱共役(下図d)など、様々な作用機序が仮定されている。 

メトトレキサートは好中球、単球、T細胞、B細胞、内皮細胞、線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)など、炎症に関わるほぼすべての細胞の機能を直接的、間接的に調整する。

 

代謝への作用

プリン、ピリミジン合成阻害

●メトトレキサートはDNAやRNAの構成要素であるプリン、ピリミジンのde novo合成に重要な葉酸依存性酵素の経路を標的にしている。

●循環白血球(好中球、リンパ球)と急速な増殖が必要な骨髄中の前駆細胞数の減少は、抗腫瘍薬としてのメトトレキサート量で起こるが、メトトレキサートの副作用として起こる末梢白血球数の減少は、悪性腫瘍で用いられる量の100分の1から1000分の1の用量で起こる。

葉酸フォリン酸の投与はこの毒性を予防できる。

●これらの補充はメトトレキサート服用中の関節リウマチのフレアにつながる事が報告されているが(PMID=1768158)、メタアナリシスではこの関連性はサポートされていない(PMID=3260783)。

葉酸やフォリン酸を同時補給することで末梢白血球数の減少を防いでいる状態でも、メトトレキサートの効果が認められる事を考えると、メトトレキサートの抗炎症効果が細胞増殖の抑制のみを必要とする可能性は低い

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dTMP:デオキシチミジン一リン酸、dUMP:デオキシウリジン一リン酸、FAICAR:ホルミルAICAR、FRβ:葉酸受容体-β、GGH:γ-グルタミル加水分解酵素、PCFT:プロトン結合葉酸トランスポーター、THF:テトラヒドロ葉酸

 

a: メトトレキサートは、還元型葉酸キャリア1(RFC1)を介して細胞に取り込まれ、ホリルポリグルタミン酸合成酵素(FPGS)によってポリグルタミン酸化される。メトトレキサート-ポリグルタミン酸は細胞内に蓄積し、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)、メチレンテトラヒドロ葉酸還元酵素(MTHFR)、チミジル酸合成酵素(TYMS)、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)トランスフォーマイラーゼ(ATIC)によって媒介されるものを含む多くの酵素反応を阻害できる。 それによりプリンとピリミジンの生合成を減少させる。

 

トランスメチル化反応の阻害

スペルミンやスペルミジンなどのポリアミンは、滑膜組織、関節液、単核細胞、関節リウマチ患者の尿に蓄積する

●単球はこれらのポリアミンをアンモニアやH2O2加水分解でき、それらはサイトトキシンとして細胞や関節組織を傷害する。

●メトトレキサートはジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR: ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への還元を媒介する酵素)を阻害し、メチルドナー(供給体)であるテトラヒドロ葉酸、5-メチルテトラヒドロ葉酸の形成を減少させ、ポリアミンの合成を減少させる(図c)。

●一つの仮説として、メトトレキサートによるトランスメチル化反応の阻害と、それによってポリアミン産生が減少することによって、下流アンモニアとH2O2の産生が減少し、それによって滑膜損傷が減少するというものである。

●ただし、関節リウマチの治療薬として直接トランスメチル化阻害薬である3-デアザアデノシンの臨床試験では効果は十分得られなかったことからは、トランスメチル化反応の阻害は炎症性疾患におけるメトトレキサートの抗炎症作用のわずかな部分しか担っていないことを意味している。

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SAH:S-アデノシルホモシステイン、SAM:S-アデノシルメチオニン、THF:テトラヒドロ葉酸

 

c:  メトトレキサートは、ポリアミンの合成を阻害する(メチルドナーである5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH3-THF)の濃度が低下しているため)。

 

 

アデノシン放出

●5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)のトランスフォーマイラーゼ(ATIC)はメトトレキサート-ポリグルタミン酸によって強力に抑制される。それによりAICARは組織に蓄積する。

●AICARはAMPデアミナーゼ(AMPDA)とアデノシンデアミナーゼ(ADA)を阻害し、細胞外空間へのアデニンヌクレオチドを放出させる。

●アデニンヌクレオチドは細胞表面酵素であるエクトヌクレオチド三リン酸デホスホリラーゼI(CD39としても知られる)と、エクト-5'-ヌクレオチダーゼ(CD73としても知られる)の作用によってアデノシンに変換される。

アデノシンはアデノシン受容体A1a、A2a、A2b、A3に強力に作用し、ほぼ全ての炎症細胞に対して強力な抑制効果を発揮する

●メトトレキサートはマウスに投与すると、アデノシンが増加し、抗炎症作用を発揮し、選択的アデノシン受容体A2a拮抗薬を投与すると、効果が減弱する実験がある(PMID=8254024)。

●アデノシン受容体A2a、A3が欠損していたり、CD73が欠損している場合はメトトレキサートは抗炎症作用を発揮しない。

 

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FAICAR:ホルミルAICAR、IMP:イノシン一リン酸

 

b: メトトレキサートを介したATICの阻害は、細胞内AICARの蓄積を引き起こし、最終的にはAMPデアミナーゼ(AMPDA)およびアデニンデアミナーゼ(ADA)の活性が低下するため、細胞外アデノシンレベルが上昇する。

 

●アデノシンの産生は、制御性T細胞(Treg)が細胞性免疫や炎症を減少させるメカニズムの一つとして考えられている(PMID=27829671)。

●アデノシンはCD39やCD73を媒介して脱リン酸化されたATPを介して制御性T細胞によって産生される。

●T細胞上のCD39が低発現だと、メトトレキサートへの反応性が下がるという報告がある(PMID=25675517)。

B細胞によってメトトレキサートを介して放出されたアデノシンは、B細胞活性化因子(BAFF)依存的に治療用のモノクローナル抗体(抗TNF抗体など)に対する免疫力の低下をもたらす(PMID=29936438)。

→抗TNF阻害薬とメトトレキサートを併用する事で抗薬剤抗体の産生抑制のメカニズムと考えられている。

●その他、アデノシンには下表のような抗炎症作用がある(PMID=27829671)。

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一酸化窒素合成酵素の脱共役

●ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)はジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への還元を触媒することに加えて、ジヒドロビオプテリン(BH2)からテトラヒドロビオプテリン(BH4)への還元も触媒する。

●メトトレキサートはDHFRを阻害する事でジヒドロ葉酸BH2の両方の還元を阻害する。

●BH4は全ての一酸化合成酵素(1-アルギニンからの一酸化窒素の生成を触媒する酵素ファミリー)に必要な補因子。

●BH4がないと、一酸化窒素合成酵素は一酸化窒素ではなく、過酸化水素などの活性酸素種を生成する。これを『一酸化窒素合成酵素の脱共役』と言う。

●増加した活性酸素種はJUN N末端キナーゼ(JNKs)を活性化し、転写因子JUNのリン酸化を増加させ、JUN-FOSヘテロダイマーアクチベーター蛋白1(AP1)の転写活性を増加させる。

●この転写因子(AP1)はアポトーシスや他の多くの細胞プロセスの重要な調整因子である。

●AP1の活性化によりTP53、CDKN1A、CDKN1B、CHEK2、BCL3、HRKなど、細胞周期の停止を誘導してアポトーシスに対する感受性を促進する蛋白をコードする遺伝子が誘導される。

●HRKは、アポトーシス阻害作用のあるBCL-2、BCL2L1と相互作用してアポトーシスを促進するタンパク質、アポトーシス・ハラキリ(apoptosis harakiri)の活性化因子をコードしており、メトトレキサート刺激に応答して T 細胞のアポトーシス感受性が増加することが説明できる。

●T細胞では、メトトレキサートはTNF刺激による核内因子κB(NF-κB)転写活性の上昇も抑制するが、これは主要な炎症性シグナル伝達経路である。

●メトトレキサートによるNF-κB活性化の阻害は、上述の経路を介してJNK依存性のp53のアップレギュレーションを介して起こる。

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BH2:ジヒドロビオプテリン

 

d: メトトレキサートによるDHFR阻害は、テトラヒドロビオプテリン(BH4)の産生を阻害し、それによって『一酸化窒素合成酵素の脱共役』として知られるプロセスで一酸化窒素(NO)の産生を減少させ、活性酸素種(ROS)の産生を増加させる。JUN N末端キナーゼ(JNK)の活性化の増加は、アクチベータータンパク質1(AP1)の活性を促進し、NF-κBの活性化を阻害する。

 

 

LincRNA-p21の発現

●新しいデータはメトトレキサートがいくつかの長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)の発現を調整する事を示している。

●一例として、長鎖ノンコーディングRNAp21(lincRNA-p21)は、CDKNIA(p21をコードする)に隣接する遺伝子によってコードされているため、その名前が付けられているが、DNA損傷応答の一部としてp53によって誘導される。

LincRNA-p21はアポトーシス阻害蛋白質をコードする多数の遺伝子の転写を抑制する事によって、p53を介したアポトーシス応答を調節する

●そのため、lincRNA-p21はアポトーシスの適切な誘導には必要である。しかし、細胞周期の調節には影響を与えないようである。

●これは、DNA損傷やその他の細胞ストレスに応答してp53によって調節される2つの中心的な経路である。

●LincRNA-p21は低酸素症によっても誘導され、Warburg効果を促進する低酸素症に対する細胞応答の重要なメディエーターである転写因子HIF1αの発現も促進させる。

●細胞質ではlincRNA-p21の追加の機能は、選択したターゲットmRNAに結合して、リボソームへの動員と蛋白質への翻訳阻害である。

●よってlincRNA-p21は様々な生物学的プロセスを調整する多機能lincRNAである。

 

p53とlincRNA-p21の両方の循環濃度は関節リウマチ患者で減少し、メトトレキサート療法中に健常者と同じレベルに回復する(PMID=25077978)。

T細胞ではメトトレキサートはlincRNA-p21の発現を誘導する(下図)。

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●T細胞におけるメトトレキサートによるlincRNA-p21の誘導は一酸化窒素合成酵素の脱共役またはアデノシン放出とアデノシン受容体の活性化の結果ではなく、DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)の活性化に依存する。

●メトトレキサートがどのようにDNA-PKを活性化するかは明らかになっていないが、DNA-PKの阻害はメトトレキサートを介したlincRNA-p21の誘導を明らかに無効にする。

●T細胞において、lincRNA-P21はNF-κBの活性を阻害するが、NF-κB の主要な構成要素をコードする遺伝子 RELA や NFKB1 を標的としたり、NF-κB 活性化につながる細胞内シグナル伝達経路を破壊したりすることはない。

●むしろ、lincRNA-p21はRELA mRNAに結合してその翻訳を阻害するため、TNFなどの外部炎症性刺激に応答して転写活性化を媒介するために利用可能なNF-κBの量を減少させる。

●この考えと一致するように、メトトレキサート治療を受けているRA患者は、メトトレキサート治療を受けていないRA患者に比べてNF-κBサブユニットp65(RELAによってコードされる)のレベルが大幅に低下している。

●このように、lincRNA-p21の誘導もRAにおけるメトトレキサート治療の有効性に寄与している可能性がある。

 

 

JAK-STATシグナル伝達の阻害

●IL-6や他の刺激は、炎症性シグナルの様々な生産を刺激する受容体関連ヤヌスキナーゼ(JAK)によるシグナル伝達物質や転写(STAT)タンパク質のリン酸化につながる重要なシグナル伝達系を活性化する。

●ハイスループットのスクリーニングデータに基づくと、メトトレキサートとそのアナログであるアミノプテリンは、ショウジョウバエ細胞のJAK1-STAT3とJAK2-STAT5転写経路を介してシグナル伝達を阻害することが示され、その後、ヒトのマクロファージ細胞でも示された(PMID=31313387/26131691)。

葉酸がメトトレキサートを介したSTAT5リン酸化の阻害を抑制できず、さらに様々な葉酸依存性の酵素をknock downしても、メトトレキサートのSTAT5リン酸化阻害効果に影響を及ぼさなかったため、メトトレキサートのJAK-STAT阻害効果は葉酸に依存しないことが示唆された(★PMID=26131691)。

●これらの細胞におけるメトトレキサート治療が、JAKを介したSTAT3やSTAT5のリン酸化を直接阻害するのか、あるいは他の細胞内因子が関与しているのかは不明である(メトトレキサートの効果の試験は全細胞でのみなされたため)。

●本報告の著者らは、メトトレキサートで治療した末梢血CD4+ T細胞、B細胞および単球では、STATリン酸化が中程度にしか阻害されなかったことを指摘しており、メトトレキサートのJAK-STATシグナル伝達に対する効果は、患者のこの炎症性シグナル伝達経路を減衰させる可能性はあるが、完全には阻害されないことを示唆している。

 

NF-κBシグナルの阻害

●NF-κB の活性化と核内転座は、多くの組織や細胞型における炎症や炎症性変化の中心的な機能を持っている。

●すでに述べたように、アデノシンは、単球、マクロファージ、内皮細胞などの様々な細胞型や組織における NF-κB 活性化の直接的な阻害を含む、メトトレキサートの抗炎症作用の多くを媒介すると考えられている。

●また、前述したように、メトトレキサートは、T細胞におけるRELAの発現(lincRNA-p21の発現促進を介して)を低下させ、BH4枯渇とJNKの活性化を促進することにより、NF-κBの活性化を阻害することができる。

●全ゲノム関連研究では、炎症性関節炎患者におけるメトトレキサートに対する好ましい反応と関連するTNFAIP3(NF-κB活性化の重要な抑制因子であるA20をコードする)の一塩基多型が同定された。

●最近の研究では、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)のみで刺激されたマクロファージが、他の刺激ではなく、チミジル酸合成酵素とp53を媒介するメカニズムを介して、メトトレキサート治療に直接反応したこと、GM-CSFで刺激されたマクロファージがメトトレキサートに反応してA20をアップレギュレートし、より『寛容』になったことを発見した。

●このように、メトトレキサート治療がNF-κBの活性化および下流の炎症性機序の発現を抑制するメカニズムは複数存在する。

●これらのメカニズムのいくつかは、特定の細胞型に限定されているよう(例えば、T 細胞におけるlincRNA-p21とA20の誘導、GM-CSFで刺激したマクロファージ、など)。一方、アデノシンは、複数の細胞型においてNF-κBの活性化に影響を与える。

 

 

細胞への作用

T細胞への効果

関節リウマチ患者のT細胞は細胞周期チェックポイントシグナルやアポトーシスに抵抗性があると言われている。

●関節リウマチでは細胞周期チェックポイントプログラムやアポトーシスに重要な蛋白質をコードする遺伝子の発現と機能が低下している。

●これらの遺伝子の発現レベルはメトトレキサート治療を受けている患者では正常または健常者と同じレベルに回復する(PMID=21618198/22183962)。

●このような遺伝子の例としては、TP53、CDKN1A、CDKN1B、CHEK2などが挙げられるが、T細胞においては、これらの遺伝子はサブマイクロモル濃度でメトトレキサートによって直接誘導され、RA患者の治療効果が示されている濃度と同程度であり、メトトレキサートによるチェックポイントのリプログラミングがメトトレキサートの治療効果に寄与している可能性が示唆されている。

●このような条件下では、メトトレキサートはT細胞の細胞周期停止やアポトーシスを直接誘導することはない。むしろ、メトトレキサートはT細胞のアポトーシスに対する感受性を著しく増大させる。

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a: T細胞では、メトトレキサートはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)を介したジヒドロビオプテリン(BH2)のテトラヒドロビオプテリン(BH4)への還元を阻害し、一酸化窒素合成酵素(NOS)の脱共役と活性酸素種(ROS)の生成を増加させる。ROSはJUNN末端キナーゼ(JNK)を活性化し、活性化されたJNKは、アポトーシスと細胞周期の進行に対する感受性を調節するタンパク質をコードする遺伝子を誘導する。T細胞では、メトトレキサートは未知のメカニズムによってDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK)も活性化し、長鎖ノンコーディングRNA p21(lincRNA-p21)の誘導を引き起こします。LincRNA-P21は、RELA mRNAの翻訳を阻害し、炎症誘発性転写因子である核内因子-κB(NF-κB)のレベルを低下させ、炎症を抑制する。

 

●このように、関節リウマチ患者のT細胞のアポトーシスに対する抵抗性は、メトトレキサート治療によって逆転する可能性がある

●また、関節リウマチ患者のT細胞では、炎症性転写因子NF-κBの活性化が顕著であるが、メトトレキサート治療を受けている患者では、この慢性的な活性が改善されている(前述の通り)。

●メトトレキサートによる慢性的に活性化したNF-κBの阻害は、メトトレキサートが抗炎症作用を持つ転写因子であるp53の発現を誘導またはlincRNA-p21の発現を誘導することに起因していると考えられる。

 

 

線維芽細胞様滑膜細胞への効果

●線維芽細胞様滑膜細胞は関節リウマチの病因にも関与しており、これらの細胞でNF-κBが高いレベルで活性化している(PMID=27881147/20193003)。

線維芽細胞様滑膜細胞におけるNF-κB活性の高さは、線維芽細胞様滑膜細胞の増殖、血管新生、炎症特性に寄与していると考えられている。

●メトトレキサートは、この線維芽細胞様滑膜細胞におけるNF-κB活性を阻害する。

●しかし、メトトレキサートは、BH4枯渇や一酸化窒素合成酵素の脱共役を介して線維芽細胞様滑膜細胞のNF-κB活性を阻害するのではなく、むしろメトトレキサートによって刺激されたアデノシンの放出とそれに続くアデノシン受容体の活性化が、線維芽細胞様滑膜細胞における高いベースラインレベルのNF-κB活性を阻害しているようである。

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b: 線維芽細胞様滑膜細胞では、メトトレキサートもNF-κB活性を阻害するが、この効果は、5-アミノイミダゾール-4-カルボキサミドリボヌクレオチド(AICAR)トランスフォーマイラーゼ(ATIC)の阻害、アデノシン放出の増加、および同じ細胞上のアデノシン受容体の活性化を介して発生する。 結果としてNF-κBの阻害とそれに続く抗炎症作用が引きおこる。

 

●T細胞と線維芽細胞様滑膜細胞の間でメトトレキサートに対する反応が異なるのは、一酸化窒素合成酵素の量が異なるためと考えられ、T細胞一酸化窒素合成酵素活性が高く一酸化窒素合成酵素脱共役経路が優勢であり、線維芽細胞様滑膜細胞一酸化窒素合成酵素活性が低くアデノシン-アデノシン受容体経路が優勢である。

●このように、メトトレキサートは線維芽細胞様滑膜細胞においてもNF-κB活性を阻害することから、関節リウマチの治療効果が期待できると考えられている。

 

 

単球への効果

●メトトレキサートの効果は、単球細胞株でも検討されている81。T細胞やFLSとは対照的に、単球はメトトレキサートに反応してアポトーシスを起こす。

●さらにメトトレキサートは、単球細胞株においてIL-1、TNF、IL-6を含む炎症誘発性サイトカインの発現を用量依存的に増加させる(PMID=24444433)。

●メトトレキサートによるこれらの炎症性サイトカインの誘導は、ジヒドロ葉酸のテトラヒドロ葉酸への還元を阻害することによるものであり、BH2のBH4への還元や一酸化窒素合成酵素の『脱共役』やアデノシン受容体シグナル伝達の促進を阻害することによるものではないと考えられている。

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c: 単球では、メトトレキサートはアポトーシスを促進し、DHFRを介したジヒドロ葉酸(DHF)からテトラヒドロ葉酸(TTF)への還元の阻害を介して発生する可能性のある、未知のNF-κB依存性メカニズムを介して炎症誘発性サイトカインの発現を増加させることができる。

 

●この効果は臨床的に意味を持ち、これらの炎症性サイトカインによって媒介される可能性のある粘膜の炎症肺炎などのメトトレキサートの副作用のいくつかを説明するのに役立つ。

●アデノシンはまた、アデノシン受容体の刺激を介して単球の機能を制御しているため、メトトレキサートは他の細胞からのアデノシン放出を促進することにより、単球に間接的に影響を与える可能性がある。

●ヒト末梢血単球におけるアデノシン受容体A1へのアデノシンの結合は、多核巨細胞の形成を刺激する。

●さらに、単球上のアデノシン受容体A2aやA3へのアデノシンの結合は、TNFおよびIL-6の合成および放出を阻害し、炎症性M1単球から抗炎症性M2単球への移行を促進する。

 

 

メトトレキサートの毒性

●メトトレキサートの低用量を長期投与することによって起こる毒性作用の多くは、メトトレキサートの抗葉酸に起因していることは明らかである。

●これらの毒性作用には、末梢血白血球数の減少口内炎脱毛が含まれ、おそらくメトトレキサートが媒介する細胞増殖の阻害に起因する。

●これらの毒性作用の多くは、メトトレキサートと葉酸が細胞内への取り込みのために同じトランスポーターを競合するため、葉酸またはフォリン酸の併用投与(メトトレキサート投与日を除く)によって防ぐことができる。

●対照的に、メトトレキサートの毒性作用の多くは、おそらくメトトレキサートが媒介するアデノシン遊離に起因するものと考えられる。

●これらのアデノシン関連の毒性作用の中には、メトトレキサート投与当日に多くの患者が経験する疲労(アデノシンは脳内で放出され、中枢神経系のアデノシン受容体と結合して睡眠を促進する)(PMID=8330191/7648513/8874980)、リウマチ結節(PMID=9214432)、肝線維症(PMID=16783407/17872970)などがある。

 

治療的意味合い

●メトトレキサートは、関節リウマチやその他のリウマチ性疾患の治療に最も一般的に使用されている薬物である。

●経口投与されたメトトレキサートのバイオアベイラビリティーは限られているため、多くの患者は、メトトレキサートを非経口的に投与するか、1日に1回の経口投与ではなく、1日の間に薬剤を分割して投与することで、より良い反応を得ることができると考えられている。

葉酸の投与が治療効果に影響を与えることなく、メトトレキサート療法に関連する毒性作用の多くを防ぐことができることが実証されているため、ほとんどの臨床医がメトトレキサートと一緒に葉酸を処方するようになり、メトトレキサート関連の副作用の有病率が減少したという結果が出ている(PMID=7978695/2405864/8484704/9041955)。

●現在、炎症性関節炎のほぼすべての患者には、禁忌薬がない場合にはまずメトトレキサートが投与され、患者が反応しない場合には別の治療法、通常はメトトレキサートとの併用療法が処方されている。

●すべての患者がメトトレキサートに反応するわけではないので、どの患者が反応する可能性が高いかを予測することができれば、より効果的に患者に適切な治療法を処方して疾患活動性を低下させ、毒性のある可能性のある薬剤への不必要な曝露を減らすことができるようになる。

●本レビューで述べたいくつかを含め、メトトレキサート反応の遺伝的マーカー(TNFAIP3)を特定することに大きな期待が寄せられていたが、現在までのところ、予測可能な因子やバイオマーカーとして明確に検証されたものはない。

●候補遺伝子研究とゲノムワイドな関連研究の両方で、メトトレキサートに対する良好な反応に関連する様々な潜在的な遺伝子変異が同定されているが、これらの関連性は他の集団で試験した場合には再現可能ではないようである。

●最近では、関節リウマチ患者の全血のトランスクリプトームデータを機械学習解析した結果、多くの炎症経路に関与する遺伝子(特にI型インターフェロンに対する反応に関与する遺伝子)の発現がメトトレキサート反応の潜在的な予測値となることが示された。

●他の研究では、メトトレキサートの反応を予測するのに有用な臨床マーカーや検査マーカーの定義を試みている(以下の表)が、同定されたマーカーは様々な研究で一定ではないようである、おそらくエンドポイントが異なるためであると考えられる。

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まとめ

●メトトレキサートの作用機序には以下が含まれる

①ATICの阻害

 →炎症、免疫機能を抑制するアデノシン放出増加を介して炎症反応を抑制する

②DHFRの阻害

 →プリン、ピリミジン合成低下

③DHFRの阻害を介したJNKの活性化、BH2からBH4への還元の減少

 →一酸化窒素合成酵素の脱共役、活性酸素種の産生の増加

 →T細胞のアポトーシスに対する感受性増加

LncRNAであるlincRNA-p21 の発現増加

 →LincRNA-p21は様々な炎症プロセスの直接的、間接的調整作用を持つ

⑤NF-κB、JAK-STATシグナル経路の直接的阻害、アデノシンを介した間接的阻害

 

※上で葉酸と拮抗するものはでそれ以外はで示しました。全ての作用が葉酸で抑制されるわけではない事は重要で、例えばアデノシン放出による抗炎症作用は葉酸を服用していても有効であるため、副作用が心配な患者では積極的に葉酸製剤を使用したいですね。

 

●メトトレキサートは、細胞特異的なシグナル伝達経路を調節することにより、T細胞、マクロファージ、内皮細胞、線維芽細胞様滑膜細胞など、関節リウマチの病因に関与する主要な細胞系統の重要な炎症誘発性を阻害する。

→例えばT細胞:アポトーシスに対する感受性の増加およびNF-κB活性の阻害

        アデノシンの分泌を介したTreg細胞によるT細胞活性の抑制

 

【参考文献】

Bruce N Cronstein, et al. Nat Rev Rheumatol. 2020 Mar; 16 (3): 145-154. ”Methotrexate and its mechanisms of action in inflammatory arthritis” PMID=32066940

NPSLEの認知機能障害は血液脳関門の漏出と関連する可能性!?

認知機能障害は全身性エリテマトーデス(SLE)の神経精神症状の一つです。そのメカニズムには血栓性脳血管虚血、脳に対する自己抗体、補体活性化が挙げられています(PMID=29927108)。

 

これら自体が血液脳関門に傷害を加える可能性があり、それによって血液内の神経毒性のある物質が脳へと届いてしまう結果、神経精神症状が起こると考えられてきました。

 

動物実験モデルでは血漿蛋白質(アルブミン、トロンビン、活性化プロテインCなど)、さらには自己抗体が血管外、脳組織へと漏出して、神経炎症、神経変性を起こすという事が知られています。

 

しかし、ヒトでは理論こそあれど、それの証明はされていませんでした。

 

今回ご紹介するのは、ニューロイメージング技術を用いて、血液脳関門の漏出を同定し、それが認知機能障害に関連する事を示した論文です。

 

 

患者背景

65名のSLE患者(1997年のACR分類基準を満たす)と健常者9名を比較しています。

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白人女性がほとんど9割を占め、罹患年数の平均値は15年。今まで神経精神症状を呈したことがあるのは77%でした。神経精神症状がSLEに関連していたのは23%でした。

 

 

血液脳関門からの漏出の可視化

次に示すのは、血液脳関門からの漏出を画像的に解析したものです。

Aでは健常者とSLE患者の脳のMRIを示しています。赤い部分血液脳関門からの漏出を示す部分です。

 

こうして見ると同じSLE患者でも1番から3番の患者さんのように漏出が少ない方4番から6番の患者さんのように漏出が多い方がいる事が分かります。

 

Bはそれらを統計的に比較したものです。健常者と比較するとSLE患者全般で血液脳関門からの漏出が有意に多い事が分かります。しかし、SLE患者を漏出が少ない方と漏出が多い方に分けると、漏出が少ない方は漏出割合がほとんど健常者と変わらないのに対して、漏出が多い方は有意に漏出割り合いが高い事が分かります。

 

つまり、血液脳関門の漏出はSLE患者全体ではなく、一部の方がものすごく漏出しているという事が分かります。

 

 

血液脳関門漏出量と灰白質

次に脳の灰白質の量を23の領域で比較したものをお示しします。

白枠▢は健常者、赤枠▢はSLEで血液脳関門からの漏出が少ない方、赤塗■血液脳関門からの漏出が多い方です。

 

こうして見ると、血液脳関門からの漏出が少ないSLE患者は脳の灰白質量は健常者とほとんど変わりませんが、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は灰白質量が有意に少ない領域がある事が分かりました(A)。

 

Bでは血液脳関門からの漏出を比較していますが、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は脳の23領域全てで、健常者や漏出が少ないSLE患者と比べて違いがある事が分かりました。

 

 

血液脳関門漏出量と認知機能障害

続いて、認知機能障害についてお示しします。

Aは様々な認知機能を示しております。SLE患者で血液脳関門からの漏出が多い方は少ない方と比べて遅延想起が悪く(左から4番目: Delayed recall)、平均の認知機能のスコアが低い事が分かります(一番左: Mean cognitive score)。

 

Bでは血液脳関門からの漏出が多いSLE患者は認知機能試験で1つ以上間違う率が高い事が示されています。

 

以下に血液脳関門からの漏出が多いSLE患者と少ない患者の交絡因子をお示しします。

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これを見ると、血液脳関門からの漏出が多いSLE患者では喫煙者が有意に多い事が分かります。

 

My comments

●今回の結果は、あくまでもSLE患者の一部に血液脳関門からの漏出が多い方がおり、血液脳関門からの漏出が多い事は、灰白質量の減少と認知機能障害と関連する可能性がある事を示したものです。

●これは血液脳関門の障害が存在する事を示した初めての論文です。

血液脳関門が傷害されていると、血液内の有害物質が脳に到達し、神経精神症状を引き起こす理論が成立するわけです。

●シンプルな研究で大きな結果(仮説の証明)を導き出した事はすごいです。

血液脳関門からの漏出が多い方に喫煙者が多い事は、たばこによって血管の障害が起こっている可能性が示唆されます。

●SLE患者さんが全員神経精神症状を起こすという事を示すものではなく、過剰に心配する必要はありません。

 

【参考文献】

Lyna Kamintsky, et al. Ann Rheum Dis . 2020 Oct 1;annrheumdis-2020-218004. "Blood-brain barrier leakage in systemic lupus erythematosus is associated with gray matter loss and cognitive impairment" PMID=33004325

意外に多い関節リウマチ患者の足痛~アンケート調査から~

関節リウマチで、手指や手関節の滑膜炎は、臨床医がしばしば気にかけている部位だと思いますが、一方で足病変は外来をしていても、ついつい忘れてしまう事が多いかもしれません。

 

そもそも臨床医が関節リウマチの活動性を評価するための指標であるCDAISDAIDAS28では、下肢の病変の評価は膝までで、それよりも遠位の関節炎の評価は含まれていませんし、忙しい外来では、いちいち靴や靴下を脱ぐ事は、医師にとっても患者さんにとっても大変という事があると思います。

 

しかし、患者さんの声に耳を傾けてみますと、実に多くの患者さんが足症状を訴えている事が分かります。

 

イギリスで行われた585名の関節リウマチ患者へのアンケート調査(1)によると、90%以上の方で今まで一度は足痛を自覚した事があるとのことです。

 

下図は調査時、調査1か月以内、今までに分けて自覚した事のある疼痛部位をまとめたものです。

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これを見るといずれの状況でもMTP関節を含む前足部痛の自覚が多い事が分かります。

 

また、本文中では、発症2年以内の早期の関節リウマチ患者でも足痛の自覚は90%に及ぶと回答されています。

 

一方で、患者さんから見て、医師が手の診察を最後にしたのが平均で6.2か月前であることに対して、足の診察を最後にしたのが平均16.5か月前と、医師による足の診察の頻度が低い事が露呈されました。

 

もちろん、患者さんへのアンケート調査になりますので、足痛が関節リウマチ病変なのかは定かではありませんし、記憶に基づく回答ですので、間違いや多少の脚色が付く可能性は否定できませんが、このように患者さんが感じている事は真摯に受け止めなくてはいけないと考えます。

 

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ちなみに多変量解析を行うと、最近の足のこわばりしびれが足痛に関連するリスクとして挙げられました。合わせて問診したいですね。

 

なお、滑膜炎だけでなく、以下の足の問題も重要視していきましょう(2)!!!

足の構造上の変形:外反母趾、鉤爪趾、扁平足など

皮膚の問題:角化症、皮膚硬結、潰瘍、乾皮症、水虫など

爪の問題:爪甲剥離症、爪甲縦条など

 

【参考文献】

(1) Otter SJ, Lucas K, Springett K, Moore A, Davies K, Cheek L, et al. Foot pain in rheumatoid arthritis prevalence, risk factors and management: an epidemiological study. Clin Rheumatol. 2010 Mar;29(3):255–71. PMID=19997766

(2) Stolt M, Suhonen R, Leino-Kilpi H. Foot health in patients with rheumatoid arthritis—a scoping review. Rheumatol Int. 2017 Sep 1;37(9):1413–22. PMID=28324133